補足事項
  1. 佐々木ら1)は,アイソトープを使った研究により,嚥下反射・咳反射の低下した老人の場合,睡眠中に約70%に不顕性の誤嚥がみられ,この不顕性誤嚥を繰り返すうちに肺炎を起こしてしまうという誤嚥性肺炎が,老人には多いと報告し,さらに,当然,口腔内雑菌をも誤嚥するため,口腔ケアは,老人性肺炎予防の日常的なケアの1つと考えられると述べている。また,誤嚥性肺炎の原因菌は,口腔常在菌とくに口腔嫌気性菌と一致するといわれている2),3),4),5)。さらに,米山6)は,実際に特別養護老人ホームで,口腔ケアを行った期間と,口腔ケアを行わなかった期間を比較すると,口腔ケアを行った期間のほうが発熱日数が少なかったと報告している。                                                                                                     
  2. 介護支援専門員標準テキストには,口腔ケアと誤嚥性肺炎の関連については,呼吸器疾患・肺炎(1巻 p223),口腔ケアの基礎知識(1巻 p284),摂食・嚥下障害(2巻 p20)の中に僅かに記載がみられるのみであり,介護支援専門員に,誤嚥性肺炎の予防という観点から,口腔ケアの重要性を認識してもらうには不十分である。改訂版に期待したいところである。                                                                     
  3. 8020運動(日本歯科医師会が奨めている80才時に20本以上の歯を残そうという運動)を奨める臨床家としては,老人の残存歯が誤嚥性肺炎の発症にかかわっていることは複雑な心境である。                                                                        
  4. 奥田4は,抗う蝕作用で話題になっているキシリトールが,咽頭に多く,肺炎の起因菌となる肺炎レンサ球菌,A群レンサ球菌,口腔のどの部位からも検出される Streptococcus mitis,インフルエンザ菌などの発育を抑制することから,肺炎の予防にも有効であるかもしれないと,興味深い報告をしている。                                                                       
  5. 奥田4)は,口腔内細菌の減少をもたらす抗菌性洗口剤として,リステリン液,クールミントリステリン液,ポビドンヨード剤(イソジンガーグル),塩化セチルピリジニウム(CPC),トリクロサン,臭化ドミフェン(オラドール含嗽液)などを推奨している。                                                                      
  6. 実際の口腔ケアの参考になる論文としては,牛山京子氏の「現場から学ぶ訪問口腔ケアのABC」(歯界展望 Vol.90 No.2 1997年8月号 p 301-323 )や太田昌子氏の「特別養護老人ホームにおける口腔ケア」(歯界展望 Vol.91 No.6 1998年6月号 p 1304-1311)などがある。また,愛知学院大学サイトhttp://www.aichi-gakuin.ac.jp/~oralcare/index.html では「目で見る口腔ケア−口から始まるクオリティオブライフ−」として,厚生科学特別研究事業の成果を発表している。このサイトでは,実際の口腔ケアに関する多くの情報を得ることができる。                                                                      
  7. 口腔ケアに関連して,奥田)はスケーリング(歯石除去)などの予防的処置は,専門的口腔清掃の基本的な処置であるが,大量の細菌を血液中に送り出してしまい,とくに易感染性宿主(要介護人)にとっては,リスクの高い医療行為であり,術前の徹底した消毒が必要としている。                                                                      
  8. 藤島8)は,その著書「脳卒中の摂食・嚥下障害」の中で,口腔内常在菌と肺炎(誤嚥性肺炎)との関係について,「口腔内の分泌物が誤嚥されて肺炎になる」と常識的に信じられているが,誤嚥性肺炎の起炎菌診断は必ずしも容易ではなく,傍証はたくさんあるが,決定的な証明はなかなか困難であると述べている。                                                                      

 参考文献
  1. 佐々木英忠他:口腔・咽頭の機能低下と誤嚥性肺炎.厚生省厚生科学研究費補助金長寿科学総合研究,平成6年報告書,Vol.4,140-146
  2. Bartlett,J.G. et al.:The bacteriology of aspiration pneumoniae. Am.J.Med.,56:202-207,1974.
  3. Finegold,S.M.:Aspiration Pneumonia. Rev.Infect.Dis.,13(Suppl 9):S737-742,1991.
  4. 奥田克爾:老人性肺炎と口腔細菌.日本歯科医師会雑誌,Vol.49(9):4-12,1996.
  5. 三宅洋一郎:誤嚥性肺炎の発症における口腔細菌の役割と細菌学的にみた口腔ケアの意義.歯界展望,Vol.91(6):1298-1303,1998.
  6. 米山武義:口腔ケアと誤嚥性肺炎.Geriatric Medicine,35:167-171,1997.
  7. 奥田克爾:命を狙う口腔細菌.歯界展望,Vol.91(6):1288-1297,1998.
  8. 藤島一郎:脳卒中の摂食・嚥下障害 第2版.医歯薬出版,東京,1998.