丘に登ったカメ吉くん


明日香とカメ吉くん

「カメ吉くん死んじゃった。」
明日香は、泣きそうな顔で私を見上げていた。
昨日あんなに元気に水の中を泳ぎ回っていたカメ吉くんは、
ピクリともせず、哀れな姿で水の中に浮かんでいた。
「引き上げてあげて・・・・。」
明日香もじっと見守っている。
私は、そっと手をさしのべて、
小さなミドリガメのこうらをつかんだ。

私の指が、その小さなこうらに触ったとたん・・・・

さっきまで色あせて見えたカメ吉くんの体は、急に血が通ったように、みどり色になって、
いきなり手足をクルクル動かし始めた。
「わあい!いきかえったよ。」
「すごいや。さわっただけで、いきかえらしたもん。」


おーい カメ吉くーん

さっそく、買ってきた砂利を水槽に入れてやる。
ザラザラ。砂利を水槽に入れて洗い、水を換える。
そして、水槽の中に半分くらいの小さな丘が出来上がった。
「これで安心ね。」「エサもやっとこう。」
カメ吉くんは、例によってクルクルクルクル手足を動かしている。
「カメ吉くん号、エサ食べない。」
「そりゃそうさ。まだ、慣れてないんだから。」
ところが、1日、2日。カメ吉くんは、エサを食べないのである。
それどころか、水から上がって丘の上にじっとしている。
「ホームセンターのエサおいしくないんかなー。」
明日香は、また、私の顔を見上げている。
「そのうち食べるさ。」
私の苦しい返事にに、明日香は納得しない。
そして、何日たってもカメ吉くんは丘の上で、じっと首をもたげて上を見ているのである。
はるかかなたの空を見つめているように、カメ吉くんは天井を向いている。
おーい。カメ吉くーん。どしたんだーい。
カメ吉くんの行きたかったところは、こんなんじゃなかったのかーい。
・・・・