カメ吉ひとりごと



「テレビのドラマみたいですね。ドキドキするわあ。」
松井(仮名)さんは、少し興奮した口調で言った。
「しかし、こんなことが実際あるんですねえ。」
藤波(仮名)さんは、表情をこわばらせて言った。
早朝、朝市で、午後は市民会館前で、署名活動にはげんだ後の会話。
署名活動に参加した人たちは、皆、知的障害を持った子どもたちの親である。
もちろん、松井さんも藤波さんも、そのうちのひとりだった。


そもそも
保護者の願いは、ひとつ。「私たちの子どもの学校をなくさないで!」

親なら当たり前に思うこと、そして、特別に願わなくてもかなうこと。この国では、義務教育制度というものがあり、みんな学校へ行かなくてはならないらしい・・・・。しかし、その当たり前のことが、一生懸命に願い、訴えなければならないという・・・・。そもそも、そこから何かおかしい。


それって
S学園は、知的障害児の通う施設。でも、ちょっぴり複雑で、児童施設ながら小学校、中学校の学級がある。
みんなどの子もかわいくて、それぞれに、それぞれのペースで毎日を過ごしていた。かなり以前に建てられた建物らしく、かなりのボロ。それが保護者も職員も悩みのタネだった。そんなある日、嬉しいニュース!
学園を新しく建て替える。なんて素敵な計画なんだろう。保護者もみんな大喜び。しかし、・・・・?
「新しく建てるのは、幼児さんと高等部だけで、小等部、中等部はわからないんだって。」 それって・・・・。


どうする?
「なくなるかもしれないって、どういうこと?」
「まだなくなるって決まったわけじゃないよな。」
「そんなの、今なくなったら、うちの子どこに行けばいいの?」
「うちの子だって、いつまでも幼児じゃないよ。小等部なくなったら困る。」
こんな会話が、そこここでされるようになった。まだなくなると決まったわけではないと楽観的な人、他の学校へ行くからと客観的な人、そんなの絶対困ると必死の人。
いろんな人がいるけれど、みんな『どうしたらいいのか分からない』という点では一致している様子。
・・・・どうする?


がんばってください
このまま、じっとしていては、どうにもならない。言われたことをただ受け入れるだけの弱虫から抜け出そう。「親が強くならなければどうする」みんなの思いは固まった。
でも、どこに言う?何をする?一番効果的なのは?
なんでも、保護者が強く要望していくことが、一番大切とのことだった。そして、活動の始まり。我が子のためにハチマキ姿で頑張る親たち。
しかし、フタを開けてみれば・・・・活動に参加しているのは保護者ばかり・・・・。で、職員はごくわずか。なんか寂しい。なんか悲しい。
「言ったじゃない・・・・『がんばってください』って。」
何???
一緒には、頑張れないって、こと?
・・・・。