4.機械の特性

1.作業能力

 (1)架設撤去

 (2)集材能力

 (3)人力で行う作業の能率

 (4)プロセッサ導入の可能性

2.安全管理

 (1)索の張力管理

 (2)先柱アンカーとガイラインアンカーの強度

 (3)索のトラブル

 (4)安全とコミュニケーション


1.作業能力

 小型タワーヤーダを含めた架線系の集材システムではシステムの能力は搬器の積載量と走行速度に依存するといわれます。小型タワーヤーダの場合、搬器の積載量と走行速度のどちらもが既存の集材機作業システムより優れているわけではなく、かえって劣っています。そのためプロセッサのように従来の作業と比較して飛躍的な能率向上はありません。しかし、架設撤去の容易さと運転操作の負担の少なさはそれを補って余りあるものがあります。
   表−1 一般的な従来型架線(エンドレスタイラー)との比較

 方式   

  最大集材距離m

  搬器速度m/分

積載量m3

架設撤去 人工

エンドレスタイラー 

800程度

180 

0.9

22.0

小型タワーヤーダ

300

60

0.4

0.7

*エンドレスタイラーの積載量、架設撤去人工数は300mスパンの一般的なものを想定。その他は調査事例等の一般的なもの

  (1)架設撤去

 架設撤去には特別な技能を要しません。ただし、架設作業が機械の作業前点検をかねることが多いので機械構造や作動原理、ワイヤーの保守に関する知識が必要です。

 架設作業は2名作業が可能、3名作業が合理的であるが人数が多くてもこれ以上の時間短縮はあまり期待できません。

 

 

タワーの立ち上げ

先柱セット

約20分

ワイヤー繰り出し

20mごとに約1分

= 

総架設時間

                 *撤去作業は15〜20分で実行できる。

  (2)集材能力

 最大集材距離および最大搬器速度はカタログでそれぞれ、200m、100m/分となっているが、調査事例、作業者の経験等から実用的な限界は集材距離150m,平均搬器速度60m/分程度でしょう。傾斜にもよるが、特に下げ荷の場合、100mを越えるとラインを引き出すための作業者の負担が大きく人力による架設が困難になることがあります。

 積載量はランニングスカイライン方式のため地面の障害物、傾斜、起伏、垂下比の取り方で大きく異なり、おおむね全木で2〜3本、材積で0.2〜0.4m3程度である。これは集材対象木の太さによって大きく変動するが大まかな目安は次のとおりです。

  表−2 小型タワーヤーダの集材能力

  

集材距離  

時間当たり集材量(上段)と1日の集材量(下段)
m3

上げ荷   

  下げ荷

  50m

  4〜 8

  3〜 6

20〜40

15〜30

100m

 3〜 7

 2〜 5

15〜30

10〜25

   *1日の実稼働時間はおおむね5時間程度である。

   *基本的な3人作業を想定

 

ただし、間伐の場合は頻繁な架線の張り替えをすると実集材時間はこれの80〜60%程度に低下するためこれに応じて集材量も少なくなります。
 以上に述べたことは大まかな目安であり、集材線の設け方、地形、伐採方法などによって大きく変動します。これを的確に推定するには調査事例が少なくまだ正確な予測値を示すことができません。

 

なお、従来作業との比較では、宮城県林試の調査(2) で従来作業(主間伐47事例)に比較して約4.7倍の能率を上げているとしています。

・集材距離と集材能率

 集材能率に影響する要因には、荷掛け時間、搬器の積載量、搬器走行時間など多くのものがある。このうち集材距離によって最も左右されるのが搬器速度と集材距離によって決まる搬器走行時間です
 そこで、集材距離と時間当たりの集材材積を調査データから試算しました。(図−1)この図が示すように実用的な集材距離である150m以下では集材距離が短いほど能率の向上が指数的に大きくなることがわかります。

 このため、搬器速度の遅い小型タワーヤーダによる集材作業は集材距離を短くする工夫が能率向上に貢献します。
 なお、ここで搬器速度が2倍に増加したとして試算したものも示したが、集材距離が大きくなると搬器速度の差がほぼ能率の差になってゆくことがわかります。

・全木、全幹、短幹による作業効率の違い
 全木と全幹では具体的に実際の現場の作業を比較検討した例はないが、実証試験で作業を行った経験では両者の作業効率にはほぼ差がありませんでした。 全幹と短幹については同一の現場で比較検討したところ、作業の各要素の時間は異なるが全体の能率はほぼ同じでした。

  表−3 全幹と短幹(3m)による能率の違い(作業例)

 区分

総本数

回数

材積
 m3

 作業時間 分

能率 m3/人・日

全幹

 24

19

5.04

  93   

 6.50

短幹

 85

19

5.19

  87   

 7.16

 実証試験(詳細はZ資料参照)の集材作業において、全幹、短幹別に要素作業の時間観測を行ない、集材方法別に比較しました。(図−2)全体では全幹材と短幹材で集材効率にほとんど差がなかったが、荷掛け時間(方向転換等の荷掛け直しを含む)は全幹材が5割ほど余分にかかり、それ以外の要素作業で少しづつ補って全体で短幹材と同等になっていました。
 これは全幹材は材の向きをうまくととのえないと残存木に損傷を与えるため慎重な作業になり時間がかかるが、いったん集材線上に乗ると地面についた梢端部が舵の役目をして安定するため高速で運転しやすいことによります。また、短幹材はスリングが多くなり荷はずしに手間がかかるなどによるものでした。

・横取り距離と全体の集材効率

 作業の能率は横取り作業の能率に大きく左右される。このため係留式の搬器を工夫したり様々な方法が試みられています。しかし、基本的には架設撤去が簡単であるというメリットを最大限生かすよう、頻繁な張り替えをするのが有効です。
 今後はプロセッサが導入され全木での集材が中心になると思われるので、その場合を想定し、全幹集材の例を元に横取り距離と集材効率を実証作業(詳細は資料Z)の例から検討してみました。全幹集材の例では、明らかに横取り距離が増えると荷掛け時間が増えるので、これを5m未満とそれ以上に区分してみました。(表−4)

    表−4 横取り距離と集材効率

   

横取り距離

回数 

 集材時間

1回あたりの集材時間

5m未満

 9 

  710秒

   78.9秒

5m以上 

 7 

1,199秒

  171.1秒

 このように横取り距離によって大きな違いがみられました。この原因は、歩行時間や、横取りの引き込み時間が増えるばかりでなく、材が根株にかかりスリングの掛け直しを必要としたりしたためでした。これは、今回とほぼ同様の小型タワーヤーダを用い、玉切った材を集材して調べた酒井ら(7) の報告でも5m程度を境に横取り、索の張り上げ時間が大きく増加しており短幹でも同様の傾向になっています。

 この違いが実際の現場でどのように全体の効率に関わってくるかを図−3で示すモデルで試算しました。

 

 伐区  100m×100mの方形で面積1haとする。

 集材線  伐区の1辺と平行に移動しながら張り替えるとする。

 横取り距離を5m以下にする場合は集材線の間隔10m、10本。

 横取り距離を10m以下にする場合は集材線の間隔20m、5本。

 架線の移設の所要時間は今回の例のとおり25分とする。

 間伐本数 立木本数 2400本、間伐率30%で間伐本数720本

 伐区内に均等にあるものとする。

 作業時間は、荷掛けと移設以外は横取り距離によって差がないとして、集材線の間隔別の移設時間と荷掛け時間の合計を試算した。

 

 この試算では20m間隔で集材した方が7時間10分も余分な作業時間がかかる。(図−4)このように、今回の調査事例のように横取り距離が大きくなり荷掛け時間が相当増える場合は、集材線を頻繁に張り替えて横取り距離を小さくした方が全体の効率は良くなることがわかります。

 実際の現場はこの例のように単純ではなく、立木密度、傾斜、林床の植生やタワーヤーダの設置位置と先柱位置の制約などがあり単純には比較できません。しかし、小型タワーヤーダの集材線移設が簡単であるというメリットは、ランニングスカイライン方式でもともと横取りが不得意であるというデメリットを補って余りあるので、これを積極的に活用するのが全体の効率アップに有効です。

  (3)人力で行う作業の能率

 伐木作業は胸高直径10〜20cm程の林分での調査結果ではおおむね表−5のような能率でした。

   表−5 伐木作業の能率(1人1日あたり)

  

  

  

伐採区分 

 伐採本数 

 伐採材積 m3

 間伐  

 皆伐  

30〜40 

40〜60 

 6〜8

 8〜12

    *材積は0.2m3/本の場合

    *補助作業を含む

    *枝払いも同時に行うとすればこれの20〜50%の能率となる。

 なお、枝払い、玉切りはなるべく林内では行わないのが安全上も能率的にも有利です。

  (4)プロセッサ導入の可能性

 足場の悪い林内で枝払いから玉切りまでをすべてこなすのは労働強度の点からも安全性の点からも問題が多いので、できれば全木で集材してプロセッサで処理する方法が望ましいでしょう。
 しかし、現実にはまだプロセッサの導入は進んでいないので全幹で集材し作業のしやすい場所で枝払い玉切りをするような方法をなるべく工夫したいものです。大径材の場合などは短幹で集材することもあるが、特定の集材方法にこだわらずいろいろな方法を状況に応じて使い分ける工夫がもっとも必要です。

 岡山県におけるプロセッサの本格的な稼働はまだであるが、鳥取、山口の両県と共同で行った調査例を参考に示す。

 調査地  兵庫県宍粟郡千種町

 作業対象 スギ 50〜70年生、樹高12〜22m、平均胸高直径 16cm

 集材方法   エンドレスタイラー 有効スパン330m

 データ収集は2日間行った。

 2mあるいは3mの丸太1本当たりの平均処理時間は約35秒、つまり20m程度の全木を2分程度ではい積みまで処理しており(図−5)、1時間当たり30本の全木を処理できる。1日6時間稼働したとすると、1本が0.2m3の材であれば36m3の処理能力があることになる。

 この調査では集材機との組み合わせで作業時間内の44%が待ち時間となっており、大型の集材機といえども集材が追いつかない状態であり、プロセッサをフルに稼働させるには作業内容の根本的な改善が必要である。(図−6)


 2.安全管理

  (1)索の張力管理

 ・スカイライン方式の場合

 RME−200Tはスカイラインも装備しているが、架設撤去の煩雑さからほとんど使用されることはありません。スカイラインを用いる場合は架線設計を行い安全管理を行う必要があります。小型タワーヤーダの場合これを利用するメリットがある現場が無くほとんど用いられることがないので考察は省略しました。

 ・ランニングスカイライン方式の場合
 材を完全につり上げず、地引きに近い使い方が基本であるため、傾斜、障害物などによって必要な牽引力が変化する。そのため簡単に計算で最大積載荷重を求めることができない。そこで、作業索の最大牽引力を索の許容張力以内に設定し作業を進めることが必要になります。

 この作業索にはJISA種6×19 9mm、切断荷重4,740Kgのものが使用されており作業索の安全率を4とすると1,115Kgが許容最大荷重となる。ところがこの作業索の最大牽引力は1,800Kg(カタログ値)とされており、最大牽引力で作業すると張力が過大となる。また、谷越しの地形の場合などは谷部で材が宙吊り状態となることもあり牽引力以上の張力が発生することもある。

 現在は経験的に牽引時のエンジン音の変化や索の挙動などから張力のかかり具合を判断しているが安全作業のためにはこの張力を作業中に知ることのできる装置を装備して作業を進める必要がある。材をつり上げないので作業索が万一切れても大した事故にはならないといわれるが、トラブルは大きな能率低下の要因となり、安全で快適な作業をめざすという機械化の目的に反するものである。 このため、常時索張力を表示し警報を出せる装置が是非とも必要です。

安全を作業者の注意力に頼ってはいけない。

機械そのものが安全でなければならない。

  

(2)先柱アンカー,ガイラインアンカーの強度

 ・先柱アンカー

 根株や立木をアンカーとして使用する場合の強度については多くの試験から経験式が求められている。これらによると根株直径30cmで4〜6tの強度があるとされておりこの程度のものを用いれば一応安全と考えられる。しかし人工林の間伐の場合アンカーに利用できるのは同じ林内の立木の場合が多く、そのアンカーとしての強度はかなり低いので注意が必要である。実験ではスギの胸高直径12cmのものでは小型タワーヤーダの先柱アンカーの必要強度の半分以下、14cmでほぼ必要強度、16cmではほぼ2倍という結果でした。(図−7)

 立木あるいは根株の強度は太さの2乗に比例することが知られている。これは人間の感覚と食い違うことが多く注意が必要です。実際に直径14cmと16cmでは感覚的にはそれほど強度に違いがないように見えるのです。

 特に間伐対象の立木の場合、間伐期の立木の太さはちょうど必要強度の限界点付近であり慎重にアンカーとなる木を選ばなくてはなりません。そして、作業中にアンカーに用いた根株を観察して負荷によって浮き上がったり揺れていないか確認する必要があります。幹のしなりによる揺れはあまり危険でないが根株の浮き上がりは危険です。

 ・ガイラインアンカー

 ガイラインアンカーの場合は固定する根株の強度そのものも重要だが、2本のガイラインの張り方によってかかる負荷が大きく異なることに注意が必要です。図−8に示すように張り上げ角度、開き角度によって各ガイラインにかかる負荷が大きく変化する。根株の位置などによってどうしてもアンカーの位置が決まることが多いが、どの様に張れば負荷が小さくなるかを考えて現場の設定を慎重に行なう必要があります。

 一般的に張り上げ角度、開き角度とも各機種のマニュアルに従ってアンカーを選定すればよい。それ以外の場合には感覚に頼ることなく実際の角度を測定して安全な負荷の範囲にあるか確認する必要があります。

 また、張り上げ角度が小さいほどガイラインの負荷は小さくなるが、張り上げ角度を小さくするとガイラインの長さは長くなります。2線式のガイラインでは先山側には張らないため長いガイラインがたるみ、それによりタワーの変位が大きくなり機体の安定を損なうので注意が必要です。

 

  (3)索のトラブル

 スカイライン方式の索張りに比べてランニングスカイライン方式は作業索の張力負担が大きい。また作業索が地面に接する機会が多く、径の小さい滑車や、ダブルキャプスタンドラムを用いていることなどから索の損耗が大きく変形やキンクも起こりやすい。これに使用されている索は9mmと細く取り扱いも簡便で価格も比較的低いので、ある程度消耗品と考え定期的な交換をする必要があります。また、点検も架設撤去の作業と同時に行ってください。

 ・索のトラブルの原因
 現在までの稼働中の索の切断トラブルは正常な使用による疲労等ではなく、滑車からのはずれ、タワー付近で車体への巻き付きに気づかずそのまま作業したためにこすれて索を痛めたことが原因のものが多かった。(写真−2)

 これについては運転作業員の不注意もあるがこのようなトラブルが起こらない構造的な改良が必要である。特に、索の不必要なたるみの原因となる無負荷時の索の繰り出しが自動停止する ような機構があれば、このようなトラブルは防げる可能性が高い。

 また、現在横取りのため搬器を固定するのに簡易なキトークリップ(図−9)が用いられているが、これは特に固定部分の負担が大きいので十分注意するとともに耐久性の解明が必要です。

(4)安全とコミュニケーション

 索の荷重管理などを安全に管理しても重量物を複数の人間が同時に扱う作業のため操作ミスにより危険が生じることがある。良くある例としては、搬器の停止の合図がオペレータに伝わらず搬器が先柱に衝突したり、搬器が走行中に障害物に引っかかったのに荷掛け手の停止の合図が伝わらず、索に過大な負荷がかかったりするなどがあります。

 これを防ぐには作業員相互がいつでもコミニュケーションを図れる性能の良い無線機が必要です。空中を材を吊って搬器が走行する一般の架線集材と違い、地引き方式で集材する小型タワーヤーダはきめ細かい運転操作が要求される。それは、材を集材線上に引き出すまでに細かい搬器の移動を行ったり、搬器の走行中に障害物に引っかかることも多いからです。

 林業作業に使用可能な無線機とその特徴

 ・業務用無線機

  無線局の免許を必要とする。出力も5Wと大きく十分実用になるが機械が高価なこと、特定小電力の機械のような便利な機能がないことなどが欠点である。周波数を割り当てられるので混信の心配はほとんどない。ただし、他の局との交信はできない。また、一般に無線機自体も大型で携帯に不便である。

 ・CB無線機(HF帯、500mW)

  免許不要で誰でも使用することができる。手軽であるが、アンテナが1m程度と長く、機械も大型である。チャンネル数も通常2チャンネルと少ないので、混信することが多い。市民ラジオともいう。

 ・特定小電力型無線機(UHF帯、10mW)

  免許不要で最近はレジャー用などに多く用いられている。チャンネル数も9〜18と多い。ただし、最近は利用者が多いため混信する場合もある。

 送受信を同時にできるデュプレックス通話が可能で、音声による自動送信機能(V0X)を装備したものもある。雨中での使用可能なもの、特定の相手の信号のみを受けるもの(トーンスケルチ)など多くの機能を持ったものがあり現在では最も利用しやすいものである。(写真)

 これ以外にアマチュア無線が使われていることがあるが、これを業務に用いることは違法なので用いてはなりません。現在では、特定小電力型無線機が最も使いやすく実用的であるが、混信の問題もあり、林業専用の業務用無線機を開発する必要があるでしょう。

 無線機の使用と安全

 高性能の無線機を使ってもその利用法を誤るとかえって危険です。例えば「あげる」、「下げる」、「送る」、「戻す」などは現場によっては全く別の動作を表す場合があり、臨時の作業員が加わった場合などその作業員の思っている操作とは別の操作を行って危険が生じることもある。また、「戻せ」、「おろせ」などは無線機を通した不明瞭な音声では勘違いしやすいものです。

 このようなミスを防ぐため、標準的で明瞭な合図の言葉で統一し、研修などで普及を図ってゆく必要があります。

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