5. 作業システムの特性

 1.タイプ別作業システムの特性

 2.小形タワーヤーダを利用した作業班の作業能力と稼動経費

 (1)稼動経費の試算

 (2)伐出コストに影響する因子

 3.現場作業条件と作業の特性

 (1)皆抜と間伐

 (2)上げ荷と下げ荷

 (3)合理的作業方法のための作業路の開設方法


5.作業システムの特性

 1.タイプ作業システムの特性

 ・小型タワーヤーダ単独

 このシステムでは従来の自走式搬器作業などと比較して能率面でも大きな向上は見込めず、安全面など労働内容の改善もそれほど望めない。 人力による造材作業や、たまった材のトビを使用した移動など重作業が必要となることが多い。

     

 ・小型タワーヤーダ+小型フォワーダ(グラップルローダ付き)

 このシステムが現在の小型タワーヤーダシステムの最小の基本システムと考える。

 

小型フォワーダをうまく作業に組み込むと、トビを使った重作業も解消でき合理的な材の集積により全体的な能率が向上する現場が多い。枝葉や端材の処理もできるので作業土場の条件が許せば土場での造材ができ、危険な林内の造材作業を避けることができる。その他の補助作業に有効に使えば作業強度の軽減に大きく貢献する。しかし、小型フォワーダは走行速度低いのであまり長距離の運搬をするとこれによる待ち時間が全体の能率のボトルネックになるので注意が必要である。

 

・小型タワーヤーダ+プロセッサ+小型フォワーダ(グラップルローダ付き) 

このシステムによって小型タワーヤーダを中心とする高性能林業機械システムの基本が完成する。 この組み合わせによって大幅な労働強度の軽減が達成される。しかし、単純にこの組み合わせで作業するとプロセッサの能力が小型タワーヤーダに比較して大きすぎ、作業待ちが多くなり合理的ではない。複数の集材現場に対して1台のプロセッサで対応するなど工夫が必要である。また、大型の機械であり、自走できないため運搬費の負担も大きく現在の小規模の間伐では経費的に見合わないものになっている。

 土場の位置や大きさなど条件が悪い場合、あるいはプロセッサが直接材の積み込みをできない場合など小型フォワーダを組み合わせて作業を工夫しなければ処理した材がじゃまになってシステムの能力をフルに発揮できない場合ができる。このような本格的なシステムでは小型フォワーダもしくはグラップルローダ(写真4)は必須の装備である。

 

                    

 2.小型タワーヤーダを利用した作業班の伐出能力と稼働コスト

  (1)稼働経費の試算

 

西粟倉村森林組合の平成4年10月から平成6年3月までの稼働実績を元に作業班の作業量とそれの運営に必要なコストをモデル的に試算してみた。

 この場合、人員輸送車、小型フォワーダ(グラップルローダ付き)も他の作業と共用で使用すると仮定した。 作業班は3名とする。

 

 稼働日数           H4.10 ~ H6.3

稼働月

10

11

12

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

日数

9

11

1

0

5

15

11

4

3

0

5

3

13

18

16

稼働月

1

2

3

日数

8

17

19

158

 これによると1カ月平均8.7日の稼働であった。これは導入当初でありフル稼働とはいえないので順調に稼働したとすると年間100〜150日は稼働すると考えられる。なお、通年雇用であれば残りの100日程度は他の保育作業などに従事することになるが、その経費についてはその作業から得られるものとし、試算には考慮しない。

 出材量

 

この期間の総出材量は間伐363m3(24%)、皆伐1119m3(76%)であった。これは伐木造材から集材、片づけまで含んでおり、9.4m3/日に相当する。 平成5年度1年間に限ってみると、稼働117日で、1483m3の実績を上げており、12.7m3/日となっている。本格稼働すれば10〜15m3/日・班の能率を上げることが可能

 人件費

 

労災保険等を含めて1人1日20,000円、稼働日数を120日とすると  3×120×20,000=7,200,000(円)

 減価償却費

 機体価格の90%を6年間で償却するとすれば年間の償却費は

 

小型タワーヤーダ:12,570,000×0.9÷6=1,885,500(円)

小型フォワーダ : 5,150,000×0.9÷6=  772,500(円)

         他の作業と共用のため使用率60%とすると。

        772,500×0.6=463,500(円)

       人員輸送車 :1,400,000×0.9÷6=210,000(円)

        他の作業と共用のため使用率60%とすると。

        210,000×0.6=126,500(円)

      チェーンソー:150,000×3×0.9÷6=67,500(円)

          計                   2,543,000円

 なお、税制上の償却期間は類似の機械から考えて5年であるが使用実態から推定して6年とした。この減価償却費というのは会計用語であるが、簡単に言うと、導入された機械が使用できなくなるまでに更新に備えて積み立てておく経費と考えても良い。

 機械維持管理費

 型タワーヤーダの平成4年12月〜平成5年12月の修理費は実績で144,000円であったが、これは導入当初であるのでそのまま当てはめることはできない。そこで、この組合で使用されている小型フォワーダ(グラップルローダ付きリョウシン号(RM8HG−6WD))の実績を元に推定してみた。

 導入から3年2カ月で108万円の維持修理費を要したが最近の2年間は年間40万円以上の維持修理費がかかっている。これを元に今後3年間で平均50万円の維持修理費が必要とすると6年間で約260万円の維持修理費がかかることになる耐用年数を6年間として年平均43万円である。これは、機体価格(5,150万円)の約50%に当たる。 小型タワーヤーダと小型フォワーダ(グラップルローダ付き)では機構も用途も違うので単純に比較できないがこの約50%を用いて推定すると小型タワーヤーダの維持修理費は機体価格(1,257万円)の50%で629万円となる。耐用年数を6年間として年平均105万円程度であろう チェンソーは既存の資料から計算すると3台で年間5万円となる。

小型タワーヤーダ   1,050,000円

小型フォワーダ      430,000円

チェーンソー         50,000円

    合計      1,530,000円

 なお、人員輸送車の維持管理費は一般管理費に含まれるものとした。

 燃料費

 稼働1日当たり全体で軽油30リットル、ガソリン15リットル、その他油脂2リットルとして

   軽油  :30×120* 82=295,200(円)

   ガソリン:15×120×130=234,000(円)

   その他 : 2×120×500=120,000(円)

                計    649,200(円)

 以上の試算をまとめると以下のとおりである。(図−10、11)

 

 

人件費       7,200,000

減価償却費    2,543,000

機械維持管理費 1,530,000

燃料費        650,000

    小計   11,923,000

一般管理費   1,789,000

 (利潤等 上記の15%とする。)

       計 13,712,000円

 1年間の事業量を1500m3とすると 9,141円/m3 となる。

(2)伐出コストに影響する要因

 ・年間稼働日数と伐出コスト

 

以上の試算は実際の運営例を元にしたものであるが、これを元にもう一歩進めて、年間の稼働日数と1日あたりの能率がどの様に伐出コストに影響するかを試算した。なお、この場合、各種の試算条件は上記のものを基本とし、次のような条件を与えた。
・機械維持管理費は稼働120日を基準とし、稼働日の増減率の20%増減する。

  例)180日→120日の1.1倍     1+(180-120)/120)×0.2 

・燃料は出材材積に比例する。

・年間稼働日数以外は他の作業に従事するものとし、その賃金はその作業から支払わ れ機械化作業班の運営とは別とする。減価償却費は稼働日数には関係しない。 この結果を図−12に示す。これによると年間稼働日数100日程度以下では伐出コストの上昇が大きいが、それ以上では稼働日数を増やしても伐出コストはそれほど低下しない。

 つまり、一般にいわれている稼働日数のスケールメリットよりも作業路の開設などによる作業能率の向上の方がコストダウンに有効であるという結果となった。これが高性能林業機械とはいうものの、人件費率の高い小型タワーヤーダシステムの特性を物語っている。

・1事業地の事業量と伐出コスト

1事業地の事業量がある程度まとまらなければ高性能林業機械の作業には向かないといわれているが、実際にどれくらい1事業地の対象材積があればよいかを実証事業の例から検討した。これによると1ヶ所あたり50m3程度以下ではコストが高くつくという結果であった。(詳しくはP29を参照) 具体的には、1ヶ所50m3以下の現場はなるべく近くの現場をまとめて一緒に作業した方がよく、それ以上の規模になると分散していてもあまりコストアップにはならないという試算結果であった。

 ただし、採算性は別の問題である。高級材は丁寧に扱うため能率が落ちるなど、対象とする材によって作業内容が変わってくる。また、現場の作業条件によって能率は大きく変わるのでここであげた50m3という数字にこだわらず、このような傾向があることに留意してほしい。


 3.作業現場条件と作業の特性

 機械作業では作業土場の確保、障害物の除去などが作業能率を大きく左右することが大きい。新しい作業システムで作業を進める場合、どうしてもそれまでのやり方を踏襲しがちである。数uの土場の拡張、数本の支障木の除去を怠って大きく作業能率を低下させている現場を見ることがある。

  (1)皆伐と間伐

 

 皆伐の場合は支障木も無く問題は少ない。しかし、集材線を想定した伐倒方向と順序で伐倒していないと重なった木の下から引き出したり方向転換を余儀なくされたりする事があるので計画的な作業が必要である。合理的な作業のためには伐倒作業者も小型タワーヤーダの作業を熟知する必要がある。 間伐では選木が大きく作業の能率を左右する。対象の森林の現状とどのような森林に仕立てるかという方針によって間伐木の選定がされるが、これに加えてどのように集材線を設定するかを考えながら選木をしなければならない。また、伐採も間伐対象木をすべて一度に伐採するのではなく一部の間伐木は集材時のガードとして残し、最後に伐採するなどの方法がとられる例もあるが、このようなきめ細かい作業が必要である。

  北海道のハーベスタによる間伐のように列状間伐も考えられるが、列状間伐というと全く拒否反応を示すことが多い。しかし、全部を列状間伐にするのではなく他の間伐方法と組み合わせるなど工夫の余地は大きい。 また、植栽密度が高く間伐の遅れた林など列状間伐の対象として適当と考えられるものも多いので、間伐の計画にあたってはぜひ列状間伐も検討すべきである。なお、加茂町成安地内に実証試験で列状間伐を実施した林があるので参考にしてその得失を検討していただきたい。

(概要は林業機械化協会発行の月刊誌「機械化林業」平成7年8月号に掲載)

  (2)上げ荷と下げ荷

 

 現在の林道や作業路は重量物を集材するときのエネルギーを最小にするために基本的に下げ荷を想定して開設されている。 しかし、小型タワーヤーダの作業は上げ荷がもっとも作業しやすい。特に間伐において残存木に損傷を与えないように集材しようとすれば上げ荷がもっともコントロールしやすい。架設においても先柱まで索を引き回す作業の負担が小さくて済むし、伐倒作業も掛かり木になりにくい谷側への伐倒となる。このように小型タワーヤーダシステムでは上げ荷がもっともメリットが多い。

  (3)合理的作業のための作業路の開設方法

 一般的には、小型タワーヤーダの得意とする150m以内の集材距離で上げ荷となるように作業路を計画すればよい。この場合、プロセッサを使用するかどうか、全幹で集材するかどうかなど作業の細かいやり方でどのような作業路を開設するかが異なる。このため、実際に集材作業をする作業者と一緒に現場で検討するのが最も良い。

 

    一般的な作業路開設の原則

上げ荷作業ができるようなるべく尾根部に開設する。

150m以内の集材距離となるようにする。


先柱、元柱のガイラインアンカーを確保する。


作業土場を確保する。

 ただし、これはあくまでも現在の小型タワーヤーダに適した作業路という意味であり、恒久的な林道の開設にすべて当てはめられるものではない。機械の性能が短期間の間に大きく向上している現状では、恒久的な林道について上記の原則を適用するには危険が大きいと考え

られる。

 しかし、上げ荷を想定すると林道や作業路は尾根部や中腹を通るように開設することが多くなり残土や排水等の処理も容易でいわゆる「環境にやさしい」工法となる。 人力で木寄せをするのが当たり前だったときには尾根に道を付けるというのは常識外れであったが、機械化が必然の今後は尾根、中腹線形の林道、作業路の開設を是非進めたい。


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