間伐効果から見た列状間伐と従来の間伐 機械化林業誌投稿原稿より抜粋
中島嘉彦
1.はじめに
列状間伐について「間伐のすべて」と言う本の中で、元国立林業試験場長の坂口勝美氏が「間伐不実行に終わるよりも、あるいは切り捨て間伐に終わるよりも、優るとする考えにたっている窮余の一策で、・・・・云々」と断じたように、これまで列状間伐は特殊な育林技術で間伐技術の正統とは認められていませんでした。
また、最近では「現代林業」誌の特集「ベターな列状間伐(2000年5月号)」中で、元信州大学教授の島崎洋路氏が「間伐の方法はいろいろあって、あくまでも列状間伐はその一つなんです」と語っておられるようにその適用範囲は限られたものであることは間違いないようです。
しかし全国的にはマイナーな技術と言われながらも北海道や信州のカラマツ林では多くの関係者の努力でこの列状間伐が実行され大きな成果を上げています。私自身も信州でこの列状間地が立派な森林になっているのを見た経験があるのですが、林床にたくさんの植生が侵入し、その中に堂々と樹冠を広げている大きなカラマツを見て感心したことを覚えています。その時は事前に列状間伐という説明を聞いていたのですが、そのつもりになって見なければただの立派な森林にしか見えなかったのを記憶しています。
2.低コストばかりが強調される列状間伐
従来の方法ではコスト的に採算がとれないとか、どうしても高性能林業機械を活用して間伐の推進を図りたいと言った場合に列状間伐が試されることが多いのではないかと思います。このような形での取り組みは現在の間伐の置かれている状況を考えると当然のことで、林業関係者が真剣に間伐の推進に取り組んでいる証でもあります。
しかし、先に坂口氏が断じた「窮余の一策」では技術的な完成は望めないので、島崎氏が述べられたように「間伐方法の一つ」として認められることが必要です。低コストや能率が高いことばかりを強調するのでなく、間伐効果についてもその得失を明らかにし、納得した上で活用してもらう必要があります。
3.間伐効果からみた列状間伐と従来の間伐
1)間伐効果とは?
一般に間伐効果とされるものには「年輪幅のコントロール」、「目的の径級にそろえる」、「気象害の防止」、「不良木の淘汰」などがあります。このうち、「不良木の淘汰」以外は間伐によって残った木により広い生育空間を与え、またそれをコントロールすることによっておこなうものです。一般に間伐効果と言えばこれらのものを総合したものとされることが多いようです。しかし、総合的なものと考えると難しいので、ここでは単純化して「残存木に、より広い生育空間を与える」という点について考えてみました。
2)間伐によって樹冠空隙は各立木均等ではなくまた不連続的に広がる。
従来の間伐方法にはいろいろあり、それぞれに得失があります。しかし、最近では特に決まった施業体系を持たない一般の林業地では、林分密度管理図を用いて間伐必要量を決めるやり方がポピュラーです。この林分密度管理図は樹木の生態的な詳しい調査によって作られたものでその有効性は疑う余地もありません。森林をある一定のまとまりとして扱った時、見事に適合する様子には感動すら覚えたものです。
しかし、3,300本/haで植栽された人工林で十分な保育間伐を行い40年後に800本になったとしても、植栽された立木の位置は変わるわけではありません。ある立木はまわりが間伐され樹冠のまわり全部の空間を広げても、隣同士がそのまま残されて片側にしか生育空間が広がらず肩身の狭い思いをしながら生育している木もあります。植栽された位置から動くことはできないので、けっして各立木の相対的な位置関係には変化はなく、たとえば20%間伐したとしても残存木全部が生育空間がまわりに均等に20%広がるわけではないのです。けれども、全体としてみれば密度効果の法則にきれいに適合しているのです。 まわりが間伐されて生育空間が広がった木にしても、一度にまわりすべてが間伐されたわけではなく樹冠を接していたまわりの木は順次間伐されたものだと思います。(図-1)
3)間伐によってどのように周囲の空間が開けるか?
写真-1は任意の位置の立木を間伐対象とする従来の方法間伐によってできたヒノキ林の樹冠空隙の様子です。たいていの従来の間伐では樹冠空隙はこのようになるのではないでしょうか。写真-2は列状間伐によってできた樹冠空隙の様子です。空隙が一列に繋がっている様子がよく分かります。
ところで、列状間伐の場合このように樹冠空隙ができ残存木は樹冠の片側だけが開けることは良く知られています。しかし、従来の間伐でも図-1の最終間伐ように一度に50%も間伐してしまうような極端な場合以外はぞれの残存木の周囲がすべて開けているわけではないのです。もちろん最終的な成立本数は植栽時の1/3程度に減らされることは当たり前ですので残存木の樹冠周囲は十分に開けるわけですが、それまでの間伐の繰り返し途中では樹冠周囲の一部が開けているのです。
このような間伐における樹冠の開け方を考えると、列状間伐はこれのみで間伐に対応するのは無理があるとしても従来の間伐と組み合わせる間伐法としては有効ではないでしょうか。
4.実際の林地での間伐による樹冠の開け方
シミュレーションではなく実際の樹冠空隙の違いを確認するため、従来の間伐と列状間伐を行った林地で樹冠空隙の比較を行ってみました。列状間伐プロットは、植栽列を間伐するのではなく伐採帯2.5m、残存帯5.0mを平行に設定する方法の列状間伐で、本数間伐率31.1%となりました。従来の間伐プロットは不良木の淘汰を念頭に、30%程度の間伐率を目標に選木しましたが、本数間伐率39.6%と少し高くなりました。
間伐による樹冠空隙の変化を正確に把握するには間伐前後の樹冠投影図を作成することが必要ですが、設定した調査プロットのすべての立木についてこれを作成することは限られた時間と予算ではなかなかできません。そこで、間伐前は両プロットとも何カ所かの空隙はあるもののほぼ同様に樹冠が閉鎖していることを確認したのち間伐作業を行い、間伐後に樹冠周囲の開け方を大まかな基準を設けて目視により調査しました。
まわりがほとんど開けた木は従来の間伐のみあり、半分程度開けた木は列状間伐が少し多く、一部が開けた木は逆に従来の間伐が多く、周囲の開けなかった木は列状間伐が多くなっていました。
(詳細は林学会関西支部、森林応用研究9-2、19〜22p)
5.まとめ
間伐による樹冠周囲の開け方について取り組んできましたが、イメージだけでその弱点が語られてきた列状間伐の間伐効果が少しずつ判ってきました。たとえ従来の間伐に比較して間伐効果が劣ったものでも、その実態を正しく理解して低コスト高能率という長所と合わせて考えれば選択肢の一つとして生かせるのではないかと思います。
また、なにも3残1伐とか、2.0m幅間伐、6.0m幅残存といったパターンのみにこだわるのではなく、従来の間伐と柔軟な伐採列の設定でトータルとして「ベストな間伐」を目指してはいかがでしょうか。
実際に岡山県の北部で高性能林業機械システムを駆使して、高密度作業路を中心とした間伐の推進に成果を上げている向井林業(http://ww3.tiki.ne.jp/~mukai-forest/)の向井王則氏は、列状間伐について尋ねたとき「間伐は決まり切ったやり方ではだめですよ、私は作業能率と間伐の効果を考え合わせて列状間伐を取り入れています。私の間伐地をよく見ると部分的な列状間伐と従来の間伐が必要に応じてミックスされています。」と言われました。現場の経験によってあみ出された知恵に感心するとともに、現場に役立つ研究の難しさも実感しました。現在、間伐推進は林業関係者すべての緊急課題といわれていますが、列状間伐の調査研究がこれに少しでも役に立てればと思います。