列状間伐に関して示唆に富んだアドバイス 鹿児島大学 水永先生より
中島さんへ
列状間伐は残存木の保育ということを考えると他の間伐に比べてその効果は小さいといえるでしょう。この結果は林冠モデルによるシミュレーションからも導かれるのですが、そうした複雑なことを考えなくとも、下記のように大胆に考えるとわかりやすいでしょう。
1 間伐による成長促進は、「個々の木がギャップに接することによって葉を着けている空間(樹冠)を増やす」ことである。
つまりギャップの面積に対して周囲長(ギャップと樹冠が接する線)が長ければ長いほど、成長促進効果、あるいは(形状比を低く樹冠の重心を低くなどの)気象害回避効果は大きく早く現れる。その点で列状間伐や塊状間伐は面積に対して周囲長が短いので非効率的なギャップ形状といえる。
2 木は歩かない。
間隔の自動調節をしないのだから、間伐を密度で考えるのは適切ではないかもしれない。伐採列に接しない部分では当然間伐の効果はあらわれない。
間伐の今日的な意義として、林の中に光を当てて、林の中の草や低木を繁茂させるという役割があります。そのような効果について列状間伐はどの程度効果があるのでしょう?ギャップ及びその周辺だけが光改善の効果があり、樹高12m程度の林では北側5-6mになるとギャップの光改善効果はほとんど見られません。ギャップの縁から急激に光は減少します。こう考えてみると複数の伐採木によって一つのギャップ(しかも単純な形状の)が作られる列状ギャップでは林内を均質に明るくすることはできないでしょう。
こう書くと列状伐採を否定しているように見えますが、そうではありません。むしろ新しい管理として使える部分があるのではないかと思っています。たしかに、列状伐採は保育のための間伐という意味では大きな効果が得られるものではなく、また林床の一面的な保護という意味での機能も小さいと考えられます。
しかしいうまでもないことですが、列状伐採は材の搬出にメリットがあるわけで、売れる木があることが前提となったシステムのはずです。その意味では一種の収穫システムということになります。そして収穫システムとして考えてみると、林冠を全て撹乱しないという意味で生態的な収穫システムといえなくもありません。林業(森林)の場合収穫(枯死)と更新は一体のものですから、列状伐採は一種の更新システムと考えることもできます。そのように考えると、昔から取り組まれている例が高知県の会社有林にあるではありませんか?つまり、間伐としてではなく、一つの伐採システム、あるいは更新システム、さらには森林管理システムのひとつとして考えると、列状伐採は優れた利点があります。
さらに付け加えると、列状伐採は一面的な林床保護にはつながらないと申しましたが、林の中の植生の発達を一面に発達させなくとも、モザイク状・パッチ状に発達させて良いじゃないかとも考えられます。林床環境の不均一さが林床の種の多様性を生むことが知られてきました。その意味からは列状間伐は林の中の光環境に適度なムラを与えてくれます。
ここまでが、私の列状伐採に関する考え方です。そこで中島さんへの要望ですが、列状(間伐)は従来の間伐の範疇でロジックを展開することには無理があると思います。間伐が進まないから列状間伐を、、、ではなく、収穫(=更新)システムとして列状伐採を考えてください。たとえば、「経済的に有利な間伐システム・・・」と宣伝するのは、間伐の面からも誤解を生み、かつ列状伐採の価値をも矮小にしていると思います。むしろ「列状伐採をすれば、安定的に収入を得ながら長伐期への誘導ができ」、あるいは「持続可能型の収穫システムとして・・・」と法螺を吹くほうが意味があるように思えます。
繰り返します。間伐のロジックを列状伐採にあてはめないで、逆に列状伐採を間伐として利用しないで。
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