「懐古録」その1

こんなこともありました・・・。


舞台(平成10年10月23日)

いつだったか、石舞台に行ったことがある。
記録が残ってないが、おそらく5〜6年くらい前のゴールデンウィークだったと思う。
暖かい、花咲く季節だったことはなんとなく記憶している。
桜井駅からバスで石舞台まで行ったのかな。
石舞台とは、蘇我馬子だか入鹿だかの墓だと伝えられている石室のことらしい。
無論、歴史に疎いわたしがそのような細かいことを記憶している由もない。
とにかくでかい石が積み上げてある。
おそらく「奈良の大仏方式」で積み上げたのだろう。
ほかにも寺院を見てまわったが、ほとんど覚えてはいない。
岡寺は行ったのかな?
どこかの寺で有名らしき薬師像を見た記憶だけはある。
と、そこまでは普通の観光なのだが、それだけではなかった。
写真撮影を頼まれるのである。
春・秋の観光シーズンに1人で行くとだいだい声を掛けられる。
それが不思議と、2人で行くと声はほとんど掛けられない。
こちらは記録にあるのだが、平成6年5月3日に京都栂ノ尾を訪れたときも声を掛けられた。
確かあの日は曇っており、朝だったので薄暗く少々肌寒かった。
あのときは珍しくわたしも近所の茶屋で使い捨てカメラを買い求め写真を撮った記憶がある。
ただし未だ現像せずに置いてあるので、感光して最早なにも写っていないだろう。
頼まれるのは、家族連れのときもあるし、老夫婦のときもある。
栂ノ尾で写真を撮ってあげたのは老夫婦だったような気がする。
まぁ、それはそれでなにも拒む理由もないし、拒んだこともない。
あ、いまこれを書いていて急に思い出した!
なんと石舞台で写真撮影を頼まれたのは、若い男女二人連れだったのだ。
冗談じゃない。
なんで貴様等の記念をこのわしが刻んでやらにゃならんのじゃ、ボケが。
だんだん思い出してきた。
確かちょうどわたしが石舞台に見入ってるときに、男のほうが声を掛けてきたのだ。
そのときは、よっぽど二人をフレームアウトさせてやろうと思った。
だがわたしは慈悲深いので、そこまでは勘弁してやった。
努めて明るく親切に対応したはずだ。
しかしなぁお前、相手を見てものを頼めよ。
こっちはヤローの一人旅なんだよ。
写真屋じゃねーんだ、アホが。
あぁいうのが一番質(たち)が悪い。
断っても気分悪いし、写真撮ってやっても気分悪い。
「いいことをしたんだ、いいことをしたんだ、いいことをしたんだ・・・。」
写真を撮ってやったあと、そう胸の中で念仏のようにつぶやきながら石舞台を後にした。
寺社仏閣史跡を訪れ、わたしの心は洗われるはずであった。
しかしその日ばかりは、心にどす黒いものが渦巻く結果となってしまったのであった。


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