北大西洋航路客船        アンブリア                   
 

       

  キュナード・ライン
       (英国)
           
   就航 1884年
            
   7718 総トン
            
   全長 158.2m
            
   全幅 17.4m
            
   エンジン 
    レシプロ蒸気機関
     (連成機関)
    14500 馬力
           
   推進器
     スクリュー1軸
           
   速力 19 ノット

 

   アンブリア号はスクリュー1軸船であった。それゆえ,最高水準で建造されているとはいっても,このような1軸船を苦しめた悩みの種,すなわち推進軸の破損に対しては脆弱だった。クランク軸やプロペラ軸が破損すれば,1軸船は動けなくなる。その救済手段として,もう痕跡のようになっていたとはいえ,帆装がいつも用意されていたのであるが,大抵の場合推進のためには全く非力だった。したがって他の船に引いてもらうため,援助を求めざるを得なかったのである。推進軸の問題には運航全期間を通じて悩まされたが,中でも1892年の終わりに起こった事故は,船舶機関士にいかに創意と機転が求められたかを実例で示しているので,記述しておく価値がある。12月23日の激しい嵐のなか,ニューヨークからおよそ1400 km東で,プロペラ軸系がスラスト軸受け(スラスト・ブロック)のところで動かなくなった。もしニューヨークへ曳航するために,他の船の援助を求めていたら,およそ6万ポンドといった巨額の救援費が請求されていたであろう。

(スラスト軸受けというのは,スクリューの回転で生まれる推進力を船体に伝えて船を推し進める役目をする装置であり,当時のスラスト軸受けは多段のカラー(つば)でできていた。)

 
   
 
  軸破損がスラスト軸受けの所で起こったのは幸運だった。というのはスラスト・カラーのうちの2つを継手フランジとして使って,修理できる可能性が残されていたからである。軸の裂け目が入った箇所に近付けるようにするため,スラスト受が数箇所取り外された。直径 64 cmの軸は,完全に切断されていたのではなかった。しかし非常に弱くなっていたので,負荷をかけて力を伝えることはできなかった。機関長の指示のもとに,亀裂箇所の両側のスラスト・カラーに細長い穴が3つずつ開けられた。これはボルトを取り付けるためである。他のカラーが邪魔をしてボルトがその箇所に入らないので,穴は細長くする必要があった。幅が 10 cmを少し越え,奥行きが 13 cm近い大きさの穴である。またカラーの厚みは 8.3 cmあった。ハンドドリルと,たがね・ハンマーだけの限られた道具で,そして揺れる船の中の窮屈な場所で,この作業は続けられたのである。修理作業は12月23日の夕方から12月27日の朝まで掛かった。この期間,交代で作業を続けた機関士たちにとっては,大変なクリスマスとなった。

 機関長が許可した最高速力は10ノットであった。アンブリア号はその速力で12月31日に無事ニューヨークに着いた。

                         

                               (「豪華客船スピード競争の物語」 アンブリア号の部分より抜粋)



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