訳者から見た
              
  本書の特徴と原著者 

                    


 本書は原書が英語で書かれているだけに、読まれているのは主に英語圏の国々だと考えられますが、インターネットでの評価に見るように、評価は非常に高く、また下記のように私もとても意義深い本だと認識しましたので、是非日本にも広く紹介したいと思って翻訳に取り掛かった次第です。

本書の特徴は第一に、著者も序言で述べているように、第二次世界大戦の海に関係した部分をほぼ全て取り扱っていることです。大きな海戦は勿論ですが、その他にも一般にはあまり記されない、例えばマレー沖海戦の後、日本軍が南方資源地帯へどのように侵攻していったか(パレンバン占領になぜ落下傘部隊が使われたかとか)、それからガダルカナル島を日本軍が放棄した後、連合軍がどのように北上攻勢していき、日本軍とどう戦闘になったか、あるいは米軍があの有名なスプルーアンス提督の第5艦隊をどのような経緯で創設し、サイパン攻略までどのように侵攻を進めていったか、などなどです。欧州に目を転ずれば、あれだけ名声を博したロンメル軍団がどのような経緯で消滅したか(陸軍の問題ではないのです)、ノルマンディー上陸作戦まで連合軍がどのように侵攻を進めていったか、大西洋護送船団の実像はどんなものだったか、また日本ではあまり注目されていない戦車揚陸艦(LST)が、連合軍にとってどれほど重要な存在であったか、など枚挙にいとまがないほどです


 第二に、著者シモンズ氏は人の心理や考えを大切にしており、それによって現場に居合わせた人や作戦を決定した人が、どのような心理や感情、考えからそのような行動を取ったかが明確に示されています。それによって、戦闘を含む各軍の行動がどのような意図で進められていったか、因果関係がはっきり示されていて、読んでいて興味深い物語となっていることです。そして著者が序言で述べているように、当時の人の言葉をできる限り取り入れており、それによって著者の狙い通り、読者に臨場感をもたらしてくれています。
 それはまた、戦闘そのものを示すだけでなく、それを現場で行った人たちを同時に描くことで、戦闘が人の営みとして、すなわち人間のドラマとして伝わってくることにもなっています。さらに撃沈された輸送船船員の悲愴に思いを巡らすなど、シモンズ氏は人に対する温かい配慮を持っています。


 本書では、第二次世界大戦が実際に戦われた1939年から1945年までだけでなく、そこに至る、それ以前の状況や、主要人物の戦後のその後も含めて記されており、それによって本書全体が大きなスケールの重厚な物語となっていて、そこに著者の思慮の奥深さとスケール感を感じます。


             訳者  粟田 亨


 原書 World War II at Sea : A Global History


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