医師政治連盟と牛島税理士判決

1. はじめに

 自分は、岡山県医師会では医師会と医師連盟の会費が一括して徴収されているという事実に、 つい半年前まで気付きませんでした。2年前までは勤務医会員(B会員)として所属していた 事もあって医師会への関心はほとんど無かったのですが、2年前から診療所長を拝命しAB会員 (A会員扱い)となって、医師会の会合にも出席するようになりました。そこで、医師会費の一部が 「医政対策費」の名目で県医師会特別会計に流れ、これが集められて日本医師会の日本医師連盟から、 自民党などに10億円を超える額の政治献金として流れていることを知りました。

2. 医師政治連盟(医政連)の現状

 ご存じのように、医政連は選挙の度に自民党の党員や後援会員の獲得を指示し、自民党の 支持組織の1つとして数えられています。現在、日本医政連は日医のA会員一人当たり年額2万円の 負担金を各県医師会に請求し、各県医師会はそれに独自の県政治連盟会費を上乗せして、 郡市医師会を通して資金を集めています。日医はB会員の負担金を請求していませんが県医連によっては B会員からも会費を徴収しています。(会費の一覧表参照)その会則の多くは「医師会員をもって、 これを組織する」とされており、原則的に全員加盟となっています。医師会員の中には加入を 拒否している医師も多くありますが、任意加盟となっていないので「会費不払い」とされているようです。 政党助成法により日本医師連盟から各県に援助金が下りるようになったH6年以降は、各県医師会は 日本医政連の負担金を請求金額どうり上納しています。(つまり、全員加盟扱いのまま)
大阪府では、H1年から3年までの医師連盟の会費納入率は、60%程度でした。

 94年の政治資金収支報告書によると、日本医師連盟は、15億円以上の上納金を集め、自民党の 「国民政治協会」に1億1600万円、新進党の「改革国民会議」に2000万円、さきがけの 「新政治協会」に3300万円、旧民社の「政和協会」に1500万円を寄付し、さらに政治家個人 にも多額の献金をしています。

3. 牛島税理士訴訟とは

 牛島税理士は、78年に税理士会が政治献金の目的で徴収しようとした5000円の支払いを 拒否したため、税理士会役員選挙の選挙権・被選挙権を剥奪されたことを不服として、訴訟を起こし、 一審勝訴、二審敗訴の後、最高裁にて、「特に、政党など規制法上の政治団体に対して金員の 寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏をなすものとして、会員各員が市民としての 個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事項であるというべきである。」 (判決文より引用)として、96年に勝利判決を勝ち取った訴訟事件です。

4. 全員強制加盟は認められるのか

 医政連は、れっきとした政治団体であり、これに医師会の構成員全員を加入させること自体、 かなり無理のあることです。医師会員の中でも、不参加や会費の引き落としを止めるよう申し入れている ようですが、「お宅だけ、そういわれても困る」などと、依然継続されているところが多いようです。 「八幡製鉄」最高裁判決のように、企業が政治献金をする事を認めた判例もありますが、その後の 「国労広島地本事件」最高裁判決では労働組合などが政治献金をすることは違法としていますし、 アメリカでは、企業・労組等の各種団体が個人に対して政治献金を強要することは禁止しています。

5. 医師会の活動と政治連盟の政治活動は、明確に区別されるべき

 92年に千葉県医師会が会員4173人を対象におこなった調査では、自民党が医師会の役に立っている と回答した会員は8%、役に立っていないは56%、このままで良いは14%に過ぎなかったといいます。

 医師連盟の規約にはほとんどの場合、脱会の規定すらなく、会費の徴収方法もはっきりと規定のない ものすらあります。入会の意志のない医師会員が現に存在し会費の不払いをしていますが、 それによって不利益が起これば明確な最高裁判決の違反事項になるわけです。(実際に不払いに伴って ペナルティを課している医師会は無いようですが)

 日本医師連盟も、郡市の医政連もその役員は医師会の役員がほとんど全て兼任で行っています。 郡市医師会のレベルで会費の強制徴収を止めて頂き、会費の徴収は完全に別立てとして医政連がそもそも 任意加盟の政治団体であることを、医師会員全員にはっきりと認識してもらうことが重要ではないでしょうか。


(1998.9.23 丸屋 純)

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