(2000年9月25日付 「とやま保険医新聞」より転載。)

寄稿  政治団体は趣旨に賛同した構成員で
     独自の会費で運営されるべき


南九州税理士連盟訴訟で鑑定証言を行なった富山県出身の法学者・北野弘久先生(旧制富山中学第61回卒)より寄稿いただいた。

公益法人による政治献金の違法性は最高裁で決着済み

南九州税理士会の政治献金の違法性が争われた牛島税理士訴訟について、最高裁1996年3月19日第三小法廷判決は、税理士会が政治団体である税理士政治連盟へ資金を供与することは違法であると判示した。この事件の第一審熊本地裁で筆者は、つぎのように鑑定証言を行なった。
 政治献金は、憲法上主権者である国民がその主権者権利である参政権の行使の一環として許容されているものである。一般の企業・団体にはそのような主権的権利は付与されていない。それゆえ、一般の企業・団体の政治献金自体が理論的には民法四十三条(法人の目的外)違反でありかつ民法九十条違反(公益違反)である。いわんや、強制加入団体でかつ公益法人である税理士会が政治献金を行なうことは違法である。税理士会の政治献金は右の主権的権利違反のほかに、構成員である会員税理士の思想・信条を侵す違法性もきびしく指摘されねばならない。
 冨山県医師会は県から補助金を受けている公益法人である。医師会は強制加入団体ではないが、人の命を守る医師の公益団体である。その医師会が名目はどうであれ「自民党費」という名の政治献金を特定政党へ寄付することは、違法である。富山県医師連盟は政治資金規正法上の政治団体である。県医師会が政治団体である県医師連盟へ寄付することも違法である。この違法性はさきに述べた憲法理論等から明白であるが、政治資金規正法二十二条の三第一項・第四項からも違法である。同条項違反には罰則が適用されることになっている(政治資金規正法二十六条の二第一号)。

政治活動と現ナマ供与とは区別されなければならない

 思うに、公益法人である医師会といえども、たとえば医療制度の改革などについて政党や政治家などに政治的に働きかけることは許される。むしろ専門家集団としてそのような政治活動を行なうべきであろう。これは憲法二十一条(表現の自由)でひろく人々に認められた「市民的自由」の問題である。より詳しくコメントすれば、医師会が会員医師の意見を集約して医療制度の改革などについて意見表明を行なうことは医師会の「市民的自由」の枠内の行為である。そのための費用としてせいぜい当該文書の印刷費と陳情に行く関係者の旅費等があればよい。医師会の一般会計から年数十万円程度を支出すれば足りる。同趣旨のことを筆者はさきの牛島税理士訴訟の法廷でも証言した。この医師会による意見表明等の政
治活動と現ナマを政治団体へ供与することとは、区別されねばならない。
 医師連盟は政治団体であるので、その趣旨に賛成した医師のみによって構成され、運営されるべきである。医師会は公益法人であるので、医師会の資金を医師連盟に供与することは違法である。医師連盟はその趣旨に自発的に賛成した構成員のみによる独自の会費によって運営されるべきである。
 なお、個々人の党費は各人が自発的に自己の責任で支払うべきであって、医師運盟が各人の党費を肩代わすることは違法である。



政治資金規正法で定められている 医師会の政治活動の寄付の禁止

政治資金規正法第二十二条の三(抄)

 「政治活動に関する寄付の一切の禁止」
 地方公共団体から補助金、負担金、利子補給金その他の給付金を受けた会社その他の法人は、当該給付金の交付の決定の通知を受けた日から同日後一年を経過する日までの間、政治活動に関する寄附をしてはならない。

政治資金規正法第二十六条の二(抄)

 「上記の違法行為に対する罰則規定」
 次の各号の一に該当する者は、三年以下の禁錮又は五〇万円以下の罰金に処する。
 一 第二十二条の三第一項又は第二項(これらの規定を同条第四項において準用する場合を含む。)の規定に違反して寄附をした会社その他の法人の役職員として当該違反行為をした者


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