自動車リサイクル費用

廃車時徴収を軸に検討

経済産業省

不法投棄増加の懸念も

(日本経済新聞2001年4月12日14版5面)

 

【柱書】

 経済産業省は2004年度にも始まる自動車リサイクル制度で焦点になっている解体・処理費用の徴収について、廃車時に消費者から集める案を軸に検討する。

一般から意見を募ったところ廃車時の徴収を支持する意見が多く、自動車メーカーもこの案を推しているためだ。

ただ廃車時の徴収では不法投棄が増加しかねないと懸念する声も根強い。

同省は他の案も含めて検討し、今夏にも結論を出す。

 

【本文】

 国内の自動車保有台数は約7600万台で、そのうち年間500万台が廃車になる。

自動車リサイクルは使用済みの自動車から出る破砕くずやエアバッグなどを資源として再生させる。

経済産業省は来年の通常国会に自動車リサイクル法案(仮称)を提出、2004年度にも施行することを目指している。

 同法案はメーカーに対し、消費者から集めた費用で解体事業者から破砕くずなどを引き取り、処分することを義務づける。

自動車業界の試算では、リサイクル費用は1台1万円以上になる見通しだ。

 制度を検討してきた産業構造審議会(経済産業相の諮問機関)は費用をどの段階で支払うかや、だれが支払うかなどによって徴収方法を6方式にわけ、経済産業省を通じて消費者や自動車関連業界など一般の意見を募集した。

 322件の意見のうち多かったのは廃車時点に徴収すべきだとする声。

新車購入時点を主張する意見を上回った。

 自動車メーカーも「費用を公平、確実にリサイクルに充当できる」(日本自動車工業会)として廃車時点での徴収を主張してきた。

一般の意見でも、新車購入時点の支払いでは将来のリサイクル費用の算定が困難だとの指摘が目立った。

4月に始まった家電リサイクル制度でも、同様の理由から廃棄時に費用を徴収している。

 一方で「廃車時点の徴収では費用負担を嫌がるユーザーによる不法投棄が増加する」として新車購入時点を支持する意見もあった。

中古車販売業者や整備業者も、新車購入時点や任意の時点で支払う方式を支持している。

 経済産業省は寄せられた意見を参考に、今月下旬に再開する産構審の専門部会で各方式の利点や問題点を改めて検証する。

 自工会からも廃車時点方式の実効性を詳しく聞き、不法投棄の防止策なども検討する。

 

【ツッコミ】

 自動車リサイクルについては以前に触れたことがあります。

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 産業構造審議会が提示したリサイクル費用の徴収方法の候補は次の6つです。

 

新車の購入

施行前から所有

中古車の購入

A案

購入時・購入分

廃車時・所有分

B案

購入時・購入分

随時・所有分

C案

購入時・購入分+旧所有分

なし

D案

廃車時・所有分

廃車時・所有分

E案

随時・所有分

随時・所有分

F案

購入時・全廃車分を按分

なし

 

 事前のアンケートではD案、つまり「廃車時にそのときの所有者がリサイクル費用を負担する」という方法が多数だったようです。

これは家電リサイクルの方法と同じで、消費者としては徴収方法が統一されていて紛らわしくないというメリットがあります。

 

 しかし、先日も知り合いから冷蔵庫を贈与された男性が「リサイクル費用がもったいない」と古い自己所有分を投棄して書類送検されたように、廃棄時負担は不法投棄を誘発するというデメリットもあります。

何しろこのアンケート、回答が322件と極端に少ないものです。1自動車メーカーの系列販売店や系列部品工場よりも少ない。

しかも回答者の大半は、「費用徴収は販売減になる」メーカー関係や「費用を負担すると家計が苦しくなる」消費者など、多かれ少なかれリサイクル費用徴収によって「マイナス」を被る立場の人でしょう。

「何が何でも実現を」と積極的な態度をとるのは一部の環境考慮派だけという、やる前から「しない方がありがたい」と答えの決まっているようなアンケートです。

前科者に対して「警察官を減らした方がイイかどうか」と聞くのと同じものといえます。

行政改革という理由ではなく「自分たちが仕事がしやすいから」という理由で「減らせ」と答えるでしょう。

これと一緒です。

 

 さて、家電と自動車で決定的に異なる点があります。

それは「自動車は登録が義務付けられていて車検証が交付される」という点です。

つまり、購入時に購入者が購入時点で算出したリサイクル費用を負担して、車検証にその金額を明示すればイイのです。

廃車にせず下取りに出せば、自分の負担したリサイクル費用は返還され、下取り車が中古車として販売されれば、今度はその時点でのリサイクル費用を購入者が負担してその金額が新たに車検証に明示される。

こうすれば確実にリサイクル費用は担保されるし、負担者も実際の廃棄をしなければ不公平なく返還が認められます。

 

 以前も指摘したとおり、自動車に乗るということだけでキッチリ環境に負荷を与えています。

地球にボコボコ穴を開けて石油を掘り出し、それを燃焼させて走り回る。

これに加えて平気でそのへんに車を捨てるというのでは、車に乗る資格なんかないでしょう。

 

 自動車は便利な道具であるだけに、その便利さを享受した代償としてリサイクルコストを負担するのは当然と考えるべきです。

しょせん人間は「安易に流れる」部分がありますから、「善意に期待する」方策よりも「安易に流れても確実にリサイクルが進む」方向でシステムを考えておくべきでしょうね。

そういった意味で「購入時負担・車検証明示」方式はけっこうイケると思うのですが、どうでしょうか。

A〜Fの案よりマトモだと思うのですけど。