資産運用基礎セミナー
リスクとリターン
日本版金融ビッグバンの浸透とともに、FPも認知されるようになりました。「自己責任」という言葉ももはや当たり前のように使われるようになりました。
しかし、言葉では理解できていても、まだまだ意識としては浸透しきっているとは言えないのも実情です。「ある程度のリスクを覚悟しなければ、これからは希望どおりのリターンを得ることができない」と言われても、全ての人が行動に移るわけではありません。
10年前には6%以上だった郵便貯金が満期を迎えても、再び郵便貯金を選択する人が半数を占めているのが今の「普通の意識」です。少しでも有利な金融商品を望むのであれば、0.15%という利率の商品を選択するはずがないのですが、現実には「安全性重視」で郵便貯金にお金が流れています。
このような背景には、「リスク」に対する誤解があるように感じます。
「リスク」とはどのような意味でとらえていらっしゃるでしょうか。研究社の英和大辞典では次のように記述されています。
risk
1 損失(危害、振り、破滅など)の可能性 危険 賭け 冒険
2 危険(率) 保険金(額) 被保険者(物) (死亡・火事・海難・地震などの)事故発生の可能性
要するに「リスク=危険」=「損する確率」というとらえ方が一般的なのではないでしょうか。そしてこのリスクを回避するために郵便貯金が利用されるのではないでしょうか。
預貯金は「ローリスク」か?
では、郵便貯金はじめ一般の預貯金が最もリスクが低いのでしょうか。
たしかに預貯金は株式のような元本割れはありません。わずかながらでも利息がつき、大儲けとは言えなくとも「損する確率」はゼロのように思います。
しかし本当にリスクゼロなのでしょうか。
ご承知のとおり、普通の銀行も「株式会社」ですから、倒産することもあります。現在はペイオフ猶予措置として、銀行が倒産しても預金の元利合計全額が返ってきます。
これが2002年からは元本1000万円を超える部分の元利は返ってこなくなります。しかも保証範囲である1000万円は、保証される代償として今よりも更に低い金利しか付かない預金となってしまうことが想定されます。
このように銀行にも「倒産リスク」があることは明らかです。
さらに「元本が減らないだけマシ」といって安心するのも危険です。資本主義社会である以上、インフレというものが確実に押し寄せてきます。
その昔、タクシーは1円払えば乗り放題でした。現在の1円でタクシーを利用したいと思っても、ドアの開け閉めに要する時間のガソリン代や人件費で1円以上かかってしまいます。
長い時間軸で考えれば、今日の100万円が明日も100万円の価値を持っているとは限りません。10年後には8割の価値にしかならないとなると、預金残高が1円も減っていないにもかかわらず結局は損することになります。
これが「インフレリスク」です。
「リスク=損する確率」ではない
今度は預金ではなく、人生について考えてみましょう。
ほとんどの方が何らかの生命保険に加入しているのではないでしょうか。
皆さんは「なぜ」保険に入ろうと思ったのでしょうか。それはたぶん「自分にもしものことがあったときに残された家族が経済的に不自由を感じることなく過ごせるように備えるため」ではないでしょうか。
この「自分にもしも」を「死亡リスク」といいます。死亡によってそれ以降の収入が断たれる=損するわけですから、「リスク」としてイメージしやすいと思います。
ところが、死亡しない、つまり生き続けることにも「リスク」は存在します。
人間誰しも仙人ではありませんから、カスミを食って生活するわけにはいきません。飲食物を買って日々の糧にしなければなりません。
そして社会の一員である以上、電気や水道、道路などの社会インフラを利用するわけですから応分の負担をする必要があります。
また、「人はパンのみにて生きるにあらず」と云われるとおり、趣味や娯楽が人間と動物を分ける最大の要素だといえます。
これらはすべてお金が必要です。当たり前のことながら、死んでしまえばこれらの出費は発生しようがなく、生きているがゆえに懐から出て行くものなのです。
このように生存にも「リスク」があるのですが、長生きは金がかかるから損だ、と単純に割り切れるものなのでしょうか。
長生きできることは非常にすばらしいことなのではないでしょうか。これを「損」だと考えるのは、せっかく受けた生命に対して失礼なのではないでしょうか。
このように考えてくると、今まで普通だと思っていた「リスク=損する確率」という認識はどこか誤っているのではないでしょうか。
リスクとは「予想との違い」
一般に金融商品を選択する場合、リスクとリターンは正比例の関係にあります。リスクが低い代わりにリターンも低く、高いリターンを希望すればそれだけ高いリスクを覚悟しなければならない。これが資産運用の常識です。
このような関係からリスクを「損する確率」と考え、株式のようなハイリスク商品が敬遠されるのだと思います。
しかし、ここで別の事例を挙げてみます。それは競馬です。
オッズ1.1倍のレースに的中すると100円の賭け金が110円になって戻ってきます。これに対し、オッズ110倍のレースが的中すると11000円になって返ってくることになります。(いずれも税抜き)
このように100倍程度の的中投票券を「万馬券」などといいますが、この万馬券を買う人は、100倍を超えるオッズをどうとらえているでしょうか。たぶん「損する確率」どころか「大儲けする確率」と見ているのだと思います。
投資ではリスクを「損する確率」ととらえ、ギャンブルではリスクを「儲ける確率」ととらえる。実は本来のリスクとは、このどちらの意味も含むものなのです。
手元に100万円あったとして、何もせずに持ち続ければ100万円のままです。何かアクションを起こした結果、その100万円が200万円に増えるかもしれないし、50万円に減るかもしれない。別のアクションを起こせば間違っても90万円以下になることはないかもしれないが、その代わりどう転んでも110万円以上に増えることもない。
これがリスクです。前者はハイリスク商品、後者はローリスク商品と区別できます。
リスクが高ければ最高200万円から最悪50万円まで、結果の範囲は150万円です。一方リスクが低ければ最高110万円から最悪90万円まで、結果の範囲は20万円です。
つまるところリスクとは、「予想が食い違う幅」のことを意味するのです。ハイリスクの場合、悪い方に予想が外れれば100万円が50万円に減ってしまいます。いい方向に予想が外れれば100万円が200万円になってくれます。
リスクと正面から向き合う
本稿の最初に述べたとおり、現在は「自己責任」の時代です。また今まで述べたとおり、今まで安全と思っていたところにも別のリスクが存在します。
まさに「人生いたるところリスクあり」です。このような時代に資産運用で大切なことは
運用対象の金融商品にはどのようなリスクが存在するのか
をきちんと理解することです。そして
どの程度のリターンを期待し、そのリターンに比例するリスクを覚悟できるか
どこまでのリスクなら受け入れられ、そのリスクに比例するリターンで満足できるか
を自分自身で納得することです。さらに
目指すリターンを確保する上で、どれだけマイナスリスクを回避するか
を考えることです。
最後に
以上のように進めてまいりましたが、果たしてご自身が「安全性重視タイプ」なのか、あるいは「リスク許容タイプ」なのかを自己診断しなければなりません。
次の質問に答えてください。
【質問】
A・B2つの抽選があります。あなたはどちらに参加しますか?
A 賞金100万円が70%、ハズレが30%
B 空くじなしの賞金70万円
どちらも統計的な加重平均リターンは70万円です。AならばBよりも30万円多く受け取る可能性がある反面、1円も手にできないケースも存在します。一方Bでは必ず70万円もらえますが、逆立ちしても100万円手にすることはできません。
もちろんAならば「リスク許容タイプ」Bならば「安全性重視タイプ」になります。
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