相続基礎セミナー

 

法定相続人とは?

 法定相続人とは民法に定められた範囲の相続人を指します。

 遺言によって遺産を受け取る人も一般的に「遺産相続人」と称しますが、こちらは正式には「受遺者」つまり「産を領する」と呼ばれます。

 

法定相続人が影響する事柄

 なぜ法定相続人という形で相続資格を民法で規定しているかというと、大きく次の2つの理由が挙げられます。

 相続も財産の移転が伴いますから、売買等と同じく「権利の移転」が発生します。

 このとき死者の財産に対する権利を誰が承継して新しい権利者となるのかがあいまいだと、その財産について別の権利を有する人は、誰に対してその権利を主張すればよいのか困ってしまいます。

 たとえばある土地を賃借している人がいたとします。その賃貸借契約が期間満了を迎える頃に地主が死亡した場合、死者の財産承継について何の取り決めもなければ、借地人は契約更新や契約解除を誰に対して申し入れればよいのか困ってしまいます。

● 「争族の防止」

 相続人の範囲およびその承継順位をあらかじめ法律で規定しておくことにより、ある程度相続人間の争いを未然に防ぐことができます。

 

 また、相続税の計算における控除額の計算にも法定相続人が用いられます。

 たとえば相続税の基礎控除では「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」、

生命保険の死亡受取保険金や死亡退職金ではそれぞれ「500万円×法定相続人の数」が控除されます。

⇒ 別表参照

 

法定相続人の範囲

 民法上相続人とされているのは被相続人=亡くなった人と次の身分関係にある人を指します。

  1. 配偶者(夫にとっての妻、妻にとっての夫)
  2. 父母
  3. 兄弟姉妹

 ここで注意しなければならない点があります。

 まず、「配偶者」はあくまでも「戸籍上の配偶者」つまり婚姻届を提出して夫婦関係となっている者しか認められていません。いわゆる「内縁関係」では相続権がまったくないわけです。これが問題となるのは次のようなケースが考えられます。

 妻の浪費癖がイヤになり、以前から常連客として利用していたスナックのママと深い関係となって、そのまま内縁関係に発展した社長さんがいたとします。このママができた人で、店を持ちながらも家庭のやりくりもきちんとこなす。たまの休日に2人で買い物に出たときも、近所の人もてっきり本当の夫婦だと信じるほどの仲のよさでした。

 そのまま10年以上この関係が続いていたある日、その社長さんが交通事故でなくなりました。さすがに社長さんだけあって、現金含め多額の財産を有していたのです。

 しかし、残念ながら、このママは何年同居していようと、周囲が夫婦と信じていようと、彼女が遺産を受け取る根拠はどこにもないのです。

 実務上、この社長さんがママの恩義に報いようとするならば、生前に法定相続人の遺留分を侵害しない程度の財産を相続させる旨の遺言書を作成しておくべきでした。

 

 今度は、子について考えてみます。

 まず、子には「実子」と「養子」の2種類の規定があります。厳密には養子にも「普通養子」と「特別養子」の2種類の規定があるのですが、特別養子は実子と同様の扱いがされますので、ここでは普通養子について述べていきます。

 実子も養子も「子」には変わりないのですが、相続税の控除にカウントされる「法定相続人」には制限があります。

 実子がいる場合は養子を1人まで、

 実子がいない場合は養子を2人まで

ならば控除の算定に含めてかまいません。つまり、基礎控除を多くしようとムヤミに養子縁組をしても、その全員の人数に応じて課税対象財産が少なくなるわけではないということです。

 このように控除の計算には人数制限のある養子ですが、たとえ控除対象にならなかった養子も、実子や控除対象の養子と同じ割合の相続権は持ちます。つまり、ムヤミに養子縁組をしてしまうと控除額が増えないだけでなく、遺産分割でモメてしまうということにもなりかねません。

 次に「嫡出子」と「非嫡出子」の取り扱いに触れます。非嫡出子とは、いわば愛人に生ませて認知した子のことです。

 非嫡出子が問題となるのはもっぱら男性が被相続人になったときです。女性の場合は「分娩の事実」つまりその子どものへその緒は誰につながっていたかで嫡出関係が明らかになるのでほとんど争われることはありません。

 非嫡出子はすべて法定相続人となり、控除の対象になります。

 相続分も嫡出子と同じ割合です。

 

 最後に兄弟姉妹について考えてみます。

 ここで問題となるのは「全血兄弟関係」と「半血兄弟関係」です。

 全血兄弟とは、父母ともに同じ兄弟、半血兄弟とは父母のいずれかが同じ兄弟で、先妻の子と後妻の連れ子との間が半血兄弟関係となります。

 兄弟姉妹も全血、半血に関係なく法定相続人としてすべて控除の対象となりますが、半血兄弟の相続分は全血兄弟の半分となります。これが問題となるのは、次のような関係の場合です。

 この場合、法定相続人は「妻」「弟」「姉」の3人となります。

 後述しますが、法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、相続分は「配偶者3 : 兄弟姉妹1」の割合となります。

 また、被相続人に対して弟は全血兄弟、姉は半血兄弟ですから「弟2 : 姉1」の割合となります。

 結局このケースの法定相続分は、

  妻 3/4

  弟 1/4 × 2/3 = 2/12 = 1/6

  姉 1/4 × 1/3 = 1/12

となります。

 

法定相続人の順位

 法定相続人が相続する順位は次の4つのルールで構成されます。

ルール1 相続順序は「子」→「父母」→「兄弟姉妹」とする

ルール2 先順位者が1人でも生存していれば、後順位の相続人に相続権はない

ルール3 同順位者間の相続分は人頭割りとする

 ここで「あれ?」と思いませんか。そう、「配偶者」の扱いです。

 配偶者は別格で、

配偶者は常に第1順位の相続権を有する

というルールがあります。

 なぜこれが「別格ルール」なのでしょう。それは次の「法定相続分」と大きな関係があります。

 

法定相続人間の配分

 「配偶者は常に第1順位の相続権を有する」というルールは別格だと前述しました。その理由は「法定相続人間の配分」つまり法定相続分の計算に関係があるからです。

 もしもこのルールが別格ではないとすると、子のない妻と被相続人の父とが法定相続人となった場合、妻と義父との配分は半分ずつとなります。

 しかし、そうではありません。相続分の計算、特に配偶者の取り扱いでは、「血のつながり」より「財布のつながり」が重視されます。

 具体的な法定相続分は次のようになります。

  配偶者と子が法定相続人 → 配偶者1 : 子1

  配偶者と父母が法定相続人 → 配偶者2 : 父母1

  配偶者と兄弟姉妹が法定相続人 → 配偶者3 : 兄弟姉妹1

 そして子や父母、兄弟姉妹が複数であれば、それぞれ人数で均等に割った割合が各血族の法定相続分となります。

 これに非嫡出子や半血兄弟が関わってくると、それぞれ50%の配分で計算を行なうわけです。

 

代襲相続制度

 不慮の事故によって親よりも先に子が死亡してしまう場合があります。まだ若い高校生くらいのときには、心情的にいたたまれないものがあるとはいえ、相続上は親のみが法定相続人になるというシンプルな関係です。

 しかし、結婚し、子もいる人が死亡し、そのショックでその人の親も死亡してしまった場合を考えてみましょう。

 基本的に相続は「生存している人」を対象に権利義務が承継されます。

 ということは、被相続人の死亡前に死亡していた長男には相続権が認められないことになります。

 したがって、次男が被相続人の財産を承継し、この次男が死亡すれば将来次男の子Bがその財産を承継します。

 つまり長男の子Aも次男の子Bも、同じ被相続人の孫であるのに、自分にはまったく関係のない「相続開始時の親の生死」だけでAとBとの間に財産格差が生じるわけです。

 これは嫡出、非嫡出の関係とは異なり、その差に合理性は認められません。

 そこで民法では「代襲相続」を認めています。

 上記のケースでは、Aが長男の「相続人としての地位」を承継し、次男とAとが被相続人の財産を半分ずつ承継することになります。

 

 「代襲相続」には3つのルールがあります。

ルール1 子の相続権は無限に代襲する

 相続発生時に子が死亡していれば孫が代襲します。孫も死亡していればひ孫、その人も死亡していればさらにその子、と、とにかく相続発生時に出生しており、かつ生存している子にたどりつくまで相続権は認められます。

ルール2 父母の父母には代襲しない

 代襲権は子の方向、すなわち卑属に向かって流れていきます。被相続人の父母が死亡しており、祖父母が健在だからといって、その祖父母が父母の相続権を代襲することはありません。

ルール3 兄弟姉妹の代襲権は1代限り

 わかりやすく言えば、被相続人のおいやめいは、代襲して法定相続人になることがありますが、おいの子が代襲相続人になることは絶対にありません。おいの子と被相続人とでは、さすがに血のつながりも「薄く」なってしまうからです。

 

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