相続基礎セミナー
遺言について
ある人が死亡すると相続が発生します。
原則的には、法定相続人が決定されて遺産分割協議が行われ、それに基づいて財産が分配されます。
このとき、もしも故人が生きていたらこの人にこれを渡すことはなかっただろうな、と誰もが思ったとしても、協議が整えばそのとおりの遺産分割が実行されます。もちろん死んだ人はもう何も発言することはできません。
もしも希望どおりに遺産分割をさせたいのであれば、「遺言」をする必要があります。
世間的には「遺言状(ゆいごんじょう)」という呼び方がされますが、法律的には「遺言(いごん)」と言います。
遺言の形式
「遺言」というと、言っただけで効力が認められるような雰囲気がありますが、実はそうではありません。
「書面」という形式で残っていないと意味がありませんし、その書面も民法で決められたルールに違反しているとただの「紙切れ」です。
遺言には「普通方式の遺言」と「特別方式の遺言」の2つに分類されます。
このうち特別方式の遺言とは、船舶や航空機で事故に遭遇してきちんとした遺言書を作る余裕がないときとか、伝染病の進行によって通常の遺言書を作る前に死んでしまいそうだなどといった場合のように、まさしく「特別な」緊急の場合に認められる遺言作成方式です。
ごく普通に「遺言状でも作っておこうかな」と考える場合には普通方式の遺言に基づくでしょう。
普通方式の遺言では
の3つがあります。それぞれについては後述します。
遺言の内容
はっきり言って、遺言書には「何を書いてもかまわない」ということはご存知でしょうか。
「今までありがとう」とか「これからはケンカせず仲良く暮らせよ」とか書いてあっても立派な遺言です。
では、何を書いても自由なはずの遺言書なのに作成方式を民法で規定しているのはなぜでしょうか。
それは一定の内容についての効力を保証するためです。
一般的に遺言作成のメインテーマは「財産の処理」です。
遺言は作成者の一方的な考えだけで成立させるモノですから、普通の契約のように相手の承諾がいらない分、遺言の意思は力が強いと言えます。
それだけに、その強さにふさわしい要件を満たさないと効力を認めないよ、というのが民法の趣旨です。
一般的に民法の方式に従った遺言でないと効力が認められない遺言内容には、主に次のようなものがあります。
つまり、財産の分配や身分関係などについては、民法の方式に基づかない遺言で触れられても無効となるわけで、その場合にはそもそも遺言なんかなかったものとして、民法その他の規定に基づいて相続作業が行われます。
自筆証書遺言
自筆証書遺言というのは、遺言書の初めから終わりまで全文を遺言者が自筆して印鑑を押捺したものです。
「全文」ですから「遺言」というタイトルから作成した日付まで自分でシコシコ書かないといけません。
ワープロで自作した遺言は自筆証書遺言とは認められません。
縁起をかついで「○月吉日」なんていう遺言も無効です。
なぜなら、遺言では作成日付が非常に重要で、「その日の時点で遺言者本人にきちんと遺言作成能力があったかどうか」というのが検証できなければならないからです。
また、先に作った遺言は、後の遺言で自由に変更や撤回ができるのですが、「吉日」では作成日の前後が分からないため、どの遺言が「最後の意思」なのかが判定できなくなってしまいます。
印鑑は実印でなくてもかまいません。
100円ショップで買った三文判でも有効です。
また、必ずしも封筒に入れておく必要もありません。
極論すれば、喫茶店の紙ナフキンに自書して捺印してあって、そのまま机の上に置きっぱなしにしてあっても遺言として有効です。
自筆証書遺言は自分で書くだけに書類作成費用はかかりません。
つまり安上がりです。
しかし、貸し金庫に預けるとか信頼できる第三者に預けるなどしないと、よからぬ考えの相続人に捨てられたり改ざんされたりする恐れもあります。
また、ある程度法律知識がないと自筆証書遺言の要件をみたさない場合もあったり、あるいは内容が一部無効になったりする可能性もあります。
さらに、自筆証書遺言は見つかっただけではダメで、裁判所で「検認」という作業を受けなければなりません。
これは「この遺言は確かに自筆証書遺言として効力を有する」という確認のために行われるものです。
遺言の内容を裁判所が記録して保管するのですが、これは「遺言として有効かどうか」を判断するだけのもので、「内容が有効か無効か」は関係ありません。
公正証書遺言
公証人に遺言者が遺言内容を伝え、その内容を公正証書に作成してもらう遺言です。
公証人に伝えるのでその場で法律的なアドバイスを受けることができ、後日内容の解釈をめぐってトラブルが起こるということはほとんど防止できます。
また、公正証書遺言は検認の必要がありません。
そして、作成された原本は公証役場に保存されますから紛失や改ざんも防げます。
何より話して伝えればいいわけですから、手に障害があって字が書けなくても遺言が作成できます。
昨年の改正から言葉や耳に障害のある人でも公正証書遺言を作成することができるようになりました。
その一方で公証人に依頼するわけですから、遺言作成にそれなりの費用がかかります。
また、作成の際には2人以上の証人が立ち会わなければなりませんから、少なくとも2人には遺言の内容がバレてしまうわけです。
証人が他人に話してしまうともっとたくさんの人が知ることになるでしょう。
もしも証人が実は「身内」だった場合、証人としての資格がないわけですから公正証書遺言として無効とされることもあります。
秘密証書遺言
遺言者が作成した遺言を公証人が封印証明する方式です。
封筒に入れる遺言は署名と捺印、つまり名前だけ自分で書いてきちんと印鑑を押してあれば、内容がワープロ打ちであってもかまいません。
公証役場には封書に入れて封印した状態で持ち込み、公証人は中身が遺言者の遺言であることを聞くだけで、あとは封筒に提出日と遺言が本人のものであること、代筆による遺言ならば代筆者の住所氏名を書くだけですから、公証人にも立会の証人2人にも内容を秘密にしておくことができます。
秘密証書遺言は「公証人が封入を証明した、公正証書遺言でない遺言」ですから、自筆証書遺言と同じく裁判所の検認が必要です。また、遺言の中身については公証人もノータッチですから、法律的な不備がある可能性もあります。
証人の資格も公正証書遺言と同様重要になりますが、もしも秘密証書遺言として無効となっても、中身を全文自筆していたのであれば、それは自筆証書遺言としては有効だとされる可能性もあります。
FPとしてのアドバイス
遺言をめぐる「争族」を避けるためには、やっぱり「公正証書遺言」を一番にオススメします。
秘密証書遺言を利用する場合には、弁護士や行政書士からアドバイスを得たり、代筆そのものを依頼するなど法律的に完全な内容に仕上げる必要があります。
自筆証書遺言の場合も、事前にきちんと法律知識を理解したり、専門家から適切なアドバイスを受けた上で作成に取りかかるようにしましょう。
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