ヒット
吉田 英生
社会見学で6年生と姫路城に行きました。
世界遺産でもある姫路城は,白漆喰で塗られその美しさから「白鷺城」とも呼ばれています。城内は迷路のようなつくりで,天守閣へ上がる階段は急勾配です。
私が担任する体がちょっと太めで,運動が苦手なエイちゃんには,「登城」というより「登山」です。怒涛のように押し寄せる遠足の人波の中,私が壁となり,ザイルとなり,無事天守からの景色を堪能しました。
下りは,押し寄せる人波が渋滞するのももろともせず,階段を尻餅下りで無事走破(「掃破」の方があっているかも?)したのです。
友達に遅れること30分,急がないと弁当を食べる時間がほとんどなくなります。と思っているのは私だけで,エイちゃんは疲れもあるのでしょうがマイペースで歩いて通路を下ります。迷路のような通路ですから迷うと大変です。せかしてもうながしても急がないエイちゃんにしびれをきらした私は,少し前を歩いて消える作戦にでました。
先生の姿が見えなくなったら,(迷子になったら困るので急ごう)と思うかもしれない,と考えたのです。でも,エイちゃんはやっぱりマイペースです。白壁のひとつ先の角を曲がって待つ私,敷居をおもむろにまたいで私を見つけて,歩き出すエイちゃん。「早くこないと,先生はほっとくで。」と先生は口では言っても,絶対いなくならないとちゃんと感じている。だから,そんなに急がなくてもいいのです。それに,本当に私が先に行ってしまって,もし迷子にでもなったとしたら,ひょっとして「先生が,先に行ってしまうから悪いんじゃ。」と怒るのではないかとも思えたりして・・・。
エイちゃんは,無事公園の芝生の上で,みんなと一緒にお弁当を広げることができました。それまで,もくもくと歩いてきたエイちゃんが,お弁当を食べ始めてから話し掛けてきたことばは,「先生,お母さんが帰りは途中まで迎えに来てくれるんで。」。
お母さんも絶対私を助けてくれる人なのです。でも,ふだんエイちゃんは,絵の具を忘れたときに,「お母さんがカバンに入れてくれなかったからじゃ。」とお母さんのせいにもよくします。
しばらくしてから,私が,
「お母さん,仕事で疲れているのにわざわざ迎えに来てくれて,ありがとうって思ってる?
お母さんが遅れたら『なにしょうったん!お母さん。』とか言ったりしてないでしょうねー。」
と話しかけると,エイちゃんは,ニッと笑っただけでした。図星・・かな?
子どもといっしょにいると,「こんなこと考えているんじゃないでしょうねー」とか,「それじゃあいけんじゃろー」とか感じることがあります。その思ったことをことばにして伝え,そして物事の考え方を語ってあげることは大切なことです。
子どもの行動の中にある気持ちに「ヒット」したことばは,子どもに残ります。「言ってもわからない」と考えると,人はことばにしないものです。振らなきゃボールは当たらない。
小さなことこそコツコツと子どもに伝えて積み重ねていきたいものですね。