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『 あなたがあなたであるために 』
  
自分らしく生きるためのアスペルガー症候群ガイド

吉田 友子:著 ローナ・ウィング:監修 中央法規 定価:1200円+税
ISBN4-8058-2589-8 C0037 ¥1200E

以前育てる会で講演をお願いしたところ、岡山までこころよくお話に来ていただいた「よこはま発達クリニック」の吉田友子先生の「高機能自閉症・アスペルガー症候群  『その子らしさ』を生かす子育て」に続く著書です。
前著が主に子育てにあたるお母さんへのアドバイスが中心であったのに対し、本書は「中学生の勉強会」で使われた手作りのテキストがその元になっていることからもわかるように、本人に向けてのメッセージが中心となっています。
あなたが自分に自身を失って多数派と同じように見えることを人生の目標にしてしまっている時期には、あなたらしく生きてほしいというこのアドバイスは納得いかないものかもしれません。でも、脳に関する医学研究の結果を思い出してください。
あなたの感じ方は間違っているのではありません。あなたは決して「にせもの」ではないのです。この地球ではたまたま少数派であるというだけのことなのです。
あなたはAS(アスペルガー症候群)という「本物」なのです。
こんな風に子どもが子どもらしく誇りをもって暮らせるようにということを目標に書かれた本です。
それはサポーター(本書では両親や専門家も含め、子どもたちに支援を行う人を総称してサポーターということばを使っています)に対しても同じメッセージがおくられています。
高機能例ではあっても幼児期からの支援システムを利用し、多くの技術を身につけ、小学校低学年では何の問題もなく適応しているようにみえた彼らたち。より多くの技術を教え込みさえすれば彼らには幸せが手に入るとどこかで思っていました。
もちろん技術はあったほうがいいのです。技術を教えてもらう機会が確保されないことは重大な問題です。
でも同時に、私たちは技術だけを教えるのでは、彼らが誇りをもって生きることをバックアップできないと気づく必要があるのです。
「技術を教えること」「技術を「胸を張って使うこと」を教えること」
両者は密接に関連してはいますが、別個の療育課題です。
前者なしに後者の実現が困難であることは確かですが、前者のみで後者が保障されるわけではないのです。
サポーターとして心しておきたい言葉です。ともすれば最近話題のソーシャルストーリーやコミック会話などについても、マニュアルに頼りがちで、せいぜい個々のレベルや習慣に合わせて応用をはかることのみで「諾(よし)」としがちなことを反省させられます。
もっと根っこのところからサポートすることを忘れてはいけませんね。
もちろんこの言葉の前段にあるように「技術を教えること」が前提条件であることも同様に忘れてはいけないことです。その意味でも、本書には参考になる技術が詰まっています。
例えば「趣味に関する5つのトラブル」の中で、
トラブル2 「そろそろ止めなくちゃ」とわかっているんだけど止められない』
に対する
おすすめプラン3 : 終えるための工夫をしてみよう』
の節では
例えば、1時間マンガを読むとしたら、好きなテレビ番組の1時間前から読み始めるのはとてもよい工夫です。趣味を終えることの困難を自覚して「この区切りなら終えられそう」という活動の前にもってくるわけです。
なにがあなたにとって趣味を区切る力をもつものか探していきましょう。それがみつかれば、1日の中で勉強を配分するときにも役に立ちます。
タイマーを使って自分にチャイムを鳴らす、お母さんに声をかけてと頼んでおく、といった終わりを思い出す工夫も試してみましょう。
声をかけるお母さんも、かけられるあなたも、腹を立てないことが大切です。叱るために声をかけるのではありません。相手の耳に確実に届くチャイムとして声をかけるのです。
特に声をかける側は、このことを忘れてはいけません。
こんな風に、まさに臨床現場で実際に子どもと接して培われた技術がふんだんに書かれています。
サポーターであるみなさんにとっては、本書の前半のパート1「説明編」は、すでにご存知のことも多いと思います。それでも、ASに関する肯定的な説明はお子さんといっしょに読んでいただきたいと思いますが・・・
なにより後半」のパート2「アドバイス編」については、ぜひとも読んでいただきたいと思います。
中でも吉田先生の「特別な工夫」のための3原則、
 「治すんじゃなくて、生かす」
 「治すんじゃなくて、補う」
 「経験は計画的に積む」
を忘れずに、その「特別な工夫」の数々を学んでください。
お子さんが誇りをもって生きるためにはぜひ身につけていただきたい「技術」のエッセンスです。

  目次

監修者の言葉 ・・・・・・・・ ローナ・ウィング
この本の使い方

  パート1 説明編

ASの脳に関する医学研究
自閉症スペクトラムの脳タイプの人はどのくらいの割合でいるのか
ASに関する詳しい説明
1 「三つ組」の特徴
1−1 社会性(人とのかかわり方)の特徴
1−2 コミュニケーションの特徴
1−3 想像力(切り替え・応用力)の特徴
2 「三つ組」以外の特徴
2−1 感覚のかたより
2−2 体の使い方の苦手
3 ASと同時にみられることの多い脳タイプ
3−1 ADHD
3−2 LD
3−3 チック
ASの人が知っておきたい「脳の一時的な不調」に関する知識

パート2 アドバイス編

なぜ「特別な工夫」をするのか
「特別な工夫」を考える
趣味に関する5つのトラブル
トラブル1 「いつもその話ばっかり」とうんざりされる
トラブル2 「そろそろ止めなくちゃ」とわかっているんだけど止められない
トラブル3 趣味ばかりに時間をとられて宿題が終わらない
トラブル4 趣味にお金を使い過ぎる −おとなになったときの問題−
トラブル5 「自分の世界にこもっていないで」「もっと友だちを作りなさい」と言われてしまう、自分でも迷う
ASの脳タイプだということを誰に伝えるべきか
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