『 アニマル・セラピーとは何か 』
横山 章光:著 NHKぶっくす 定価:874円 + 税
ISBN4-14-001784-8 C1347 P900E
以前から、自閉症児への療法の一つでして、アニマル・セラピーが紹介されています。
特にユニークさで有名なのが、イルカ介在療法でしょう。その他にも、乗馬療法やドッグセラピーに取り組んでいる人もいます。自閉症の原因自体が明らかになっていない以上、こうしたアニマル・セラピーが自閉症児の治療に有効かどうかは、まだ明らかになっているとは言えないでしょう。
ただ、動物が人間にとっての癒しの効果を持っていることは、人間とペットとの長いつきあいの歴史のなかで間違いないとも言えると思います。したがって、自閉症に特有の効果があるかどうかはわかりませんが、アニマル・セラピーも、適切に行われれば自閉症児にとってもプラスに働くと思います。本書では、筆者が精神科医として、病院の中でアニマル・セラピーに取り組んできた経緯から、その中心は入院患者向けの小動物が中心です。長年、人間と共に暮らしてきた、犬や猫などのペット類です。
ただ、アニマル・セラピーが有効なのは、高齢者・子ども・終末期患者・身体機能障害者などと並んで、先天的慢性疾患として、精神遅滞・ダウン症・自閉症・脳性麻痺も挙げられています。
また「イルカが病人の元に寄ってくる」の節では、イルカの持つ不思議な能力についても、科学者の眼から冷静に分析しています。
筆者の視点は、アニマル・セラピーに関わるものとして「人と動物が互いに助け合う関係」として、過度の効果を期待するというよりは、つき合う・触れ合うに重きを置いています。
したがって、人間(患者)に対しての配慮だけでなく、同程度に参加する動物のストレスなどにも配慮しています。これは、イルカ・セラピーについて ベッツィ・A・スミス博士が、その著書「イルカ・セラピー」の中で憂慮されていたことと同じだと思います。
自閉症児も、参加する動物たちも、共にみのりあるアニマル・セラピーになるよう、さらなる実践・臨床研究を期待しています。(2004.9)
目次
序 ある日の病院のロビーにて
第1章 アニマル・セラピーとは何か
人と動物が互いに助け合う関係
アニマル・セラピーとは何か
人間にとっての動物の役割
アニマル・セラピーの歴史
精神疾患治療に導入された動物との触れ合
組織的に行われはじめたアニマル・セラピー研究
アニマル・セラピーを行う側からの分類
アニマル・セラピーを受ける側からの分類
AAA(アニマル・アシステッド・アクティビティ)とAAT(アニマル・アシステッド・セラピー)第2章 動物によってどういう効果があるのか
生理的効果 ― 動物と触れ合うと血圧が下がる
心理的効果 ― 不安を減らして気力を高める
ペットへの愛着
社会的効果 ― 人との触れ合いを拡げる
アニマル・セラピーが人間に及ぼす効果
科学的な研究の困難なアニマル・セラピー
動物がかかわった臨床例より
全く動かなかった患者が手を伸ばした
猫を抱くと静かになった痴呆症の患者
ハムスターが「声」にあらがう勇気をくれた
大好きな犬でもおっくうになるときがある
ペットの存在感第3章 どうして動物に治療効果があるのか
1 人間と動物の出会い
オオカミのたどった道、人間のたどった道
犬と人間、社会的動物同士の出会い
DNAに刻み込まれた人間と動物の絆2 動物は人間をどう見ているか
イルカが病人の元に寄ってくる
動物の思いやりとは
人間の視点からは動物の行動は判断できない
社会的動物の思いやり行動3 人間は動物をどう見ているか
心と身体は分けられない
動物にかかわることによる数々の変化4 人間と人間の間に立つ動物
犬を連れている人をイメージすると
動物を間において人間同士値踏みする第4章 人と動物とのつき合いという視点から
〜 日欧の文化の差を意識したうえで動物をどこまで使っていいのか?
人間と共生関係にある動物たち
どうして動物のストレスを考えなくてはならないか?
人間本位のつき合い方をしてはならない
欧米流の動物とのつき合い方
それぞれの文化、それぞれの考え方
日本と欧米の動物観の違い
子どもの教育と「しつけ」
権威的しつけから学ぶもの第5章 日本型アニマル・セラピーを考える
アニマル・セラピーとボランティア
ボランティアという考え方
ボランティアだからできること
誇りをもって参加しよう
もう一度アニマル・セラピーの定義を考える
予備知識を持たずに患者と触れ合う
日本でのアニマル・セラピー実現への道
医学と獣医学、二つの領域の重なり合うところ
個人の感覚と専門を生かしたボランティア第6章 ペットの死に思う
〜 人間にとってペットとは何か冷たくなっていた十姉妹
悲しんでいることに気がつかなかった・・・
ペットロスを乗り越えるために
「悲哀の仕事」のつまずき
ペットの死の問題点
死の教育
ペットロスへの援助
次の動物を飼うこと、飼えること
ペットとは何か考える第7章 アニマル・セラピーを始めるにあたって
〜 いくつかの助言1 基礎編 ― 始める前の留意点
始める際の心構え
アニマル・セラピーはどのような疾患に適応するか
アニマル・セラピーの適応に注意が必要な場合(1) 動物の存在が患者にとってマイナスであるとき
動物の存在が、人間の身体疾患を悪くする場合
動物の存在が、人間の精神疾患を悪くする場合
「ドリトル現象を示す患者の場合(2) 患者の存在が、動物にとってマイナスであるとき
どういう動物が参加に適しているか
日本動物病院福祉協会の認定基準
患者にあった動物を選ぶ人畜共通感染症について
アニマル・セラピーに参加する動物のチェック
アニマル・セラピー当日、出発する前にすること
アニマル・セラピー活動に際しての注意点
医療の側の注意点
感染の流行について感心を持つ2 実践編 ― 参加者の注意と手順
実際にアニマル・セラピーを開始するには
ボランティア・コーディネーターの役割
施設への配慮
活動の手順について
事前に準備しておくこと
事前ミーティングでの確認
触れ合い活動の注意
終了時の注意
どんな場所が適当か
アニマル・セラピー活動に関するQ&Aおわりに
引用・参考文献