sorry,Japanese only
『 自閉症児のための 抱っこ法入門 』
阿部 秀雄:著 学研 定価:1500円(本体1456円)
ISBN4-05-104998-1 C3337 P1500E
もう、15年以上も前、息子が自閉症と診断されたあと、「自閉症」と名のつく本は片っ端から買って、役に立つと言われた療法は、とりあえずは全て試してみよう・・・そんな時に買った一冊です。
ひと言で言えば、抱っこ法とは、自閉症は子どもの頃の外傷的な体験が誘引として発症し、その体験を抱っこによって表に出し、親子の愛着をつくることにより自閉症を改善しょうとする療法と言えると思います。そして、それはやさしく抱きしめるというような抱っこではなく、その抑圧されたトラウマを無理やり引き出すためのものですから、泣こうが、わめこうが、逃げようとしようが、抵抗しようが、有無を言わさず拘束し続け、決して途中で妥協しないというハードなものです。
そのため、子どもに痣ができたり、ひどいときには骨折したりということも聞きました。
このような心因論に基づく療法でしたが、当時は岡山でも講演会が開かれたりしていて、わらにもすがる思いで取り組まれた方もいらっしゃると思います。
しかし、本書が出版されるにあたり、さすがにもう正面きって、「自閉症の原因は外傷的体験である」という心因論ははばかられるようになってきたようです。
自閉症児の中には、病気や事故、弟妹の誕生、母親との一時的な別離などのような外傷(心理的外傷)を体験し、それを契機として自閉状態が目立ってきたという子どもが少なくない。ここで外傷とは、子どもの生育歴に起こり、子どもがそれに対して適切に反応できなったため、長期にわたって子どもの心に有害な影響を及ぼし続けるような、強烈な事件あるいは体験を言う。ただ一回きりの急性な外傷もあれば、何回か累積し、あるいはある期間持続して初めて外傷としての作用をもつにいたる慢性的な外傷もある。
くどいようだが、こうした外傷的な体験をもつからといって、外傷体験が自閉症の原因であると即断することはできない。
外傷体験は自閉症の原因ではなく、生来的な原因に由来する発達脆弱性をはらんだ状態に作用する引き金もしくは誘引として理解されるべきであろう。
格別の外傷体験をもたないように見える子どもの場合でも、生まれつき愛着が育ちにくい要因をもっており、そのため生後早い時期から母子の相互交流が妨げられるから、母親と満足のいく相互交流をもてないということ自体が慢性的に続くつらい体験であるわけで、明確な焦点をもたないため言語化されにくいにしても、一種の外傷体験としての意味をもつ、とも考えられる。
著者の苦労が感じられますね。もうすでに、自閉症は心因論では説明しがたく、脳の器質的障害だということが認められつつあるのに、それを認めてしまったら抱っこ法自体の主張があやしくなる・・・・それゆえ、外傷体験は原因ではなく誘引だと、つじつまをあわせようとしておられますが、「外傷とは強烈な事件あるいは体験」と言いながら、「格別な外傷体験をもたないように見える子どもでも」と、どうあっても、やはり自閉症が引きおこされるのは外傷体験であるとおっしゃりたいようです。そんなことを感じらさせられる説明ですね。
ただ、本書に登場する親子の方の体験談が、まったく創作ではないとしたら、抱っこ法を行なわれている方の中には、実際に子どもが号泣して、その後すっきりして効果があった、と言われる方がいるのでしょう。
もしかすると、それは、子どもを極限状態まで追い込んで、感情を爆発させた効果かもしれないと思います。戦中派の方が戦争体験を強烈に覚えていたり、いわゆる「地獄の特訓」での体験が忘れられなかったり、感情を爆発させることである種のカタルシスを感じるのは、我々も自閉症児も同じかもしれない、と思ったりもします。
ただ、それを幼い自閉症児に強要することは、やはり一種の虐待にあたるように私には感じられ、みなさんお薦めすることも控えたいと思っている療法の一つですね。
(2008.6)
目次
はじめに
第1章 自閉する心のからくり
1 苦悩する自閉症児
1.お母さん、ぼくのかなしみ
2.「ぼくの病気をなおして」
3.「ママ、エプロン、取った」
4.「おうち帰ろう、お父さん」
5.外傷体験の記憶
2 怒りの陰に愛がある
1.原初体験と派生体験
2.愛着と学習への抵抗機制
第2章 抱っこ法の理論
1 ある日のセッションから
1.抱っこが始まる
2.遊びの抱っこ
3.お母さんが抱く
4.パズル学習
5.最後の言語課題
2 抱っこ法における相互交流
1.親業訓練の勝負なし法
2.抱っこ法での勝ち負け
3.主張と受容の相互交流
4.主張的な働きかけ
5.子どもの気持ちの受けとめ
6.相互交流の実例
7.抱っこセッションにおけるリズム
3 親こそ最良の親である
1.親が本気になるとき
2.セイ君のお母さんの場合
3.シン君のお母さんの場合
4.原因としての親から育児主体へ
4 子どもはどう変わっていくか
1.抱っこ法を始めるまで
2.遊びの抱っこを試行する
3.めざましい変化に驚く
4.壁にぶつかる
5.ちょっとした転換
6.新たな飛躍へ
7.友だちの遊びの中へ
8.何が変わったか
第3章 日常的抱っこの技法
1 怒りをなだめる抱っこ
1.始点としてのパニック
2.パニックにどう対処するか
3.パニックにどう対処するか(続き)
2 慰めの抱っこ
1.実例から
2.いつ使うか
3.どう慰めるか
3 共に楽しく遊ぶ抱っこ
1.遊びの抱っこ
2.苦悩をいやす遊びの抱っこ
3.哺乳びんんを使った抱っこ
4 教え導くときの抱っこ
1.課題学習の抱っこ
2.偏食指導の抱っこ
3.いけない行動をしかる抱っこ
4.楽しい学習の抱っこ
第4章 予防から予後まで
1 「なつきにくい」赤ちゃんの抱っこ法
1.治療前のダイ君
2.治療の経過
2 年長自閉症児の抱っこ法
1.年長児の定義
2.年長児のための技法
3.オー君の場合
あとがき
引用文献 ほか
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