sorry,Japanese only

『 ひろしくんの本 』

深見 憲:著 中川書店 定価:1400円 + 税
ISBN4-931363-17-2


この本は、1967年1月に大分で生まれた博くんの子育てと成長の記録です。
お母さんの深見 憲(とし)さんによって丁寧に綴られています。

「博が自閉症と診断された1970年当時は大分市内の書店では、まだ自閉症に関する書籍は一冊も売られていないほど、情報のない時代でした。」

そんな中でも、家族や地域の方々に愛され、成長してきた博くんは自宅のそばに開設された菓子工房の営業主として働きながら、「第九を歌う会」で毎年演奏会に出場したり、トレーニングジムや太極拳で汗を流したり・・と地域でごく普通に生活されています。

当時は、自閉症は予後が芳しくないといわれていた頃で、現に思春期以後状態が悪化して施設や病院の中で暮らすことを余儀なくさせられている方も多いと思います。

では、なぜ博くんが安定して暮らせているのか、それは本書を手にとっていただければお分かりいただけるでしょう。
博くんが9歳のとき、大分県自閉症児親の会(現:日本自閉症協会大分県支部)の初代会長をつとめられた・・なにより博くんが大好きだったお父さんが脳梗塞で倒れられ、その後18年間失語症と右半身麻痺で療養ののちに亡くなられました。

でも、それまでの元気な頃と変わらぬお父さんの愛情や、博くんのお姉さん、そしてピアノの先生をはじめ周りの方の協力に包まれて、博くんは少しずつ成長していきます。
もちろん、なによりお母さんの、休まない、急がない働きかけがもっとも大きかったのでしょう。

博と私は、日常の暮らしの中で一日としてトレーニングを怠ることはありません。トレーニングを成功させるこつは、まず私自身、親が楽しくやれる内容にすることです。

博が一つ一つの行動を獲得していくのに、学期とか一年とか月単位でみるのではなく、回数でみていくことを最初に博から教えてもらいました。
博の瞳が輝くほど自信をもって行動できるようになるまでには最初の700回(朝晩スケジュールを知らせ続けて一年近くたって、ようやく・・)と同様、博には5〜600回から1000回単位であることを中学卒業後の生活の中で実感しました。

まさに親でなければ取り組めない、期限を区切らない息の長い関わり方だと思います。
ただ、親であれば誰でもやれるというわけでもなく、それゆえか、この本の中には不思議に同じ自閉症をもつ仲間の親の方たちが登場してきません。

博が、5歳の時に7つのアドバイスをいただいての帰路、夫と私は生活のあり方や価値観を変えることを誓い合いましたが、それは世間一般の人並みの望みを断ちきることでした。
その最たることは一生、家を新築するとか、マンションを買うということはやめようということでした。
家は雨つゆのしのげるところであればありがたいと考えて、そのようなお金があったら博や娘に心の栄養を与えるための養育費にしようということでした。

やはり、このあたりのあまりにストイックなところが、私を含め俗人には真似のできにくいところだったのかも知れませんね。
私だったら、肩の力をちょっと抜いて、今の生活を楽しみたいな〜そんな風にも思ってしまいます。
でも、博くんが立派な青年になっているのは間違いないので、そのエッセンスだけ(「だけ」と言ったら、「それじゃ意味がない」と叱られそうですが・・(^_^;)・・)でもいただいて、子育ての参考にさせていただきたいと思います。

それでは、その”エッセンス”として、深見さんがいただいたという「7つのアドバイス」を最後に紹介します。

1 親は黙って行動してはいけない。
  本人がわかるわからないにかかわらず、行動する前に説明すること。
2 博の不安感をとり除く方法を考えること。
3 博の興味を大切にしてあげること。
4 日常生活の中で頭目耳口手足と体のすべてを使わせることを心がける。
5 親は障害児だと特別視して別の考え方をしてしまいがちだが、普通の子どもと同じなんだと親自身が認識すること。
6 楽しい体験をさせること。それは対人関係の広がりにもつながる。
7 母親が生産的趣味をもつこと。子どもだけにかかわっていると視野が狭くなり、心のゆとりを失う。

(2005.4)


  目次

はじめに

夫婦、家族

幼稚園、小学校

中学校

地域社会

夫の障害

博の障害

博と私のトレーニング


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