『 障害児と性 〜思春期の実像〜
服部 祥子:編著 服部 祥子・渡辺 純・岡田 督・岡本 正子・前田 志寿代:著
日本文化科学社 定価:1650円+税 (1989年7月)
ISBN4-8210-6681-5 C3037 P1700E

いまから、20年ほど前に書かれた障害児と性の問題について書かれた本です。
編者の書かれた「精神科医の子育て論」に感銘を受けて、すぐに本書も購入したのですが、残念ながら肩すかしをくらったようにも思えました。
たしかに、それまでタブーとまでは言わないまでも、あまり取り上げられることのなかった、障害児、なかでも自閉症児の性について考察されているという点では大きな意義を持つ本だとはいえるでしょう。
しかしながら、本書のほとんどの部分は、いわゆる学校の授業で学ぶ性教育という雰囲気で、目次を見てもおわかりのように、一般論や医学的な話、統計的分析などとなっています。実際の例としては、4章と5章の最後にそれぞれ数ページずつの症例が載っていますが、他の部分はいわゆる学術的な論文です。
また、その症例にしても、それぞれの子どもの起こした行為について、その背景や特徴の事実を著述するだけで終わっており、ではこれを基に他の自閉症児たちにどう対応していくべきか、という提案まではいたっていません。
ただそれは、20年前の症例なので、当時は自閉症児への働きかけや療育方法がまだ試行錯誤の面もあったことを考えるとやむをえなかったのかもしれませんね。
でも本書以後も、正面からこの問題を取り上げている書物が少ないのをみると、いまだに性の問題はその対応方法は試行中なのかもしれません。一方でその間にも、性の問題と重なるように、被害者や加害者としての事件が自閉症児者やアスペルガー症候群を巡っておきています。その対応が急がれるようにも思います。
『わが子の思春期や性のことを言われるとつらい。まわりには春が来ているのに、ここだけには春が来ない寂しさを感じます』とおっしゃったお母さん。『障害児には性など無縁だ。一生目覚めることもないし、目覚めさせる必要もない』と硬い口調で語られたお父さん。
毎日接しておられる親御さんの言葉ゆえに特別の重さがありますが、それでもなお私どもは障害児の思春期を、障害児の「性」をとりあげずにはおられません。人間らしいやわらかさ、のびやかさ、傷つきやすさをふんだんにもつ思春期と、その思春期の中心に座を占める「性」は、誰にとっても大切な人生のテーマです。
障害児も避けて通ることはできないし、避けてはならないと思います。
それから20年経った今、今でもこの本の症例に似た話をきくことがあります。このお母さんやお父さんの思いも大きく変わっているとは思えません。
避けて通る気はありませんが、ではどのように支援していけばいいのか・・・・早く本書の続編が著されることを期待しています。
(2009.2)

目次

はしがき
1章 障害児と思春期 − 基本的視点
 1 なぜ今障害児の思春期に目を向けなければならないのか
    (1)思春期は人間に特有のもの
    (2)障害児も思春期を避けて通れない
    (3)思春期の危機は好機でもある
    (4)思春期は子ども期を整理し、大人期を準備する時
 2 やがて来る思春期の課題
      − 誕生から始める性教育の目標
    (1)第二次性徴
    (2)親(母)子分離
    (3)仲間体験
 3 乳幼児期からの全人的性教育
      − 思春期を迎え・越えるための準備
    (1)乳児期
    (2)幼児期
    (3)児童期
 4 思春期を迎えた障害児たち
      − その困難性と対応について
    (1)身体像および性同一性の混乱
    (2)親(母)子間の緊張
    (3)仲間からの孤立
 5 障害児も健常児も同じ地平線上を歩む仲間
      − 子ども期・思春期・そして成人期へ
2章 性とからだ
 1 性が決まるしくみと過程
    (1)染色体の性
    (2)性腺の性
    (3)ホルモンの性
    (4)性器の性
 2 思春期のからだ
    (1)第二次性徴の発現のしくみ
    (2)からだの変化
    (3)第二次性徴発現が及ぼす影響
 3 障害児(者)の特徴と発達
    (1)性分化・性徴の異常を示す疾患
    (2)発達障害児の身体発育と第二次性徴
3章 性とこころ
 1 性とは何か
    (1)セクシュアリティ
    (2)性差
    (3)ジェンダーアイデンティティ
    (4)性と環境
 2 性心理の発達
    (1)胎児期
    (2)乳児期
    (3)幼児期
    (4)児童期
    (5)青年前期(思春期)
    (6)青年後期
 3 障害児の性心理
    (1)認知的側面
    (2)対人・情緒的側面
    (3)我々の調査から
4章 性ととまどい
 1 青少年の性意識と性行動
    (1)日本性教育協会による調査から
    (2)東京都調査「大都市高校生の性をめぐる意識と調査」から
 2 障害児の性意識と性行動 − 現在までの調査研究から
    (1)障害児の性意識・性行動に関する調査研究
    (2)とくに自閉症児(者)の性意識・性行動に関する調査研究
 3 我々の調査から − 自閉症児と精神遅滞児の相違点を中心に
    (1)第二次性徴に対する気づき・関心について
    (2)性を巡る行動について
 4 症例
5章 性と教育
 1 性教育の歴史と意義
    (1)日本の性教育の流れ
    (2)性教育ってなんだろう
 2 障害児の性教育
    (1)家庭における性教育
    (2)地域社会における性教育
    (3)外国の性教育に学ぶ
 3 症例
参考文献

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