『 ゆたか物語 』
創ってきたのは笑顔と未来
佐藤 貴美子・水野 敬美・藤林 和子:著 クリエイツかもがわ
定価:2000円 + 税 ISBN4-87699-678-4 C0036 ¥2000E
日本ではじめての障害者の共同作業所といわれる、名古屋の「ゆたか共同作業所」の設立と営みを縦軸に、そこに集った若者たちの熱い思いを横軸に綴った “物語”です。
作者はいずれも、日本民主主義文学同盟員の3人の女史です。当事者ではないにしろ、当然綿密な取材をして書かれたのであろう本書は、当時の様子を生き生きと綴っています。
そこに通う障害をもつ “仲間”のことも、丁寧に書き込まれていますが、むしろ主人公は中心となってその指導・運営にあたった3人の青年、「松島四朗」、「田中幸雄」、「木村誠二」の青春群像です。どこまでが真実で、どこからが虚構の物語なのか、それは定かではありませんが、その後の「社会福祉法人 ゆたか福祉会」の歩みをみていると、事実関係は真実のままに書かれているのでしょう。
若干の政治的臭いは気になりますが(名古屋の本山“革新”市長の誕生に向けて作業所を挙げて支援活動を行ったり、京都の峰山共同作業所の取り組みの紹介に「さすが蜷川府政の京都だ」と評価したり・・・)、その行ってきたことは先駆的な試みで、後に続く者にとっての道しるべとなる活動であったことは間違いないと思います。
気になるといえば、1977年の全障研(全国障害者問題研究会)大会の夜、「共同作業所全国連絡会」の結成総会が行われるシーンも、クライマックスで感動的なのでしょうが、私には共感というよりは読んでいて少々居心地の悪さを感じてしまいました。
「本日ここに産声をあげる共同作業所全国連絡会は、研究運動である全障研と要求運動をすすめる障全協に学び、障害者の権利保障運動の一翼を担うものです。その基本的性格は、障害者と家族の切実な願いに応え、成年期の働く場づくり、労働権をめざす事業運動です。」
誠二は会場を見廻した。「研究運動、要求運動に、事業運動を加えるわけです」
よし、わかった
すっきりした会場から声が返る。打てば響く感じだ。
どこかの党の集会にうっかり紛れ込んでしまったような・・・そんな印象を抱いてしまったのは私だけだったのでしょうか。
もちろん、特定の政党名などがでてくるわけではありませんが、少し気になって「お薦め本」として紹介するのは、若干躊躇してしまいました。続編では、ゆたか作業所やみのり作業所に通う“仲間たち”を主人公にした話を、それもできれば当事者の方が綴った言葉で読んでみたいな・・と期待しています。
(2004.7)
目次
第1部 われら青春の時 ・・・・・・・・・・・・・ 佐藤 貴美子
第1章 最初の一歩
第2章 三日目
第3章 みんな、すごいよ
第4章 夢の担い手
第5章 自分の人生を生きたい第2部 働く仲間たち ・・・・・・・・・・・・・・・・ 水野 敬美
第1章 仲間たち
第2章 ゆたか作業所
第3章 マイクロバス第3部 ゆたかなみのり ・・・・・・・・・・・・・・ 藤林 和子
第1章 地域へ
第2章 親子
第3章 土台づくり
第4章 リサイクルの夜明け終章 源流 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 佐藤 貴美子
あとがき