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『 自閉症児の遊戯療法 』
平井 信義:著 東京書籍 定価:1500円+税
3336-566021-5313


本書が発行されたのは、昭和58年で、序文の出だしにはこう書かれています。
遊戯療法がわが国に紹介されたのは、昭和30年代の前半であるから、すでに4分の1世紀の歴史がある。とくにアックスライン,V.著『遊戯療法』が小林治夫氏の訳で出版されて以来、子どもの問題行動の治療にはもっぱらこの方法が用いられ、自閉児をも対象とするようになった。われわれは、共感(empathy)を基盤とするこの遊戯療法を大切にしてきたし、今日もなお用い続けている。
ただし、この時点ですでに著者も記述しているように、この遊戯療法に対しては疑問の声があがっています。
ところが、最近、自閉児の治療に当たっている者、とくに児童精神医学者の中に、遊戯療法は効果がないと断言する者が多くなっている。
これに対して、筆者は「遊戯療法そのものが効果をあげていないのではなく、治療者が未熟なために効果があがっていないのではないかと考えられる」と反論されていますが、本書が世にでてから、さらに四半世紀が経過して、その答えは出たのではないでしょうか。
「治療にはもっぱらこの方法が用いられ」てきた中で、育てられてきた子どもたちが成人となり、遊戯療法は効果があったとしたら、今でも遊戯療法は広く行なわれていることでしょう。
残念ながら、私達は遊戯療法や受容療法しかなかった頃の先輩方、ご家族の方の苦労を見てきています。もちろん、共感や受容の大切さを否定する気はありませんが、それだけでは子ども達への支援としては不適切であった・・・というのが、本書が発行されてからの歴史が物語っているように思えます。
自閉症の障害の特性を知り、個々の子どもたちの状態を把握して、それぞれの子ども達にわかるように支援を組み立てていく。それが安定した暮らしにつながり、豊かな人生を保障していくことになるように思います。
あるいは、筆者の言うように、本当は、遊戯療法は間違っているのではなく、治療者が未熟だったのかもしれません。でも、遊戯療法が紹介されてから、合計で半世紀、遊戯療法に熟練した治療者を育てることができなかったのだとしたら、自閉症児たちにとって「遊戯療法」は間違っていたとしか言えないと思えます。
また、この本自体にしても、事例として紹介されているのは「学生(たち)が私から卒業論文の指導を受けながら、自閉児の家庭に出向いて自閉児に体当たりをする過程でさまざまな困難に出会い、悩みを体験しながら自閉児との間にラポールをつくりあげた記録である」。当然、学生たちは未熟であり、「戸惑いの時期」「怒りの時期」「精神的葛藤の時期」を通り越し「受容の幅がひろがる時期」に至ったのは、本来は治療者であるべき学生たちです。
遊戯療法が真の効果をあげるためには、治療者が人格を変革するための努力をたゆみなく続けることが必要であり、この努力をおこたっていては、遊戯療法はにせ物になってしまう。
ちょっと違うのではないでしょか。
この間成長したのは、学生達であり、自閉症児にとっては一緒に遊んでくれるお姉さんができた・・ということに留まっているように思えました。この間に本当に成長するべきは子ども達だったはずです。
それを「自閉症児の遊戯療法」として紹介せざるをえなかったところに、療法としての限界がみえてしまったように思いました。
(2006.11)

  目次

序章
原因論または範疇論
治療法について
私の考え方
本書の意義
第1章 遊戯療法とは
1 治療者
子どもと楽しく遊ぶことができる
子どもと共感できる
子どもと遊ぶことを訓練する
子どもを完全に受容できる
2 遊戯室と玩具・遊具
3 遊びの本質
4 治療の方法
5 自閉児のための遊戯療法
自閉児の本質
ラポールの成立
まなざしの意味
からだでのあまえの意味
一緒に遊ぶことの意味
不適応な行動に対処すること
受容ということ
第2章 事例を通じて
1 戸惑いの時期
自閉児に無視されたり拒否されることによる戸惑い 《エピソード 1〜7》
自閉児の言語表現が理解できないことによる戸惑い 《エピソード 8〜13》
かんしゃくに対する戸惑い 《エピソード 14〜16》
2 怒りの時期
治療者の期待にそわない自閉児の行動に対して 《エピソード 17〜21》
自分本位な探索行動に対して 《エピソード 22〜24》
社会的規範に反する行動に対して 《エピソード 25〜36》
あまりにも自分本位な行動に対して 《エピソード 37〜45》
危険な行動に対して 《エピソード 46〜50》
時間制限が守れないことに対して 《エピソード 51〜52》
その他の行動に対して 《エピソード 53〜66》
3 精神的葛藤の時期
治療者の価値観の崩壊 《エピソード 67〜77》
4 受容の幅がひろがる時期
第1期 《エピソード 78〜94》
第2期 《エピソード 95〜102》
第3期 《エピソード 103〜116》
第3章 治療者の自己変容と自閉児の変化
1 Aの治療者
第1段階 (第1回〜5回)
第2段階 (第6回〜12回)
第3段階 (第13回〜16回)
2 Bの治療者
第1段階 (第1回〜4回)
第2段階 (第5回〜30回)
  A−ラポール 第1段階
  B−ラポール 第2段階
  C−ラポール 第3段階
第3段階 (第31回〜42回)
第4段階 (第43回〜46回)
第5段階 (第47回〜50回)
総括
3 結語
索引

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