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  『 ガイドブック アスペルガー症候群 』
             
親と専門家のために

トニー・アトウッド:著 冨田真紀/内山登紀夫/鈴木正子:訳 東京書籍 定価:2800円 + 税
ISBN4-487-76173-5 C0047 ¥2800E


考えてみると、この本がアスペルガー症候群の関係者(本人、家族、療育者)にとって、はじめてのガイドブックだったのかもしれませんね。
たしかに専門書はいろいろありましたし、自閉症(特に高機能自閉症)に関連しての書籍も販売されています、

著者が師事したローナ・ウィングやウタ・フリス先生も、解説書はたくさん書かれていますが、アスペルガー症候群に絞って、さまざまな問題・課題を網羅し、しかもすぐに療育に役立つようなガイドブックはこれまで見当たりませんでしたね。

本の内容は、ともかくも実践を根っこにおいて、臨床の現場での体験談や、テンプル・グランディン女史・ドナ・ウィリアムズさん、その他アスペルガー症候群の本人達の感じ方や意見をもとにして、彼らの側に立った支援を提唱しています。アドバイスも極めて具体的で、すぐにでも取りかかれるものばかりです。

それにしても、この本を読み終えて感じたのは、厳として存在する、自閉症スペクトルという共通の困難さでした。理屈では承知していたつもりの共通点でしたが、特に本人の方たちから語られるこの世界の様子は、我が子(カナー型自閉症)にもあてはまるのではないか、と思われるところがたくさんありました。ましてアスペルガー症候群の子どもを持つ親の方にとっては、参考になることがいっぱいのガイドブックです。

子どもたちが、今の自分の気分を伝えるための感情メーターや、指し示すためのいろんな顔(40種類)はすぐに役立つアイテムだと思います。また適切な社会的行動を、自ら考えてもらうためのコミック会話(線画で人の形を書き、吹き出しに発言や考えている事、色やシンボルで気持ちをあらわす)の作り方なども紹介されています。

いかにすれば、アスペルガー症候群の人たちを理解できるか、援助できるかという観点からまとめられたハンドブックです。

また新たな見方もiいろいろ教えられた本でした。
たとえば、彼らは会話の雰囲気や言外にこめられたニュアンスを読み取ることは苦手だと聞いていましたが、さて、我が子たちはこのニュアンスを聞き取ることができるのしょうか。青字が強調された箇所です。(A.マシューズ「友人を作ろう」よりの引用紹介)


私は彼女が私のお金を盗んだとは言いませんでした。

私は彼女が私のお金を盗んだとは言いませんでした。(しかし誰かが言った)

私は彼女が私のお金を盗んだとは言いませんでした。(私は絶対に言っていない)

私は彼女が私のお金を盗んだとは言いませんでした。(しかし私はほのめかした

私は彼女が私のお金を盗んだとは言いませんでした。(しかし誰かが盗んだ)

私は彼女が私のお金を盗んだとは言いませんでした。(しかし彼女はお金び関して何かをした)

私は彼女が私のお金を盗んだとは言いませんでした。(彼女は誰かのお金を盗んだ)

私は彼女が私のお金を盗んだとは言いませんでした。(彼女は私のお金ではない何かを盗んだ)

いかがでしょう? たしかに彼らにとっては難しいかもしれませんね。
でもこのこめられたニュアンスを理解しないと、普通学級ではみんなとスムーズに会話できないかもしれません。
健常児なら自然に覚えることも、彼らは理屈で学習していかなければならないのでしょうね。大変ですけど頑張りましょう。

(2002.5)


  目次

謝辞
序文 ローナ・ウィング
はじめに

第1章 診断を受けるまで

アスペルガー症候群の診断

第一ステップ 評定スケールを用いる
  ASAS(アスペルガー症候群 豪州版スケール)
第二ステップ 診断的評価

診断の基準

診断までの六つのルート

1 幼児期の自閉症の診断から
2 初めての学校生活の経験から
3 別の症候群の変則的な現われから
4 近親の自閉症かアスペルガー症候群の診断から
5 二次的な精神医学的障害から
6 成人期に残存するアスペルガー症候群から

第2章 社会的ふるまい

社会行動に関する診断基準
ほかの子どもとの遊び
暗黙の行動基準
   「社会生活ストーリー」
適切な社会行動を教えるには
   親にできることは? 教師にできることは?
社会的技能の学習グループの活動
友人関係
アイ・コンタクト
感情
感情の理解を促すための工夫
感情の表現を促すための工夫

まとめ 【 社会行動の特性に対処する 】

第3章 言語

語用論、すなわち会話の技術
   「コミック会話」
字義通りの解釈
プロソディ(音調)、すなわち話し言葉のメロディ
杓子定規な話し方
特殊な言葉の使い方
思考を言葉に出す傾向
聴覚による識別と混乱
言葉の流暢さ

まとめ 【 言語の特性に対処する 】

第4章 特別な興味と日々の決まり

興味と決まりに関する診断基準
特別な興味
   会話をうまく進めるために
   知的能力を示すために
   秩序と不変性を得られるために
   リラックスする手段として
   楽しめる活動として
特別な興味への対処法
   監督下で楽しむ
   建設的な方法への適用
日々の決まり

まとめ 【 特別な興味と日々の決まりに対処する 】

第5章 運動の不器用さ

どのような能力が影響されるのか?
   移動能力
   ボールを扱う技能
   バランス
   手先の器用さ
   字を書く
   せわしなさ
   関節のゆるみ
   リズム
   動作の模倣
ほかの運動障害との合併
   トゥレット症候群
   カタトニアとパーキンソン症状
   小脳障害

まとめ 【 運動の不器用さに対処する 】

第6章 認知のはたらき

心の理論
認知テストによる能力プロフィール
記憶力
思考の柔軟性
読み・書き・計算の技能
想像力のはたらき
映像による思考

まとめ 【 認知の特性に対処する 】

第7章 感覚の敏感性

音に対する敏感性
触覚の敏感性
味覚と食感の敏感性
視覚の敏感性
嗅覚の敏感性
痛みと熱さに対する感受性
共感覚

まとめ 【 感覚の敏感性に対処する 】

第8章 よく受ける質問

1 遺伝することがあるのか
2 妊娠中や出産時の障害が原因か
3 脳のどこに機能不全があるのか
4 親の育て方が悪かったのか
5 ほかの障害との合併はあるのか
6 正常範囲の能力・人格と「症候群」との違いは何か
7 言語の障害から二次的に生じる問題なのか
8 注意欠陥・多動性障害(ADHD)との合併はあるのか
9 精神分裂病になることがあるのか
10 高機能自閉症とアスペルガー症候群の違いは
11 女児には症候群の独特の現れ方があるのか
12 不安感をどのように静めたらよいのか
13 抑うつ的な状態になりやすいのか
14 気分の変動や怒りをどのようにコントロールするか
15 青年期にはどんな変化が訪れるのか
16 人との普通の親しい関係を作れるのか
17 犯罪行為に走りやすいのか
18 どんな社会的資源を必要とするのか
19 学校や教師に何を求めるべきか
20 アスペルガー症候群の語を用いる利点は?
21 子どものことを、どの範囲に、どう知らせたらよいか
22 どんな職業が適しているのか
23 将来はどんな人生を送れるのか

あとがき  自閉的でない「自閉症」 冨田真紀・内山登紀夫

親の立場で本書に関わって     鈴木正子

著者・訳者紹介
事項索引
人名索引
文献

資料 1 感情と友人関係 関連資料
資料 2 アスペルガー症候群関連インターネット上のウェブサイト等
資料 3 今日の気分は?
資料 4 診断基準


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