『 ヒロシ と トニー 』
小橋隆一郎:著 浩気社 定価:1600円 + 税
ISBN4−906664−13−X C0093 ¥1600E
少し変わった本です。
「自閉症の男の子とクマのぬいぐるみの物語」とあるように、ぬいぐるみ「トニー」の一人称で話が綴られています。「ぼくの名前はトニー、クマのぬいぐるみです。」
その意味では童話に分類されるのかもしれませんが、読者の対象をどんな方においているのか・・・なにしろ、最初はヒロシくんの7歳の誕生日から話は始まるのですが、思春期になり精神病院に入院となり自慰の話題がでたり、拘束衣が登場したり・・・やはり、子ども向けではなく、大人を対象とした本なのでしょうね。作者は、杏林大学教授の小橋医学博士なので、先生には少し畑違いの童話形式だったのかもしれません。
日常会話のなかに自閉症についての医学的説明が唐突に出てきたりします。
施設の運動場でサッカーしながら、先生同士の会話・・
「純粋という言葉が的確かどうかはわからないが、なにもスポーツでなくても、いろいろな価値観が同居するわれわれの社会の中で、単一の価値観しか持ち合わせていない彼らが、われわれといっしょに生活をしていくこと自体、彼らにとっては大変なストレスになっているのだろうね」
こんな会話を交わすことは、現実的には・・物語と言われてしまえば、確かにそうなんですが (^_^;)・・少々違和感を感じました。
やはり、餅は餅屋、小橋先生には普通の自閉症についての解説書を書いていただいたほうが自然に読めるのでは・・・などと思ってしまいました。それでも、今回、お薦め本に紹介したのは、後半物語が動き始めると思わず感情移入がはいり、惹きこまれていったからです。
内容については、「物語」ですから、これ以上は話せませんが、おそらく小橋先生が臨床の現場で得られた体験のいくつかを物語に構成されたのではないでしょうか。
自閉症児・者をとりまく現実のハードさと、その一方で人のもつ優しさなど・・怒りを感じたり、ホッとしたり・・この先はみなさんもトニーと出会って、いっしょに感じてください。(2002.10)
目次
プロローグ
十六歩の廊下
麒麟
ライバル登場
雨時計
ミーシカ
風・カゼ・風邪
予期せぬ出来事
鉄格子
カウンセリング
飛行機
白衣の天使
逃避行
虹の階段
ヒロシとトニー
エピローグ