『 この子らを世の光に 』
糸賀一雄の思想と生涯
京極 高宣:著 NHK出版 定価:1500円 + 税
ISBN4‐14‐080587‐0 C0036 ¥1500E
「この子らを世の光に・・」そう壇上で訴え続け、その講演会の席上で倒れ、糸賀先生が亡くなられたのは1968年9月のことでした。
今から 35年前のことです。それ以来、知的障害児の療育について先生を超える思いを持った方は、残念ながらそう多くは見つけられません。・・私が尊敬するのは、なずなで「共に生きる」実践を続けていらっしゃる近藤原理先生ぐらいでしょうか。そんな「知的障害者福祉の父」として称えられる糸賀先生ですが、亡くなられたのは 54才、あまりに早過ぎる一生でした。
私ごとですが、あとわずかで私も糸賀先生が倒れられた年になります。私のこれまでの生きた年数と、糸賀先生のその年までに果たされた成果を比べると、自分の安易に過してきた人生に申し訳ないような思いにとらえられます。
同じ一生であるならば、少しでも先生に近づきたい・・・そうは思いながらも、日々の晩酌に甘えてしまう自分に反省です (^_^;)本書は、その糸賀先生の人生を、もう一度振り返りながら、先生がどのような思いで子どもたちに接していたのか、どのような未来を子ども達に託していたのか、新たな視点でとらえなおしています。
今まで、ここまで掘り下げた考察はなかったと思います。
決して神格化するのではなく、人としての糸賀先生の限界にも配慮しつつ、そのたどってきた思想の変遷や、成し遂げられた成果について綴られています。「謙虚な心情に支えられた精神薄弱な人びとのあゆみは、どんなに遅々としていても、その存在そのものから世の中を明るくする光がでるのである。単純に私たちはそう考える。
精神薄弱な人びとが放つ光は、まだ世を照らしていない。世の中にきらめいている目もくらむような文明の光輝のまえに、この人びとの放つ光は、あれどもなきがごとく、押しつぶされている。
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しかし私たちは、この人たちの放つ光を光としてうけとめる人びとの数を、この世にふやしてきた。異質の光をしっかりとみとめる人びとが、次第に多くなりつつある。
人間のほんとうの平等と自由は、この光を光としてお互いに認めあうところにはじめて成り立つということにも、少しずつ気づきはじめてきた。」糸賀先生の著作は、本書の中でも紹介されているように「この子らを世の光に」 「愛と共感の教育」 「福祉の思想」 などがあります。
本書を片手に読み返せば、また新たな発見や、いままで気づかなかった先生の意図を知ることができると思います。
改めて読み直してみてください。(2003.11)
目次
まえがき
第1部 福祉政策と糸賀一雄
序 近江学園と糸賀一雄
第1章 戦後社会福祉と糸賀一雄
戦後社会福祉の二大支柱 ― 生活保護法と児童福祉法
糸賀を担いだ二人の教育者
ノーマライゼーションの提唱第2章 社会福祉の改革 ― 措置から契約へ
三点セットの行政丸抱えシステム
介護保険外の障害者介護
福祉基礎構造改革とは
自立の意味
自助と互助と公助第3章 糸賀思想の今日的意義
問われるサービスの質の評価
社会福祉協議会の役割
地域とのつながりを豊かに ― 近江学園とレガート甲賀
必要なビジネス感覚
実践思想家としての糸賀第4章 21世紀への糸賀思想のメッセージ
糸賀の人となり
新しい理念としての自立支援
21世紀は福祉の世紀
第2部 糸賀一雄の福祉思想
序 糸賀思想の分析視角
第1章 糸賀一雄の生涯
1 青少年時代
キリスト教との出会い
聖パウロに学ぶ2 代用教員及び召集解除の時代
生涯の同志 ― 池田太郎と田村一二
3 滋賀県庁時代
異例の抜擢、秘書課長に
学生義勇軍のリーダーとして
近江学園構想の発端4 近江学園時代
施設づくりに奔走
研究部に教育専門家の配置を
「びわこ学園」の創設第2章 糸賀一雄の福祉実践 ― わが国の先駆的実践例
1 近江学園の創設
2 重度障害者への対応
3 精神薄弱者福祉法(現・知的障害者福祉法)の成立への貢献
4 「手をつなぐ親の会」などの支援
5 早期発見・早期療育システムの開拓的試み
6 福祉リーダーの養成第3章 糸賀一雄における福祉の思想
1 青年糸賀の思想形成 ― その哲学的背景
キリスト教との出会い
宗教哲学的省察
シュバイツァーの限界に挑戦
二人の恩師の影響2 糸賀の福祉理念 ― 発達保障の考え方
きわめて現代的な理念
「発達保障」の考え方の誕生
島田療育園と近江学園
「発達保障」と「この子らを世の光に」の対比終章 糸賀の思想的遺産 ― 世界の中での糸賀の福祉思想
1 克服すべき課題
自立と保護との相克
職員に対する人権擁護
公私の役割分担2 糸賀思想の先駆性
世界の中での位置づけ
3 「光」の意味するもの
糸賀一雄年譜
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