『 高機能自閉症 アスペルガー症候群 入門 』
内山登紀夫・水野薫・吉田友子:編 中央法規 定価:2000円 + 税
ISBN4−8058−2185-X C0037 ¥2000E
これまで長い間、高機能自閉症やアスペルガー症候群のハンディをもつ子ども達は小学校や中学校で、誰からもその障害を理解されずストレスにさらされて生活してきたのではないでしょうか。
でも考えてみると、すでに卒業された方に比べると、今学校生活をおくっている子どもたちは、ある意味、恵まれているといえるかもしれませんね。
なにしろ本書のような・・ そんな子ども達を正しく理解し、適切に指導できるようにアドバイスできる本を手にとることができるようになってきたのです。
少なくとも10年前だとしたら、この子たちは「わがままな子」「しつけの悪い子」、あるいはクラスメートからは「おかしな子」「融通のきかない子」などと。反発されたり、いわれのない叱責を受けたり・・・ 自分自身も苦しんで生きてきたのではないでしょう当時の苦難の様子は、その時代をくぐり抜けて来た森口奈緒美さんの「変光星」や「平行線」を読んでいただければよく実感できると思います。
どこかで、テンプル・グランディンさんと森口奈緒美さんに触れられた話を聞いたことがあります。
「グランディンさんが適切な療育を受けて才能を伸ばしてこられたのに対し、森口さんは当時の学校やまわりからはずっと理解されないままであった。森口さんはグランディンさんより不運であったのは、(同じ高機能自閉症というという障害を持ちながら、)この日本に生まれてきたこと・・」
でも、この本が広く読まれていくと、こんな話も昔話になる・・・早くそうなってほしいと願っています。さて、本書の内容は、高機能自閉症やアスペルガー症候群の基礎的な知識の理解から始まり(特に学校の先生方・・彼らを担任するのはほとんど普通学級の先生方です・・には、まだこの障害についてご存知ない先生もいらっしゃいます) ます。
まず、正しく知っていただくための第1章「高機能自閉症・アスペルガー症候群とは何か」です。そして次は、そんな子ども達への実際の支援の方法の紹介が続きます。まずは家庭での療育・・子ども達の特性を理解したうえで、いかに彼らが、彼らのままで周り(社会)とうまくおりあっていくか・・ そのためのアドバイスが続きます。
このあたりは親としてしっかり援助していくためのノウハウがいっぱいあります。4章「高機能自閉症の子どもへの保育・教育」は園や小学校での指導のポイント・・ぜひ、担任の先生にもお願いしたいこと、配慮していただきたいことが述べられています。
この本の特徴の一つは、この本が子ども達のために医療の専門家と、実際の教育現場の先生との協力によって出来上がったことにもあると思います。この章もそれぞれの立場、実践の場からの療育方法が綴られています。明日からすぐにでも園や学校で、役立ててほしいと願う本です。
(「会報 49号」 2002.06)
目次
はじめに
第1章 高機能自閉症・アスペルガー症候群とは何か
医学的理解と治療
1 高機能自閉症・アスペルガー症候群とは
高機能自閉症・アスペルガー症候群・古典的自閉症
高機能自閉症へ和尚・アスペルガー症候群についてのさまざまなとらえ方
2 自閉症スペクトラムの基本症状
社会性の障害
コミュニケーションの障害
想像力の障害
3 高機能自閉症の随伴症状
感覚異常
運動の異常
多動
その他随伴しやすい行動特性
脳障害
てんかん
4 自閉症の疫学
自閉症の有病率
遺伝的要因
高機能自閉症の予後
5 高機能自閉症に並存することの多い障害
AD/HD 〔注意欠陥/多動性障害、多動性障害、多動症候群〕
学習障害 〔LD〕
トゥレット症候群 〔チック〕
6 高機能自閉症の医学心理学的治療
薬物療法
行動療法
TEACCHメソッド
情報提供的アプローチ
第2章 高機能自閉症の子どもの心理
1 認知の特徴と高機能自閉症
認知とは
認知を支える情報処理様式
記憶の役割
認知能力はどうやって把握するか
認知障害のために起こる症状
認知の障害を把握するためには
2 社会性とコミュニケーションの障害
他者の感じ方や考えを理解する事の困難
コミュニケーションの障害
「心の理論」の障害
第3章 高機能自閉症の子どもの家庭教育
人に不快感を与えないことば遣いができるようにする
礼儀作法を身につけさせる
家族の団らんに加えさせる
兄弟姉妹との関係を安定したものにする
効果的な勉強のしかたを考える
変わった興味・関心をどこまで許すか
知的な好奇心を伸ばす・広げる
整理整頓や身だしなみをきちんとさせるには
性への関心にどう対処するか
自分がほかの子と違う、どこか変だと言いはじめたときには
友達つきあいをうまくやっていくには
規則的な生活を送らせるためには
電話の応対や留守番、伝言などができるようにする
近所の人との上手な関わり方は
まとめにかえて − 家庭と学校(園)との連携のために
第4章 高機能自閉症の子どもへの保育・教育
1 幼稚園、保育園、小学校での高機能自閉症の子どもの特徴
高機能自閉症の子どもの人間関係の特徴
高機能自閉症の子どもの困った行動
2 幼稚園・保育園での高機能自閉症の子どもの指導
早期の適切な対応が決め手
保育者のかかわりのポイント
保護者へのかかわりのポイント
3 小学校での高機能自閉症の子どもの指導
高機能自閉症の子どもの学習指導
高機能自閉症の子どもの生活指導
ソーシャル・スキルの向上
言語・コミュニケーション能力の向上
障害の自己理解の指導
高機能自閉症の子どもの教育の場
4 幼稚園、保育園、小学校における高機能自閉症の子どもの発見と対応
高機能自閉症かなと思ったら
高機能自閉症の子どもへの対応をはじめるには
専門機関を勧めるにあたって
参考文献
執筆者一覧
第1章 1〜3
内山登紀夫 (大妻女子大学助教授・よこはま発達クリニック医師)第1章 4〜5、6 [情報提供的アプローチ]
吉田 友子 (よこはま発達クリニック医師)第1章 6 [薬物療法・行動療法・TEACCHメソッド]
藤岡 宏 (つばさ発達クリニック院長・よこはま発達クリニック医師)第2章 1、第3章、第4章 1〜2、3 [高機能自閉症の子どもの教育の場]、4
水野 薫 (よこはま発達クリニックセラピスト)第2章 2
飯塚 直美 (よこはま発達クリニック言語聴覚士)第4章 3 [高機能自閉症の子どもの学習指導]
横山 順子 (昭島市立拝島第三小学校教諭)第4章 3 [高機能自閉症の子どもの生活指導]
中野三和子 (板橋区立下赤塚小学校教諭)第4章 3 [ソーシャル・スキルの向上]
伊藤 久美 (町田市立町田第四小学校教諭)第4章 3 [言語・コミュニケーション能力の向上、障害の自己理解の指導]
牧野 知子 (町田市立忠生第三小学校教諭)