sorry,Japanese only

『 自閉症とマインド・ブラインドネス 』

サイモン・バロン=コーエン:著  長野敬・長畑正道・今野義孝:訳
青土社 定価:2600円+税 
ISBN4−7917−5532−4 C1011 ¥2600E


人には心があります。お互い相手の心を尊重したり、反発したり・・愛しあったり、なぐさめあったり、けんかをしたり・・そうして、人々は社会をつくっています。
コミュニケーションを苦手にする我が子たち、その「相手に心がある」ということを理解していなかったようです。高機能な子どもたちも同じく「相手に心がある」ということがわからなくて、学校の中でトラブルを起こしてしまうこともあります・

自閉症の障害の中核をなすのが、この「相手の心が読めない」という マインド・ブラインドネスにあるのではないか、というのが「心の理論」を提唱した筆者をはじめ、いわゆるロンドン学派の考えです。

「心を読む」ためには、どのような心の動き、感受性が必要か、またそれが損なわれている自閉症の子ども達の直面している問題点とその解決策はどのようなものでしょう。
この本では、まずその仕組み、理論的な部分の解明をはかろうとしています。

「心の理論」モジュール(Theory of Mind Module : ToMM)を構成するメカニズムには、視線検出器(Eye-Direction Detector : EDD)と意図検出器(Intertionality Detector : ID)および注意共有の仕組み(Shared-Attention Mechanism : SAM)が必要であり、それらが全て有効に働いて、はじめて人は相手の言外の意図や信念までも理解し、円滑なコミュニケーションがとれ社会に適応していくことができます。

自閉症児においては、EDDやIDはほぼ正常に機能しているが、三項表象を形成するSAMの機能に大きな欠陥をもち、ToMMがうまく働いていないというのが、筆者たちの考えです。それを論拠づけるための実験と推論が本書に詳しく述べられています。

また他にも、「心の理論」についての興味ある実験結果が述べられています。たとえば自閉症児たちは「欺き」が苦手な例として、「どちらか片手に硬貨を隠す」という遊びの中で、自閉症児たちも硬貨を見えないようにすることはできても・・・ 空いている方の手を閉じなかったり、隠す動作を堂々と見せながら手を閉じたり、回答者が推測する前に硬貨を見せたり・・・思い当たりますね。かわいいですね。
あるいは、写真を見て、「嬉しい」「悲しい」についてはなんとかわかるが、「驚き」というような信念に基づく情緒については、口があいているのを見て・・・「あくびをしている」とか、「おなかがすいている」とか、答えたり・・・

それらも含めて、この本はもっぱら理論について述べています。
ですからSAMの欠陥などから、自閉症の早期発見については役立つ情報もありますが、「では、これからどう療育していくか」についてはあまり述べられていません。

そんなわけで、お薦め図書にはちがいありませんが、すぐ役立つ情報という訳でもないので、親にとっては我が子が少し落ちついて、こどもの「自閉症」というものについてもう少し調べてみようかな、と思う時まで置いておいてもよい本かも知れませんね。

(2002.7)


  目次

序文
緒言
「マインド・ブラインドネス」の用語について

第1章 心が見えないことと、心を読むこと

第2章 進化論的心理学と社会的チェス

第3章 心を読むこと ― 自然の選択

第4章 心を読むことの発達 ― 四つの段階

第5章 自閉症とマインド・ブラインドネス

第6章 脳はどのようにして心を読むのか

第7章 目の言語

第8章 心を読むこと ― 未来への帰還(バック・トゥー・ザ・フューチャー)

謝辞
原註
訳者あとがき
参考文献
索引


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