『 自閉症の才能開発 』
自閉症と天才をつなぐ環
テンプル・グランディン:著 カニングハム 久子:訳 学習研究社 定価:2500円+税
ISBN4−05−400779−1 C3037 ¥2500E
「我、自閉症に生まれて」に続く、テンプル・グランディンさんの2冊目の本です。原題は「Thinking in Picturs」、“絵で考える”です。
自閉症者、本人の立場から自閉症特有の感覚について説明してくれています。特にその視覚優位な点は、テンプルさんのような高機能の人も、まだ認知能力の低い子どもたちも、本質的なは変わらないようです。『絵で考えるのが私のやり方である。言葉は私にとって第二言語のようなもので、私は話し言葉や文字を、音声つきのカラー映画に翻訳して、ヴィデオを見るように、その内容を頭の中で追っていく。』
言葉を持っている、言葉は知っているようにみえる自閉症の子どもたちが、話しかけられた言葉にはオウム返しするだけで、理解されていないことが多い・・・この話を聞いて納得しました。
彼らも言葉が第二言語だとしたら、より分かりやすいのは視覚的に訴える絵や写真なのでしょう。テンプルさんのように言葉を映像に置きかえることができないとしたら、最初からダイレクトに示された映像があれば、安心して暮らせるのだと思います。他にも、この本では各感覚、触覚や聴覚、嗅覚や味覚などのトラブルについても、自身の経験から語ってくれています。また彼らが苦手とする人間関係においても「デートのデータ」の章で、自らを分析しなんとか対応していこうとする方法について述べられている。
そして、専門分野の動物学から(テンプル・グランディン博士はコロラド州立大学の動物学の助教授です)、人間と動物の脳の類似と相違についても冷静に分析されています。
『 襲われやすい動物と同じように、自閉症者は恐怖の感情を抱いていることが多い。私自身の生活を視覚的象徴で絵図化しはじめるまで、私は、他の人がいつも恐怖と背中合わせ暮らしているのではないことを知らなかった。恐怖が私の固執性を高め、私の生活は恐怖を抑えることでいっぱいだった。』
理解できないパニックに襲われることのあった小さい頃の息子の姿を思い出します。
そのころ、恐怖をなんとか抑えようとしながら暮らしていたのかもしれません。もっと視覚的な支援をしてやれば、もっと暮らしやすかったかな・・と少し息子に謝りたい気もします。そんなわけで、自閉症者の気持ちを、私達にわかるように説明してくれるガイドブックとして何度も読み返したい本の一冊です。
(2002.8)
目次
序文 オリヴァー・サックス
第1章 絵で考える / 自閉症と視覚による思考
自閉症者の視覚認知能力
さまざまな思考形態
視覚化できない言葉の学習
抽象的思考の絵画化
自分で考えイメージする
第2章 自閉症の範疇 / 自閉症の診断
自閉症の診断カテゴリー
多様な自閉症
自閉症の特色
第3章 締めつけ樹/自閉症者の感覚問題
触覚のトラブル
聴覚のトラブル
視覚のトラブル
嗅覚と味覚のトラブル
感覚混乱
感覚統合
第4章 共感を学ぶ/情操と自閉症
必要なタッチング
自閉症と動物の行動
自閉症者の情操
第5章 社会の現実/私の半生
子供の頃
大学と大学院
社会へ
第6章 生化学を信じて/薬物療法と治療
度重なる神経発作
生化学の発見
自閉症と薬物治療
てんかんに似た状態
自傷癖の治療
神経弛緩剤
第7章 デートのデータ/自閉症と人間関係
「親密な」感情
私の対人関係対応法
第8章 牛の目から見た世界/動物の行動との共通点
牛になる
人間こそ問題
第9章 アーティストと会計士/動物の思いを理解する
動物と考える能力
鳥の目を持ったサヴァン
畜産動物と感情
人間と動物の脳の類似と相違
第10章 アインシュタインのまた従姉妹/自閉症と天才をつなぐ環
高い知的能力を持つ家族の中の自閉的特質
天才は一種の異常
第11章 天国への階段/宗教と信仰
自閉症者と宗教
永久不滅と人生の意味について
訳者あとがき
情報源リスト
参考文献目録