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『 信楽からの便り 』

池田 太郎(遺稿集) 恵崎 順子・林 晋:編 
社会福祉法人 しがらき会


皆様お変わりありませんか。平素は大切なお子様をお預かりしていながら御無音がちでお許しください。
4月末から信楽もぐんと気温があがって、火の気がなくてもしのぎやすくなりました。新入生も十名ほどになりまして、4月のなかば頃までは特に手がかかりましたが、一ヶ月たちました今日どうやら一応の落ち着きを見ることができ、次の段階を待ち受けている姿でございます。・・・・

こんな書き出しではじまる「信楽だより」の第1号が出来あがったのは、昭和35年4月のことでした。
糸賀一雄先生、田村一二先生らと、昭和21年 近江学園を創設された池田太郎先生は、その後の子どもたちのために信楽の地に信楽学園をつくり、さらに青年に達した子どもたちのために成人施設、信楽青年寮をつくられました。
この「信楽だより」はそんな学園や青年寮に預かっている子ども達の家族にあてて、子どもたちのようすや思いを綴ったものです。
この本では、遺稿集として、その中から池田先生の巻頭文や随筆を集めています。最初は池田先生の手書き・手刷りで、遠く離れた親元への便りとして始まったものです。

昭和35年から昭和62年まで、年に3、4回の発行で、池田先生の巻頭言が載った信楽だよりは99号で終わっています。

この “信楽からの便り”の原本である “信楽だより”は、ここでは99号で終わっている。
「とうとう百号になりますね、記念号として特集を組みたいと思っていますが、何かアイデアとかご希望はありませんか。」
99号用の原稿を、「“ 他のところで掲載されたものだが自分としては気にいっているからこれを載せたい”、と便り担当の指導員に渡してきた」と話される先生に私はこんなことを言った。12月早々のことである。そしてその月の14日、突然亡くなられた。
それで、百号の特集は池田先生の追悼集となってしまった。

(「百号特集に」 恵崎 順子)

お知らせの意味もありますから、時には行事の報告が主となっている号もありますが、随想などには先生の思いが感じられて思わず読み返してしまう号も多いです。

後半の、追悼集と合わせて先生のお人柄が偲ばれます。

此頃は余り読書しなくなっている私。しかし、それを思うとやたらに本が読みたくなる日もある。そんな時、誰かが訪ねて来て相手をせねばならぬ特のつらさ。訪ねて来た人はそんな或る日の私の心の中など解りようもない。ただ私に親しみの心を持って訪ねて来たのだ。それだけに私はだまって相手の方と苦しい思いをじっと秘めながら語り合うのである。

ちえのおくれたと言われる人に語りかけていくわれわれも、相手を思ってのことであるが、肝心の相手は、ひとりでじっとしておいてほしいと思う日もあることであろう。
そんな日のあることを、私は私を省みて思うのである。
ちえおくれの人が語りかけて欲しいと思う日に語りかけてやり、ひとりでじっとしていたいと思う日にそっとしておいてやれる私というものをつくりあげて行くことは、この年になってもむずかしいことだとしみじみ思う。

そんなことを心に浮かべているとき、
「おやじさん、外へ出てみい」という息子も声が外から聞こえてきた。急いで外へ出る。
夕焼だ。信楽のすばらしい夕焼。二人並んでだまって見ている。

大自然はいい。私の生きがい、私を心からあたたかく抱いてくれる母だ。
信楽にはさびしいときには誰よりも慰めてくれる、うっかりすると誰も気づかない大自然がある。

 (「第60号」 昭和50年3月より 一部抜粋)

映画の「しがらきから吹いてくる風」を見たあと、その優しい風は夕焼空によくにあう・・そんな心地よい風が吹きぬけまいた。

(2003.2)


  目次

“ 信楽からの便り ” について

        *

信楽だより      (昭和35年〜42年)

信楽青年寮だより (昭和42年〜62年)

        *

追悼集

近江学園での交わりから

池田先生を悼む ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 田村 ―二
池田太郎先生の思い出 1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 矢野 隆夫
池田太郎先生の思い出 2 若き時代の池田先生 ・・・・・ 矢野 隆夫
信楽、日本型コムニティケアの原点 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 小池 清廉
砕啄同時機 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 森津 二郎
追悼 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 荒川 代美子
出会い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小迫 弘義
信念と主張をもとう ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 三浦 了
うたとダンス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 下村 美智
池田先生と酒川先生のことなど ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 椹木 啓子

信楽学園での交わりから

信楽学園創立の頃の池田先生 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 神山 進
創業の難 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 北村 信雄
白いばら ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 北村 信雄
出会い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山田 和代
池田先生の想い出 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 三橋 悦子
信楽学園と池田先生のこと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山元 健
思い出すこと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 西川 礼子
池田先生の思い出 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 伊良部 裕子

信楽青年寮での交わりから

池田先生を思う ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 近藤 美彌子
姿 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山本 洋子
ただひとつの条件 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 相川 千里
池田先生と青年寮のこと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 村木 義子
思い出多い青年寮 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小山 寿男
池田先生を偲びまして ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 林 千代
百号特集に ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 恵崎 順子

        *

池田先生略歴
主な著書
受賞関係


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