【蒸気タービンの原理と構造】
蒸気タービンの原理
蒸気タービンは上の図のように,回転軸(タービン軸)の周囲に,環状に連なって取り付けられている羽根に,蒸気を作用させて回転させる装置です。
上の図では簡略化して,蒸気を吹き出すノズルが 4つだけ描いてありますが,実際にはノズルも羽根に沿って次々と連なって取り付けられた構造をしています。
また羽根の列が,上の図では1段だけですが,蒸気の持つエネルギーを効率よく吸収するために,羽根の列が何段も備えられているのが一般的です。
タービン羽根の並び
その場合,回転羽根に作用して出てきた蒸気が,上の図のように固定羽根で方向を変えられて,また次の列の羽根に作用するようになっています。
タービンの羽根の構成
羽根の立体的構成が,少しわかりにくいかもしれませんが,環状にセットされた羽根が,何段も組み合わされているのです。(外側のケーシングに取り付けられている固定羽根と,回転するローターに取り付けられている回転羽根が,交互になるように。)
ビクトリアン号の直結タービン
(ビクトリアン号は初めてタービンで走った
航洋客船で,タイタニックの8年前のことでした。)
工場で組立て中の様子らしく,一番手前が外側ケーシングの半分で,その向こうにあるのが中で回転するローター。
羽根の一部が取り付けられた状態です。
この写真のタービンは約4000馬力で,タイタニックに使われたタービンは約18500馬力でした。
【直結タービンの問題点】 (タイタニックのタービンは直結タービンでした)
タービンは装置としての その性質から,高速回転しているときに効率が良くなります。(普通は毎分数千回転という回転数で運転されます。)
一方,スクリューは低速回転のほうが効率が良く,毎分数十回転 〜 百数十回転で運転されます。⇒ つまりタービンの最適回転数とスクリューの最適回転数には,100倍近い開きがあるわけです。
しかし,タービンが船の動力として使われ始めた20世紀初めには,タービンの回転数を減速させる装置が無く,タービンとスクリューは直接つないで使われました。[直結タービン]
この場合,当然ながらタービンの回転数とスクリューの回転数は同じになります。
そこで両方の中間を採って,スクリューにとっては高速気味の毎分200回転あたりで運転されたのですが(タイタニックの場合は170回転),タービンにとっては低速過ぎ,一方スクリューにとっては高速過ぎて,どちらにとっても効率の良くない状態で運転されていたわけです。
【ギヤード・タービン】
そこで 1910年代に,回転数を落とすための歯車装置が開発され,これを備えたタービンをギヤード・タービンと言います。 ギヤード・タービンが実用化されて初めて,タービンもスクリューも,最適回転数で効率良く運転できるようになりました。
そうなるとタービンは,大出力が出せるというだけでなく,効率の点でもレシプロ蒸気機関より優れたエンジンとなりました。 第1次大戦後の1920年以降に新造された客船ではギヤード・タービンが主となり,この時点で直結タービンやタイタニック級のエンジン方式は,時代遅れとなりました。
(そのタービンも,最近ではさらに燃費の良いディーゼルエンジンに取って代わられつつあり,船のエンジンとしては数が減ってきています。)
タービンは羽根に蒸気を作用させて回転力を得るというその構造から,一方向にしか回転を生み出すことができません。 そのため船を後進させる時にスクリューを反転させるためには,別に後進用タービン(羽根の方向が前進用と逆になっています)を備える必要があります。 しかしこの後進用タービンは,前進中は無用に反対方向に回っていることになり,空気摩擦によるロスを生じます。 そのため,できることなら後進用タービンを備えずに済めば,それに越したことはないのです。 そのためにタイタニック号では,後進をレシプロ蒸気機関だけに任せ,タービンには後進タービンを取り付けていなかったのです。 レシプロ蒸気機関は逆回転ができますし,後進には前進と同じだけの出力は必要なかったので。