■はじめに
■森永ヒ素ミルク中毒事件の被害
■森永製品不買運動
■製品ボイコットの戦術
■ボイコットとは
■製品ボイコットが必要になるとき
森永製品ボイコット運動は、公害企業が被害者への弾圧をやめないなかで、被害者が人間としての権利を取り戻すために採用するしかなかった最後の手段でした。
その取り組みの歴史的意義を評価し、現代に生起している問題解決の要請とあわせて考えてみることは、とても意味のある取り組みかと考えます。
これから、国内外の公害加害企業への製品ボイコット運動と、その歴史的経緯を振り返ってみます。
(写真 森永製品不買運動で使用されたステッカー)
製品ボイコット運動が必要になる時
製品ボイコット運動は、公害企業が被害者への弾圧をやめようとしないなかで、被害者家族が人間としての復権のために国民へ広く提案できる最後の方法です。それと共に、消費者自身が社会の改善へ力を行使できる貴重な政治的一票なのです。消費社会では、投票権にとどまらず、「買わない」というボイコット行動も同じくらい大きな力を発揮します。
自由消費市場では、消費者は、メディアやネットで情報を自由に獲得できます。そのなかで民主主義や言論の自由、主権在民といった憲法の基本理念に反する企業を見つけ出すことは簡単です。
食の安全に不熱心な企業、偽装を行う企業、自らの犯した不祥事や事件に反省の色が少ない企業、左翼を装った政党政派(これは選挙で落とせますが)を利用して陰に隠れて弱いものいじめを行う企業などなど。
商品は一つではありません。いくらでも選択できます。日本は自由な国ですから、現時点で、よりましな企業が生産する多様な商品を選ぶことができます。これは通常の自由競争の反映でもあり、市場経済の基本原理です。
つまり、消費者にはいくらでも選択肢があるわけです。
まるで選挙の投票で政党を選択するように、消費者は購買行動という一票で、不正義を陰で行う企業を選別することが可能なのです。これは一見弱者のように思われがちな消費者が潜在的に持っている巨大な力なのです。消費者は、情報収集能力さえ持てば、健全な社会をゆがめる一部の悪徳企業に対して、日常的な「買わない」という行動で、大きな影響力を発揮し、社会の改善に貢献することができるのです。それを周囲にどんどん広げることも自由です。そのためにも真実を見極める力が消費者にこそ必要なのです。
メディアが口をつぐもうが、学会や評論家が黙らされようが、コマーシャルが頻繁に流れようが、気にする必要はありません。だいたい、「陰に隠れた悪事は、取り返しがつかない事態」にならないと表に出ません。そうなってからでは遅すぎるのです。事態が正義か不正義かは、市民がもつ市民的良識と常識で判断してよいのです。これは市民にしかできない能力であり、権利であり、使命でもあるのです。
もちろん、全国的な口コミやネットなどを駆使した戦術で製品ボイコットを実施すべきような陰険な悪事を働く企業など、現在の日本にはほとんど無いことを祈ります。日本に企業というものが何百万社あるか知りませんが、ほとんどの企業はまじめに操業しています。企業は利潤追求が主目的だといわれますが、その利潤の目的は、正しいやり方であれば、再生産のために必要な資金にもなり、有用な商品を安定的に生み出し、雇用を生み出し、地域に有為な貢献もし、文化を生み出すことすらあります。
したがって、製品ボイコットの対象になるのは、正しくないやり方をしている企業の中でも、相当たちの悪い企業になるでしょう。表向きのキャンペーンではなく、本質的な部分においてです。なぜなら資金力があれば美談キャンペーンなどメディアを使っていくらでも張れるからです。そういうやり方は確信的という意味で、更にたちが悪いかもしれませんが。
仮に、問題があっても、日本中の企業のうちの1社か2社の特異な企業に過ぎないことを祈ります。でも、そういった手段でなければ反省しないDNAを持ち続ける大企業が仮に存在し、陰に隠れて弱いものいじめを続けている場合、消費者は、その消費行動で、審判を下すことが可能なのです。それが「右にならえで安きに流れる傾向」に歯止めをかけ、結果的に消費者の健康と命を守ることに繋がるのです。
【森永ヒ素ミルク中毒事件】
昭和30年(1955年)、西日本を中心に発生した、森永乳業の粉ミルクによる世界史上最大の乳幼児大量死亡被災事件。
猛毒のヒ(砒)素が混入した第二燐酸ソーダ(産業廃棄物由来の格安品)を、溶解速度をアップさせて製品が新鮮であるかのように見せかける目的で、赤ちゃん用粉ミルクに添加したために発生した未曾有の砒素中毒事件です。
更に重大なのは、事件が発覚したあとも14年から20年にわたって、国、医学界、メディアを囲い込んで被害者家族の訴えを社会的に「黙殺」させ、「問題はない」「事件は存在しない」と、社会的抹殺という手法で徹底的に弾圧し続けた森永乳業の体質です。
また、一方の被害者の親を買収し、救済を訴える被害者家族へ襲い掛からせて「内輪もめ」を演出したり、「被害者は森永乳業に感謝している」という宣伝を展開し、国民から実態を隠蔽、陰に隠れて被害者の声を封殺する巧みな心理戦術の手法もこの事件から開発されました。