(2000/09/14 毎日新聞ニュース速報より)

<追跡>診療報酬改定と巨額報酬 もたれ合いクッキリ

 医師の収入に直結する診療報酬の改定をめぐって紛糾し、医師会側の要望に添う形で引き上げが決まった昨年、日本医師会と日本歯科医師会が、それぞれの政治団体を通じて総額27億円近くの政治献金をしていたことがわかった。診療報酬の引き上げという患者側の負担増につながる決定の陰で、巨額の「医療マネー」が政界に流れていたことになる。政治家への陳情とその見返りに支払われるカネ。「あっせん利得罪」創設の必要性が指摘されるなか、業界と政界のもたれ合いについて改めて議論を呼びそうだ。 
【竹中 拓実】

 今月8日付で公表された政治資金収支報告書によると、全国約15万人の開業医らで組織する日本医師会の政治団体・日本医師連盟は昨年、政党や政治家らに約13億1550万円を提供していた。さらに政治資金パーティー券購入などの「会費」も約1億1320万円を負担し、衆参両院議員との懇談会も4回開き、計約770万円使っていた。

 診療報酬の改定問題がヤマ場を迎えていた昨年12月1日、この巨額献金の「力」をうかがわせる場面があった。

 厚生省の中央社会保険医療協議会総会。報酬引き下げを主張していた健康保険組合連合会幹部と激しく対立した医師会幹部は「結構だ。我々は別のところでやる」と発言した。国の協議会ではなく自民党との直接交渉に持ち込むことを示唆したものだ。

 この後の同月18日、亀井静香自民党政調会長と日本医師会の坪井栄孝会長が診療報酬改定について基本的な考えを示す覚書を締結した。これにより、政府も19日、0・2%の引き上げを決めた。

 公表された報告書によると、日本医師連盟はこの前後の11月26日に3000万円、12月1日にも3000万円、同9日に1000万円、同15日に200万円と再三、自民党への献金の受け入れ窓口となる国民政治協会に献金していたことがわかった。

 同連盟は、これまで、献金を続ける理由について「日本の政治体制を守る必要経費。言い分を通すためにしているのではない」などと説明していたが、今回の献金については「担当役員が国際会議などで多忙」を理由に回答してこなかった。

 一方、会員約6万人の日本歯科医師連盟は約13億4810万円提供している。国民政治協会への寄付額は、97年が3億1775万、98年が4億2500万円だったが、昨年は6億6000万円に増大。献金元の団体としては、トップに躍り出て自民党最大のスポンサーになった。

 同連盟の会長職を兼務する日本歯科医師会会長は、今年3月の会長選で、自民党大物厚生族議員の支援を受けた中原爽参院議員(現・総理府総括政務次官)を破って、臼田貞夫氏が就任している。

 連盟の献金には、会長の裁量の部分が大きいとされる。献金額が昨年、対前年比で1・5倍に膨れ上がったことについて中原氏は「衆院解散が近いという情報があり、選挙協力の依頼を受けたもの」と説明し、医療報酬の改定などとの関連は否定している。

 これに対し、新たに会長となった臼田氏は「当時も引き継ぎ時も、そのような説明は聞いていない。不透明だという指摘は会員からもあり、今後は献金のあり方を検討していく」と話している。

 前々回総選挙があった96年以降4年間の両団体の寄付総額は約103億円にのぼっている。

 既存の酒店からの距離によって出店を制限する酒類販売の「距離規制」。規制緩和の閣議決定に基づき今月から撤廃される予定だったが、8月末、急きょ1年間の延期が決まった。全国約10万人の酒販店で組織する全国小売酒販組合中央会は、「規制緩和は小売店の経営をさらに悪化させる」などと主張、再検討を求めて運動を展開した。自民党では議員連盟「日本経済を活性化し中小企業を育てる会」(武藤嘉文会長)が規制緩和に反対した。

 中央会の政治団体「酉和会」(今年5月から全国小売酒販政治連盟に改称、幸田昌一代表)は自民党議員を中心に献金を行っている。99年の政治献金は寄付やパーティー券購入などで、約1億2000万円。この額自体は例年並みだが、議員連盟の武藤会長の資金管理団体「新政治研究会」へは450万円を献金している。同会は「自民党とはさまざまな場で交流を続けてきた。規制緩和の1年延期は我々の主張が若干認められた結果と考える。今後、政治活動に力を入れる必要を感じている」と話す。

 一方、武藤事務所は「陳情や献金があるのは事実だが、献金によって姿勢を変えることはない」と話している。


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