(2001. 3. 3 毎日新聞ニュース速報より)

<特報・KSD事件>村上元労相、入党届偽造に奔走

 1986年春、ダイレクトメールのあて名書きを請け負う東京都内の広告制作会社に「ほかの議員におたくを紹介された。とにかく来てくれないか」と電話があった。連絡してきたのは当時、元労相の村上正邦容疑者(68)の秘書だった前参院議員の小山孝雄被告(57)。社長が議員会館の村上元労相の事務所に出向くと、小山前議員から通信販売の顧客リスト約7000人分の名簿と自民党の入党申込書の束を渡された。

 村上元労相はその年の7月に2度目の参院選を控え、党員確保に追われていた。入党申込書にリストの住所、氏名を記入してほしいという依頼だった。申込書はカーボン紙を使った5枚つづりで、郵便物のあて名書きより手間がかかる。「分厚いので力強く書き込んでほしい」。小山前議員はそう言って2倍の料金をはずむと約束した。社長は「比例名簿の順位を上げるためだとすぐに分かった。小山さんから『500人ぐらいは同じ筆跡で構わない』と言われた」と振り返る。

 元労相側からの依頼はこの一回だけだった。村上元労相はその後2度の選挙で、ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)側に計約23万人の党員を集めてもらい、約7億円の党費の大半の肩代わりを受けた。業者の手は必要としなくなっていた。


 自民党では、参院比例代表の候補者になるため、2万人以上の党員・党友と100万人以上の後援会員の確保を条件としてきた。これを背景に、これまでも幽霊党員集めや党費肩代わりが問題化した。

 昨年7月、久世公尭(きみたか)参院議員は大手マンション業者の大京から91年に党費1億円を肩代わりしてもらったことを認め、金融再生委員長を辞任した。党員には大京社員や支援を受けていた宗教団体の会員約3万3000人を充てた。久世氏は「名簿順位を上げるため膨大な党員を集めなくてはならず、資金は団体がみる。そのシステムの中で当選ランクに滑り込むために苦労した」と実態の一端を明らかにした。

 昨年9月には富山県医師会が会員らの自民党費約900万円を肩代わりし、83年と86年の選挙ではパチンコの業界団体が3人の自民党候補者の党費を負担していたことも判明した。

 村上元労相へのKSD側の組織的な支援が始まった91年、翌年の参院選を控えて党勢拡大を図った自民党の党員は前年より325万人も多い546万人に膨れ上がり、個人党費の収入は前年の2・5倍、82億円に達した。

 2月28日の証人喚問で村上元労相は「もともとわが党は選挙の度に(実体のない)『もみがら党員』が多いのではないかと言われたが、後援会員を集めれば日本の人口よりはるかに多くなるくらいの単純計算はできる」と党員や後援会員集めの不透明さを認めた。

 KSD側は元労相のための党員集めで、大量に購入した印鑑を使って入党申込書を偽造した。参院選が近づくと、職員らがKSDの関連施設に集められ、作業が繰り返された。申込書には母印も認められていたため、職員らは両手の指を10本とも真っ赤にしながら順番に押していったという。


 久世氏の問題をきっかけに、参院選に名簿順位を付けない非拘束名簿方式が導入された。しかし、自民党は今夏の参院選でも、強力な支援組織を持つ候補者をずらりと並べた。日本医師連盟、全国土地改良政治連盟、全国建設産業団体連合会……。小山前議員が逮捕された1月16日、片山虎之助総務相は「比例選挙は(支援団体の)職域代表と
いうこともあり、(候補者と団体の結び付きは)ある程度やむを得ないところがある」と弁明した。

 その体質は変わるのか。「金を集めた人間が(名簿の)上にいく。村上君は友人だが、政治家が生き延びるために無理な算段をしなければならないような悪い選挙制度を作ったのが間違い。そういう反省を自民党はした方がいい」。石原慎太郎東京都知事は2日の定例会見で、自民党をこう叱責(しっせき)した。

 参院選での自民党のあり方が問われている。


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