(2001/04/20 朝日新聞)

「幽霊党員」に投票用紙続々到着

自民党総裁予備選

 自民党の総裁予備選をめぐって、入党した覚えがない人に、投票用紙が届けられるケースが相次いでいる。党員に仕立てられていた人たちは「だれが勝手に」と怒り、あきれる。用紙を送った自民党の各県連は「名簿通りに送ったんですが……」。KSD事件で明らかになった「幽霊党員」のまん延ぶりが浮き彫りになった。
 神奈川県藤沢市。
 薬剤師の男性宅に、7通の投票用紙が次々と届いた。本人あての2通のほか、母親、妻と20歳、17歳、14歳の子どもにも1通ずつ。だれ一人として党員や党友になったことはない。ただ、思い当たるふしはある。数年前、所属する薬剤師連盟が支援する自民党参院議員の後援会名簿に家族全員の名前を書いた。
 投票用紙が届いて以降、地元の代議士事務所から「小泉さんをよろしく」との電話が、子どもにもかかってきた。薬剤師は「あまりにもいいかげん」とあきれる。党員は18歳以上に限られるが、党友に年齢制限はない。
 本人は、自分あての2票を持って投票所に行く。「家族は本人の意思に任せます」という。
 神奈川県連は「書類がそろっていれば入党を受け付ける。数が多くて確認は事実上、不可能」。自民党神奈川県薬剤師支部は「入党希望の方のみに党員になってもらっている」と話した。
 神戸市の薬局で働く女性の薬剤師(48)にも投票用紙が届いた。兵庫県連に問い合わせると「登録されています」との答えだった。兵庫県連は「地域や職域支部で、親しい人の名前を借りるなどして登録したのかもしれない」と話す。薬剤師は「だれがやったのか気味が悪い。投票は棄権します」。
 「KSD事件と同じじゃないか」
 13日夕、東京都内の60代の男性宅に投票用紙が届いた。驚いた後、腹がたった。仕事柄、宅建協会の系列関係にある不動産政治連盟に加わって自民党候補を応援してきた。しかし、党員になった覚えはない。
 今のところ、投票依頼は、どの陣営からもない。しかし、投票日には、「幽霊党員」として一票を投じるつもりだ。
 「根っこから自民党を変えないとだめだ。幽霊の一票は怖いですよ」
 岡山県の運送会社社長あてにも投票用紙が届いた。国政選挙などで自民党候補者を支援したことがあるが、入党した覚えはない。17日の午後、地元の自民党支部関係者が会社に来た。
 「(投票用紙を)お預かりさせてください。白紙でいいんです」
 この時は拒んだが、再三せがまれたため数日後に白紙のまま手渡した。社長は「だれが党費を納めているのか。腹立たしい」と話す。党岡山県連は「名簿に従って送っただけです」。
 自民党組織本部長の牧野隆守代議士は事務所を通じて「そのような情報は聞いていないが、具体的な情報があれば、各県連に実態を調べるよう指示したい」としている。


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