第16章 帰国

もう旅も終わりです。
楽器屋に戻り、シタールを受け取ります。別送荷物には2台だけ入れて送りました。後の2台は持ち帰ることにしていたのです。万が一荷物が届かなかったときのことを考えて。何しろここはインドですから。

楽器屋の主人には高級ホテルで断られて使い道のなくなったジャケットをプレゼントします。古着ですけど、もし良かったら使って下さいと。多分喜んでもらえたと思います。嫌だったらお金に替えられますから。

帰国のため空港に向かいます。すでにこのあたりのことは記憶に残っていません。きっと社会復帰のため、頭を日本モードに切り替えようとしていたのでしょう。それほどインドでの事は強烈で、旅行中、帰国を延期したい欲求と戦うこともしばしばでした。日本で職が待っていることに救われたわけです。いえ、せっかくの機会を逸してしまったと言うべきでしょうか。

空港では、スムーズにチェックインを済ませました。おや?と思う方は、旅慣れていますね。私には3個の荷物があります。バックパックの他に、両脇に抱えたシタール2台。それぞれがギターほどの大きさがあるわけですから。当然個数オーバー。でも平気です。前章のドラッグあきんどの後について、まるで同行者のように手荷物を預けてしまいました。これで、二人で4個。あとで、「感謝しろよ」と、彼に言われました。ありがとう。

帰りもバンコク経由です。バンコクには1泊か2泊したように憶えています。バンコクに対して知識を得ていなかったせいもあり、どこにも出かける気になりません。むしろ、インドを旅して廻った後の休息といった感じでのんびりと過ごしました。

公園で暇つぶしをしていると、現地の同世代の人たちと知り合いになりました。たわいのない話しかできませんが、それでもある程度通じるものです。インドと違って明るく親しみやすい雰囲気です。タイの国民性でしょうか。話をしているうちに、日本語を憶えたいので何か教科書のようなものを送ってくれと言います。適当に頷いてはみたものの、考えてみると外国人のための日本語学習の本なんて思い当たりません。アメリカ人に、日本人が英語を学ぶための本を尋ねるようなものですから当然なのですが、彼らにしてみれば日本語は日本人に尋ねればわかると思うようです。約束はすっぽかしてしまいました。

バンコクの空港では、タイランドパックツアーの団体さんがいました。個人バックパッカーもいました。なんと呼ぶのかわかりませんが、皆麦わら帽子のような傘を持っています。なんとなくインド派と東南アジア派に分かれて列を作ります。おかしなもので、両者は同じバックパッカーの姿をしていても一目で見分けがつきます。インドのほうが薄汚れています。私もわずか1ヶ月の旅でしたが、やはり薄汚れた様子です。なんとなく自分の姿を誇らしく思っていました。何の意味もない誇りですが、当時はインドを旅するのは酔狂な人間と見られたわけで、私のような偏屈な人間にはかえって誇らしく思えたのでしょう。もちろん現在は、はるかに酔狂な旅をしている人が山のようにいますし、それを酔狂とも呼ばなくなりましたが。

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