医学関連図書の評論

今の医学関連図書の内容はまさに玉石混淆の状態で、
読めば読むほど頭の中が混乱するばかりです。

いちおう、医者である小生が、読んだ本についてのコメントを書くことにしました。
なるべく主観を排除したつもりでありますが、評論のプロではありませんので、
表現が不十分だと思います。その点はご容赦願いいたします。

なお、この評論についての反論、ご意見等ございましたら、遠慮なさらずに、
メールしていただければ幸甚に存じます。

           評価  ☆☆☆☆☆ 読まない方がよい
                ★☆☆☆☆ あまり読む価値がない
                ★★☆☆☆ 少しは役にたつかも
                ★★★☆☆ 普通
                ★★★★☆ お薦め
                ★★★★★ 絶対読むべし


うつは薬では治らない 上野玲 著 文春新書
★★★★★

 この表題とは逆の「うつは簡単に治る」的な書籍や新聞広告をよく見かけます。その度に「心について解明されてない事が多いのに、うつが簡単に治るなんて嘘だろう」と常々思ってましたが、この本を読んで、納得の連続でした。
 数年前、新世代の抗うつ薬(SSRI)が発売された際、医療雑誌や医師向け新聞に盛大な広告が踊りました。僕自身も、それを見て、「これはうつ病患者にとって福音だ」と感じた記憶があります。しかし、効果は限定的である事、うつは投薬という医療施行者のとってとても楽な方法で治ることはなく、カウンセリング等、手間のかかる手段が必要である事を知りました。
 しかし、現実的にはそのような多大な労力が必要な医療はほとんど行われていません。
最も大きな問題は、この本にもかかれてますが、うつ状態またはうつ病の患者さんが、専門医の受診をためらって、知識の乏しい非専門医を受診してしまうことだと思います。そこでは単なるうつ状態であろうが典型的うつ病でも、同様に抗うつ薬の投薬を受け、なおかつ効果の確認、副作用のチェック(これがなかなか難しい)もおろそかになっているのが現状です。
実際、SSRI発売以来、抗うつ薬を服用している中高年はとても増えました。しかし、うつ病の最悪の結末である自殺は全く減っていませんよね。
医学的な観点だけでなく、医療経済的な観点からも、うつの方は、決して非専門医にはかからないことが重要です。



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