患者になってしまった話

医者だって、病気になったり、ケガしたりしますよ。
その奮闘記???です。

猿も木から落ちる??:ある専門医の誤診 の巻き
阪神大震災から数ヶ月後の神戸での話です。

官舎から病院までの距離は約10kmでした。
震災前は車で30分くらいしか要しなかったのですが、
震災後は大渋滞の為、なんと2〜3時間もかかるようになってしまいました。
仕方がないので、バイク(750cc)で主に路肩を通行し、通勤していました。

ある朝、約80km/hぐらいで病院へ向かっていたところ、
突然脇から車が飛び出してきました。
「わー、ぶっぶつかるぅ!!!」
思わず急ブレーキをかけました。
その時路面にたくさんがあるのに気づきましたが、もう後の祭りです。
「このまま俺は死ぬのか!?」

前輪がスリップ、転倒し、体を投げ出されました。
気づいた時には、ジャンパーもズボンも穴だらけ
そのうち数カ所から出血していました。
横たわったバイクを見ると、フルカウルが大破していました。
なお、飛び出してきた車には接触はせず、その車は逃げていきました
くっ悔しい!)
集まって来た人々に「大丈夫です」と答えて、
見かけはボロボロになったバイクに乗ってなんとか病院までたどりつきました。
医局で服を脱いでキズの点検をしてみましたが、どれもこれも擦り傷だけのようです。
応急処置だけして、そのまま仕事をしました。

事故から1週間が過ぎ、たくさんあった擦り傷はほとんど治りました。
ただ、左の親指の付け根の痛みがとれないんです。
見ても特にキズもないし、内出血もしていません。
しかし、手術の時など動かしようによっては脳天に響くような痛みが走ります。
「これは、このままでは治らないぞ。腱でも痛めたんだろう」と思い
同じ病院の整形外科を受診しました。

一通りの診察を終えたF医師は
「それでは、レントゲンを撮ってきてください」

レントゲンのコーナーへ行き、パチパチと3枚撮影し、部屋の外で現像ができるのを待っていました。
暫くすると、レントゲン技師がフィルムを片手に僕の方に向かってきました。
「先生、残念ですね。折れてますよ」
「えっ!どこが折れてるんですか?」
「ここです」
「へー、さすがですね。ちょっと見ただけでは、僕にはわかりませんでした」
その技師は、ベテランって感じの方でした。
                  

その写真を診察で待つF医師に渡しました。
「ふーん、別に異常ないですね
えー!レントゲン技師が折れてるって言ってましたよ」
「それは、どこですか?」
「ここ、ここ」
「ほんとですね。折れてますね。どうしますか?」
「どうって?」
「手術するか、そのまま固定するかですよ」

(技師でもわかる骨折を見逃した医者の手術は怖いぞーー)
           ・・・・っと心の中でつぶやき、
「とりあえず、ギプス固定でお願いします」


ギプスしている間は外来等の仕事はほとんど減らしてもらえず
不便で辛い日々でしたが、約3週間でほぼ治りました。

その後F医師は、僕となるべく眼を合わせないようにしていたようです。
そりゃ「骨折を見逃した」って事を指摘されたんですもの。
「早く忘れたい。忘れて欲しい」って思っていたはずです。



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