パナソニック

白物家電

節電に磨き

製品を順次刷新

(日経新聞20119712版企業2面)

【記事抜粋】

パナソニックは6日、白物家電の主力である洗濯機、エアコン、冷蔵庫を刷新し26日から順次発売すると発表した。節電意識の高まりを受け、ドラム式洗濯乾燥機の洗濯時間を30分と国内最速にするなど高機能化した。

(以下略)

 

【コメント】

近年日本の大手家電メーカーでは「白物家電」に力を注いでいます。

洗濯機では「節水」「時短」、エアコンならば「即応」「節電」、冷蔵庫は「節電」「鮮度維持」と、総括すれば「高機能化」というキーワードに集約される開発姿勢が顕著にみられます。

東京電力福島第一原子力発電所の炉心溶融事故に始まり、その後全国に広がった原発に対する不安からの順次停止による電力不足へと発展しました。

残念ながら、この全国的な電力不足状況が、消費者の節電意識を高め、その結果、省エネ機能に優れた新しい白物家電への買い替え需要を喚起した面もあります。

さらに、今年7月にテレビの地上波がデジタルに完全移行したことにより、薄型テレビの「地デジ化特需」も一巡してしまいました。

それどころか、世界的な開発競争の激化と供給体制の加速化により、薄型テレビの価格がみるみる下落し、採算性が厳しくなる一方です。

このような外部環境があいまって、家電各社はますます白物家電に活路を見いだすことが重要な課題となっています。

 

これまでの世界的な潮流を振り返ると、白物家電の主力生産地は、20世紀の前半を通じて欧米諸国が盟主に君臨していました。

戦後日本が復興路線に乗り始めると、世界的な家電ブランドは「メイド・イン・ジャパン」に塗り替えられていきました。

そして21世紀になると、主要な家電は韓国、中国、インドなど、いわゆる新興国が圧倒的な勢力拡大を実現してきています。

要するに、白物家電の方程式(常識?)とは、

1.白物家電の世界的な供給基地となることが、先進国への「入学許可」となる

2.国際的に「先進国」と認められた国は、白物家電の供給基地から「卒業」する

といえるでしょう。

しかし今回の記事が象徴的に示すとおり、日本は「先進国」と認められる立場にありながら、さらに「白物家電」に対する熱意を高めています。

これは日本に存在する「職業観」に関連するものと考えることができます。

欧米諸国や中国、韓国などでは、いわゆるブルーカラー層よりもホワイトカラー層の方が上位に見られる「文化」があります。

欧米ではオフィサーやマネージャーが製造工やパートタイマーをコントロールしていくのがマネジメントの構図であり、中国や韓国では古来、官僚を筆頭に「知的労働者」が最も尊い職種とされ、サクセスストーリーの典型例も「職人から知的経営者への転身」が好まれる傾向にあります。

 

これに対し、日本では「創業から数十年」という老舗が数多く存在します。

しかもそれらの大半が、「持ち株会社」などの資産運用やマネジメントに特化した「脱現場」ではなく、代表取締役が筆頭の職人という技術の承継を最重要視する経営スタイルです。

そして、海外ではむしろネガティブな評価とされる「職人」であり続けることに大きなプライドを持っています。

 

このような風土が、現在の「白物家電に磨きをかける姿勢」につながっているのではないかと考えられます。

記事では高機能洗濯機の価格帯が紹介されており、実売価格を26〜30万円と想定しています。

これはかなりの高価格です。

当然、日本の大半の家庭に普及することを狙っているのではなく、価格に対する機能を評価してくれる購買層をターゲットとしています。

誤解を恐れなければ、この白物家電商品ラインナップは、「お客を選ぶ」品々であるといえます。

このような商品群は、現代日本ではマーケットが限定されてしまいますが、成長著しいBRICSを筆頭に、世界をターゲットと想定すれば、非常に大きなマーケットが期待できます。

 

「ワールド・ウェルス・レポート2011」によれば、100万ドル以上の投資可能資産を持つ「富裕層」は、世界に1090万人存在します。このうち日本国内には174万人の富裕層が存在します。

つまり、「たかが洗濯機」に30万円も払ってくれそうな人が日本国内に174万人いるということは、海外に展開を計画すれば、その6倍のマーケットが待ち受けているということを示しています。

 

しかも、こうしたモノづくりの世界は、国際競争力が意外に激化しないと解釈することも可能です。

なぜならば、モノづくりで成功した欧米中韓諸国では、次々にマネジメント層へスライドしていくことで、結局製造分野のフィールドプレイヤーが限りなく増えていくということにはなりにくいからです。

 

だからこそ、ここに今後の日本の「強み」が期待できるのではないでしょうか。

 

【今日のポイント】

モノづくりもサービスも、自社で培った「職人技」を究極まで磨き上げることで、その先には国際競争力も備えた大きな強みとして武装が可能となる!

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