公募投信の運用成績悪化

8月、3兆円超すマイナス

世界株安・円高が影

(日経新聞201191413版経済2面)

【記事抜粋】

欧米の債務問題に端を発した世界的な株安や円高が個人投資家の資産運用に影を落としている。8月は公募投資信託の運用成績が3兆円を超すマイナスになり、ギリシャの財政危機で市場が混乱した昨年5月以来、15カ月ぶりの損失額を記録。国内外の株式に投資する商品のほか、海外の債券や不動産で運用するタイプも軒並み成績が悪化した。不安定な市場環境で個人の投信購入意欲にも陰りがみえる。

(以下略)

 

【コメント】

2008年以降、個人投資家にとって思いどおりにならない資産運用の事情が続いています。

いわゆる「リーマンショック」では、サブプライムローンに関連した証券化商品は日本の金融機関はじめヨーロッパに比べて購入度合いが低かった=リスクを取らなかったため、そのダメージはそれほど及んでこないと考えられていました。

当時の与謝野馨経済・財政担当大臣も「それほど影響がない」とスピークアウトしたことからも、まさしく日本全体として「対岸の火事」と考えていました。

 

ところが、震源地のアメリカはもちろん、ヨーロッパもリーマンショックの大波をかぶれば、それによって大きく傷ついた貸借対照表の左側(資産)と右側(純資産)との、文字どおり「バランス」を均衡させるために債務の圧縮を図る一斉行動が取られました。

一言で言えば、「借金を減らすためにすべての支出を減らす」というアクションが取られました。

これによって、日本も輸出による収支プラス策が期待できなくなり、めぐり巡って日本の景気もリーマンショックの影響を受けてしまいました。

 

今日の記事によれば、公募型の投資信託が全体として運用成績が不良だったと報じられています。

外貨(ドルやユーロ)建てとか、株式投資型とかのピンポイントでは語られていません。

投資信託全体に影響があったということを意味しています。

 

ここ最近の人気商品は「グロソブ」「毎月分配」「(ブラジル)レアル投資」というキーワードに集約されます。

日本国内では低金利なので、外国の高格付け債券(グローバルソブリン債)に投資する方がリターンを期待できるという傾向が続きました。

また、高齢者は資産運用に振り向けることができる金融資産がある反面、リターンの結果をはっきりさせるまでの運用期間は寿命とのバランスからそれほど長い時間を期待することができず、比較的短期間で結果を実感できる「毎月分配」という方法が分かりやすいわけです。

そして、民主主義の政治体制が保障されつつ、資源(地上作物+地下資源)と人口(居住面積の余地)が期待でき、経済が成熟しきっていない(伸びしろがある)という条件を満たす国や地域の通貨は、世界中から関心を集めます。

その一方で、「伸び盛り=途中でコケるかも」という連想から、一部のリスクテイカー(博打打ち)を除き、世界中の大半を占める「それなりに常識をわきまえ、無謀な賭けはしたくない」人々からは敬遠される要因を含んでいます。

そのネックを解消する「保険」として、実際のお金を受け渡しする「決済」の計算には、世界で信用度の高い「米ドル」や「ユーロ」「日本円」といった主要通貨を使用することで、為替のコストがかかっても決済不能のリスクを排除するという投資信託を、日本国内で取り扱っています。

 

実はこのような金融商品が、最近の日本国内ではかなりのヒットを続けていました。

それが最近の世界金融環境変化によって、運用難を記録するようになってしまったわけです。

 

日本のバブル崩壊直前、アメリカのリーマンショック直前、そしてヨーロッパのギリシャ危機直前のすべてに共通するのが、投資家の「エンスージアスティック(熱狂)」です。

人間というものは、国籍や年齢、性別を超えて、アツくなってしまうと普段見えるものさえ見えなくなってしまいます。

 

今、このコメントに目を通している皆さんは、当然金融マーケットのリアルタイムな変動には触れていない、冷めた立場に身を置いています。

ところで、カジノでおなじみのルーレットではルージュ(赤)とノワール(黒)のどちらかを選ぶという賭け方ができます。

今まで10回連続してルージュ(赤)ばかりでした。

では、次にルージュ(赤)が出る確率は何パーセントでしょうか。

 

人間心理としては

「10回続けば11回目もアリ!」

と考えられますし、

「ここまで10回も連続したら、そろそろ逆が来る」

と考えることもできます。

 

しかし、厳密な数学的確率は、10回連続後の11回目も、10,000回連続後の10,001回目も、ルージュ(赤)が出る確率はどちらも

50パーセントです。

以上。

 

前述のとおり、冷静な立場に身を置く限り、50パーセントには疑問の余地がないでしょう。

しかし、実際にお金を出した「運用当事者」に身を置いてしまうと、この冷静な判断が吹き飛んでしまいがちです。

 

もっと当たり前の主題を提示すれば、

「永久に値上がりするものはない」

といえます。

たとえば、庶民にとって高級品の典型である「ダイヤの指輪」を例に挙げましょう。

20万円程度ならば多くの人が「高い」と思いつつ「それくらいの値打ちはある」と納得します。

しかし、同じ商品が付加価値もつかず単純に値上がりし続け、たとえば1000万円という値札がついたとしましょう。

いくらかの人々が、その指輪は以前20万円で売られていたことを知っています。

「20万円で買えた物が1000万円で売られるのはナゼ?」

という空気が漂います。

こうなると、誰も買いません。

いわゆる

「高すぎて誰も買わない」

という限界が訪れます。

 

すべての商品がいつか、この「限界」を迎えます。

つまり、すべての商品が永久に値上がりし続けることが不可能ということを示しています。

 

残念ながら「バブルまっただ中のエンスー」にこの常識が通用しません。

 

資産運用をしている人はもちろん、これから資産運用に参加しようとしている人は、ぜひ、この「エンスー」に警戒していただきたいと思います。

 

【今日のポイント】

資産運用で最も大切なポイントは、特別な能力ではなく、「普通に考えたらそんなことありえない」と判断できる「生活者の常識」である!

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