家電販売額4〜6割減

11月量販5社 エコポイント反動

(日経新聞2011121312版 企業2面)

【記事抜粋】

家電量販店大手の11月の販売額(全店、速報ベース)が前年同月比4〜6割減となり、月ベースで過去最大の落ち込みを記録した。

昨年11月は家電エコポイントの付与減額を控えた駆け込み特需が発生、その反動で下落幅が大きくなった。

薄型テレビを中心とした“需要先食い”の影響は長引きそうだ。

(以下略)

 

【コメント】

多くの事業活動において、その業務量や収益において「季節変動」というものが発生します。

その変動要因として大きく影響するものは、文字どおり「季節」と商品やサービスとの相性です。

アイスクリームは最も気温の高い7〜8月に大きく売り上げを伸ばす一方、毛皮のコートはまったく売れません。

もちろん最も気温の低くなる12〜2月にはそれぞれの商品の売れ行きはまったく逆の動きを示します。

したがって、一般に今月の売上高を前月のデータと比較することはあまり意味がありません。

前後の月とは事情が異なる面が少なくない一方、過去の同じ月にはだいたい同じような気候や環境が訪れることから、前年同月と比較することが一般的に用いられます。

 

しかし、前年同月比でも大きな変動が現れることがあります。

需要喚起のために政府が景気対策を実施した場合です。

記事にあるように期間限定のポイント付与や税優遇策があれば、経済的利益が得られる、あるいは負担が軽減される

「今のうち」

に利用したいというのは合理的な判断です。

さらに、通常はそれほど強い購買意欲がなかった人々も景気対策によって

「せっかくだから」

と購入に傾けば、さらに収益が拡大します。

 

さて、景気対策という「カンフル剤」には多かれ少なかれ副作用があります。

それが反動による売り上げ減少という形であらわになります。

そろそろ買おうかなと思っていた人に「今のうちに」と思わせ、それほど購買意欲が強くなかった人に「せっかくだから」と思わせたことは、将来の需要実現のタイミングを今に引き寄せたことであり、これが記事に指摘されている「需要の先食い」ということになります。

今年もそれなりに売れていたはずの需要を昨年で実現させてしまったことで、昨年に比べた今年の売上高は、当然のことながら大きく落ち込みます。

 

このように、前年同月との比較データは、景気や経済の代表的な分析手法として広く利用されます。

しかし、もっとミクロな視点、つまりわが社の経営という観点では、景気対策のような「特殊要因」も情報分析において邪魔になります。

特殊要因の影響をまったくゼロにすることは現実的でないにしても、極力その影響度を薄めることはできないでしょうか。

 

ひとつの手法として「移動年計」という計算方法が挙げられます。

これは金額や数量などについて、直近12カ月の合計値を毎月比較していくものです。

代表的なものが「売上年計」です。

 

移動年計の特長は、各月の数値はすべて12カ月分ですから、前年同月の12カ月分に比べてどれだけ増減したかで課題が把握しやすいことにあります。

そして、各月が12カ月分の合計値ということは、前月の年計と比較しても課題を見つけることができることでもあります。

どの月も12カ月分であれば、月別の季節要因は消されてしまいます。

そして、13カ月前の数値を引いて1カ月前の数値を加えることで、昨年発生した特殊要因の影響は、「12分の1」に薄められるという効果があります。

つまり、移動年計を用いたデータ分析は、「前年」と比較することはもちろん、「前月」とも比較することによって、1年間の変化だけでなく、1カ月の変化にも敏感に反応できるため、わずかな経営課題の兆候にもすばやく対策を講じることができるわけです。

 

【今日のポイント】

売上高は、前年同月比だけに一喜一憂せず、移動年計を算出し、できればグラフ化してみよう。

今まで見えにくかったものが見えてくるかもしれない。

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