年金減額「3年で」確認

民主調査会

(日経新聞2011121413版 経済2面)

【記事抜粋】

民主党の社会保障と税の一体改革調査会(会長・細川律夫前厚生労働相)は13日の役員会で、過去の特例措置で本来の水準よりも2.5%高くなっている年金の減額を3年かけて段階的に実施する方針を確認した。

(以下略)

 

【コメント】

公的年金制度では、

高齢者が受け取る年金給付額について、前年の全国消費者物価指数の対前年比に応じて年金額も増減する

「物価スライド方式」

が導入されています。

記事にある

「過去の特例措置」

とは、本来ならば消費者物価指数が下がれば、それに応じて年金給付額も削減すべきところ、

「景気への配慮」

という名目により給付額を据え置いたり、物価下落率よりも年金減額率を緩和したりした

「政策」

を指します。

具体的には

2000年度から2002年度の自民党政権時代に据え置き、

さらに2010年度から2011年度の民主党政権時に据え置き及び減額率の緩和を実施しています。

この結果、物価スライドを原則適用した場合に比べて、現在の給付水準は2.5%超過した状態になっているというわけです。

 

この超過状態を解消するためには、物価スライドを原則適用することに加え、超過分も削減していく必要があります。

総務省の統計によれば、今年1月から10月の全国消費者物価指数の対前年比の平均値はマイナス0.26%です。

残り2カ月の調査結果についても大きな変動がないと仮定すれば、2012年度の物価スライド適用率はマイナス0.3%程度と想定されます。

 

これに加えて超過分を減額することになるわけですが、記事によれば政府と調査会役員は「3年で解消」でコンセンサスが取れているようです。

一方、調査会の所属議員の中でも異論があり、「5年で解消」を主張する員数も少なくないと報じられています。

 

要するに、削減幅を

2.5%の3分の1にするか、

5分の1にするか、

という論点に集約されるわけです。

前者の場合はマイナス0.83%、後者の場合はマイナス0.5%となります。

これに次年度想定される物価スライド率を加味すれば、それぞれマイナス1.1%、マイナス0.8%となります。

 

「5年で解消」を主張する根拠は、11月25日の日経新聞記事によれば

「ギリギリのところで生活している人には、年金減額は大きな影響がある」

という点にあるそうです。

「ギリギリの水準」とは具体的にいくらを指すものなのかは不明です。

仮に国民年金のみ満額支給のケースを「ギリギリ」と想定してみます。

すると、平成23年度価額で788,900円です。

月額では約65,700円となります。

これの1.1%は722円、0.8%は525円となります。

「3年説」と「5年説」の差は毎月200円ということです。

夫婦とも国民年金と仮定すれば、毎月131,400円受け取るところ、

1,400円減るか1,000円減るか、という話になるわけです。

 

一方、現在「モデル世帯」とされている厚生年金の世帯受給額は月額約238,000円と設定されています。

これの1.1%は2,618円、0.8%は1,904円となります。

両者の差は約500円で、夫婦とも国民年金の場合に比べて100円多くなることになります。

 

ここまでの計算を整理すると、

「毎月数百円の差が国民の反発につながる」

という論理となります。

日常的に1食1,000円前後のランチ代をおごったりおごられたり、あるいは貸したり借りたりすることが少なくないと思います。

1週間に1回の外食機会と仮定しても、1カ月で4,000円〜5,000円程度の「キャッシュフロー」が変動する一般的な世帯に対し、国会議員は1カ月で400〜500円、1週間で100円以下の金額が投票行動を左右するとお考えのようです。

 

敏感というか、アホらしいというか、それはともかく、とかく「何%」などと数値、データを示されると、それなりに説得力を持つものです。

しかし、客観的に思えるデータだからといって、そのまま鵜呑みにするのは、むしろ誤った判断に陥る要因となってしまいます。

自分にとって身近に理解しやすい状態に変換したり、イメージしやすい程度に再計算したりすることで、データの提示に隠されたアジテーション(煽り)やミスリードに惑わされることを防止することができます。

 

【今日のポイント】

データだからと鵜呑みにすることは、既に「ワナ」にかかっている。

データだからこそ、「+」「−」「×」「÷」を上手に使って、自分でも理解できるように計算し、データを料理しよう。

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