農地確保から作付けまで

参入企業 平均20ヵ月

土壌改良が課題に

(日経新聞20122214版 経済2面)

 

【コメント】

この調査は昨年7月から12月にかけて、アンケートやヒアリングによって実施されたものです。

対象は全国の参入企業422社で、そのうち138社から回答がありました。

主な業種として建設業、食品製造業、食品卸売業などが挙げられています。

 

建設業は公共事業の縮小など経営環境が厳しくなっていることなどから、「経営の多角化」や「雇用対策」として農業に参入するケースが多いようです。

その一方、食品製造業や食品卸売業では、自社製品の原材料や販売商品として、種まきから収穫まで責任を持てるなど「本業商品の付加価値化・差別化」や「原材料の安定的な確保」を参入目的に挙げる企業が多いようです。

 

記事にあるとおり、農業参入に着手してから実際に営農を開始するまでの準備期間では、多くの企業で農地の確保や土壌改良に多くの時間と労力が占められています。

そもそも事業として順調な農家は、新規参入者に農地を提供するはずがありません。

手入れはできないが「先祖代々の土地」ということで所有し続けた耕作放棄地だったり、自分でやるには「うまみ」がない不採算農地だったりという悪条件がなければ、他人に土地を提供することなど考えないでしょう。

いずれにしろヤセた荒地を収穫可能な肥沃地に変えていく作業から始めなければなりません。

このため採算面では「開業費用」がかさみ、ゼロからのスタートどころか「まずマイナスを回収することが第一」となりがちです。

これでは農業の国際競争力どころか、既存の国内農家と比較してもハンディキャップを背負った勝負となってしまいます。

また、とりあえず「土づくり」に専念せざるを得ない実態のため、文字どおり全くの「畑違い」から参入した建設業にとっては、作付けにとりかかってからやっと販路開拓の営業活動にヒトと時間を振り向けることができるという、半歩遅れのマネジメントを余儀なくされてしまいます。

 

さらに、賃貸借によって農地を使用している場合、契約期間が満了したときに「原状回復」という壁が立ちはだかります。

隣接する複数の農地にそれぞれ所有者がいれば、それぞれの所有者と賃貸借契約を結びます。

この結果、所有権では細分化されている農地も、賃貸借に基づく使用権では単一の事業者に集約されます。

そうなれば、スケールメリットを得るため、「あぜ道」も取り払って大規模営農をしたいと考えるのが普通の経営感覚です。

しかし、これをしてしまうと「原状回復」のために改めて測量し、境界を確定し、あぜ道を盛りなおしてから返還しなければなりません。

とても時間と手間とコストがかかるため、「それならば手を加えずに使おう」という諦めにも似た心理が働くのも無理はないでしょう。

 

このように、農業への参入にも、企業経営のいわゆる「6重苦」になぞらえられるような複数の「足かせ」があることがわかります。

しかし、視点を変えれば農業に対する意欲を高めたり、農業参入に関連するビジネスチャンスが生まれたりする余地もあるといえます。

 

たとえば、高齢のため耕作できない農家と雇用契約を結ぶことも想定されます。

農家にとって収入が収穫次第という不安定な「個人事業主」から給与という安定的な収入が得られる「農業部門従業員」として作業や農業指導に従事することで、生活の安定と社会とのつながりが得られます。

企業にとっても新規参入における課題のひとつである「農業技術の取得」に頭を痛めることも軽減されます。

 

あるいは、土壌改良などが精一杯の建設業者に対して、準備期間中から販路開拓を代行したり、農業に特化したコンサルティングをしたりといった支援ビジネスが広がる可能性もあります。

 

さらに、販路拡大の解決策として自らが販路となる支援ビジネスも考えられます。

原材料や販売商品として仕入れ、ネットを活用して通信販売をしたり、共同購入システムを構築したりといったスタイルも想定可能でしょう。

 

TPP(環太平洋経済連携協定)問題から農業の方向性に対する注目が高まっていますが、行き過ぎた不安や非現実的な積極プランから少し距離を置いて、農業(第一次産業)は製造業(第二次産業)や小売・サービス業(第三次産業)とは異なる特殊な分野という垣根を取り払う必要があるでしょう。

 

【今日のポイント】

「農業は特別」という先入観から離れてみると、メーカーの顔や小売業の顔も見えてくる。

特別視しなければ他の業界と当然のように行なっている提携や共同事業のヒントも見えてくる。

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