ドラマチック劇場 はじまり・・・
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今年の夏も皆生トライアスロンのスタ−ト地点で迎えた。
185キロも先にあるゴ−ルがつかみ取れるかどうか全く分からないが、そこがどんなに素敵な所かは容易に想像できた。
最も手に入れたい場所は、限りない可能性でもって遥かかなたにあった。そこに力の限り走って行くのである。
ウェットス−ツに身を包んだ黒い集団が海へと移動を始める。目指すものは互いに違えど志は同じ、思いは遥か先にあるのである。これからの苦しい道のりを前にしても、背中には凛とした強さが漂う。
水に入ると一瞬のひやりとする感覚が不安をかき立ててくる。中途半端じゃ終わらない、夢の如くは過ぎ去らない。その長い時間への不安が一気に襲いくる。周りは力強く溢れんばかりのパワ−をたたえている。自らの不安を打ち消す手段は全く無い。信じるのは己であり、今最も弱いと感じるこの自分なのである。
一分前の合図がしんとした旋律で貫く。張り詰めた空気が全てを包んで行く。もう後戻りは出来ない。進むのである。今は見えないゴ−ルを目指そう。瞳を遠くに投げ、祈る。これから開く扉の向こうにあるものに、恐れず向かって行けるように・・・襲いくる全てを乗り越えて行けるように・・・全てが消え、静寂が包む。
号砲がその静寂を打ち破る。さあ行こう、砂を蹴って体を海へと躍らせた・・・
我が息子、Kの障害というものに嫌でも向き合うこととなったのは、この直ぐ後のことでした。
あなたは運命や奇跡を信じますか?
ある日その青い使者は私の前に現れ、随分と長い間私に視線をなげかけ続けたのです。
誰かが落として行った忘れ物。普通ならとっくに処分されている。なのにずっと置いてあったその忘れ物。
そして遂に手にとったあの日から動き出しました。
奇跡的とも運命とも思えたその使者こそが、育てる会が作った『自閉症のしおり』だったのです。
血が逆流を始め、体が震えていました。小児科で自閉的傾向を指摘され、私達家族の地獄の様な日々は始まりました。
夏の終わりのまだ暑い日でした。
『涙がこんなに沢山体内で製造されているのか』と思うほど毎日涙がこぼれ、怒りと悔しさと、そして恐れと、そんなものが押し寄せてきて、食べ物のみならず空気や水や、この世の全てを拒み、吐き気と頭痛と・・・死というものが近づいてきて、どうやってこの子を殺し、自分も死ぬか。考え続けた毎日でした。家族も同様で、辛い生活がありました。
そんな中、妹の強い口調に押されて、しおりの裏に記載されてあった電話番号に電話を掛けました。夜分にかかるはずも無い電話は、なぜかつながりました・・。古いしおりの裏には鳥羽さんの電話番号が記載されてあったようです。
何を喋っていいのか分からないものの、ただ障害でない証を一つでも見つけ、楽になりたいだけのものであたのかもしれません。鳥羽さんはそんな不幸な事ではないと言われ、てっぺい君のいる今の自分や今の暮らしの方が好きだと言われました。
又、その子にはそれぞれ役割があるとも言われていました。
必ず幸せだと感じる日が来ると。障害があるかないかを探すのではなく、こんなに早く障害が見つかって療育を始められる事は幸せな事だと、とりあえず始めたらいいじゃない。そんな事を一生懸命言われていました。
でもそんな世界で生きることなんてまっぴらでした。初子、初孫、うちのエースなのです。それでもその話や力強さは何だかその日をつなぎ止めてくれました。それからもKの健常児としての部分を探す為に色んなことをやり、保育園にも無理を言って入園しました。親の満足を手に入れるために・・・
無論まだ小さく、慣れないKは精神的にも疲れ果て、体調も悪くなり殆どを自宅で過ごしました。怯えた目や後退してしまった成長だけが残りました。辛い毎日でした。
秋風が吹き始めたころ、診断を受けました。まだ二歳を過ぎたばかり、テストも熱で出来ず。はっきりとした告知にはなりませんでしたが、おそらくそうだということでした。辛いと思っていた告知でしたが、意外にも私たちは楽になりました。もうそうでない事を探し、頭を痛めることはない、進むべき道が示されたようでした。
何が幸せかって?それは自分自身が感じるものであって、人に左右されるものではないし、人が羨む幸せをつかんでやる!
運のいい私、いや運がいいと感じれる私。
今度だってしおりが降ってきたし、初めて行った相談室で、ダウン症の子を連れた大学の友人に、卒業以来にして会ったのだ。
彼女にも随分助けてもらっている。運は私を見放さない!!
先日太陽の家に出向き、入会させて頂きました。初めて会う鳥羽さんやYさん、事務局の佐藤さん。まだ数人の方にしかお会いしてはいませんが、その強烈なるパワ−と明るさ、この会の中でならもしかしてやっていけるのかもしれないと思えました。少しずつ向き合えるようになってきたつもりです。だけど同じくらいの小さな子を見ると涙が出る日も多いのです。外見に似合わない思いがけない自分です。
あの海を泳ぎ、長い坂道を上り、灼熱の長い道を走りきってこそ得られるものがあったように、立ち向かわない者に開かれる扉はないのかもしれません。目の前を恐れてスタ−トしなければ又あの幸せも見えてこないのです。今追い風を信じて砂を蹴り前に進もう!みなさんの中でならやれるのかもしれません。みなさんの元気を吸い取りながら・・・
一応報告ですが、この夏の皆生の結果は・・・熱射病と胃けいれんと闘いながらの長い一日となりましたが、制限時間の間際に計ったように戻ってこられました。点滴まで受ける散々なレ−スでしたが凄く幸せでした。あきらめなかったことで、私は幸せを引き寄せることができました。支えてくれた人達に感謝しつつ、Kと共にこの体力としつこさでがんばりたいものです。