吉田 英生
保育園での話。
先生は、発表会にむけてペープサートで「ジャックと豆の木」をやろうと思いました。さっそく、子どもたちを前にして一生懸命作った紙人形を使い、お話を始めました。
「ジャックは、お母さんの言うことを聞かず、仕事もしませんでした。・・・」
最初のうちは、静かな始まりでした。
「ジャックは、ニワトリさんと話した後、豆の木に登っていきました。」
そのうちに、たくさんの動物人形が登場してきますが、先生はひとり。当然、ステージで見せていた人形のうちいくつかは、その場に置いて次の情景を演ずることになります。
『先生、ニワトリはどこ、行ったん。』
『先生、僕んちなー、ニワトリがおるんで。昨日な、卵生んだんで。』
「うんうん、じゃあ、次にいくからな。ジャックは、空に向かっていきました。」
『犬がおらんで。どこにおるん。』
「ここに置いてるでしょ。」
『犬はこわいけん、いけん。』
次々に、犬についてのおしゃべりが始まり、にぎやかになっていきます。
「何を言ってるの。話が全然前に進まないじゃないの。」
結局先生は、怒ってしまいました。
自己表現がよくできる子。
思ったことを素直に言える子。
頭に浮かんだことはすぐに口をついて出る子。
思いつきがすぐ口に出る子。
場をわきまえぬ、勝手な子。
教室での話。
授業中、子どもが聞いてきます。
『鉛筆をけずっても、いいですか。』
「鉛筆は、いつ削っておかないといけないの。」
『休み時間です。』
「鉛筆はほかにあるの、ないの。
『あります。』
「じゃあ、今削らないといけないの。
『削っては、イケマセン。』
でも、1行書いたら、また、聞いてきます。
『鉛筆をけずっても、いいですか。』
尖った鉛筆でないと、書いた気にならないようです。
けずらない方がよいとわかっていても、聞かずにはおれません。
自分の思いがきちんと言える子。
教えられたことをきちんと守る子。
同じようでなくては気がすまない子。
思いがすぐに口をついて出る子。
場に応じた対処が苦手な子。
待つ、考える、周りを見るということが、苦手な子どももいますが、絶え間なく動いたり、しゃべったりする子どもを、一度立ち止まらせ、見るべきもの、聞くべきことば、考えるべきことを感じさせることは大切です。
自律は、自らをコントロールできること。自分を見失わずに、周りの人を感じながら場や状況の中に、自分を広げていかなくてはなりません。
最初は、だれかに叱られたり、注意されたりして学ぶ自律。
「ダメ、今はけずってはいけません。ほかの鉛筆を使いなさい。」と叱り、違う方法を教えてあげることが大切な時期があります。
しかし、いつまでも叱られないとできないのではダメですから、「アレー!まだ、ケズッテイイデスカなんて言ってるの?」とけん制されて思考を切りかえることができればたいしたもの。
「アレレ、」なんて言われなくても、心の中で「削ろうと思ったけど、ほかの鉛筆を使ったらいい」と考えることができるようになれば、りっぱなお兄さん、お姉さんではないでしょうか。こだわりに振り回され、パターンに逃げこむことから一歩踏み出した暮らしが見えます。
自立を考えての子育ては、できることを増やしていくことも必要でしょう。
ひとりでできることを増やしていくと同時に、できないことをたくさんの人に知ってもらい、できないことがあっても周りの人の援助を得てやっていくことも自立です。
自律も自立も社会の中へ、分を広げていく営みです。
あの保育園では、無事、ジャックが豆の木に登るところまでお話は進んだのでしょうか?
最後に、「ジャックは、お母さんの言うことを聞く、働き者になり、幸せに暮らしました。」となるのが、「ジャックと豆の木」のお話です。