『 自閉症の評価 診断とアセスメント 』
E.ショプラー、G.B.メジボブ:編著 田川 元康・長尾 圭造:監訳
黎明書房 定価:12000円+税 ISBN4-654-02068-3 C3047 ¥12000E
自閉症においては、その診断とともに評価(アセスメント)が大切だという話はよく聞きます。親として心にもっとも残っているのは、最初の診断・告知の方かもしれません。
でも、本当は、本人の将来を考えるならば、より大切なのはその際に行われるべき評価ではないでしょうか。
ただ、通常の診断において、そのまま引き続き評価まで一気に行われる家庭は少ないと思います。親として、子どもの障害を受け容れるまでは、どうしてもある程度の時間と覚悟が必要だと思うからです。(我が家もそうでした)少し気持ちが落ち着いて、これからのことを考えられるようになってから、評価のための予約を入れるとというのが現実的な姿だと思います。本書は結構分厚くて(541P)読み応えのある本ですが、自閉症にとって評価の持つ意味の大切さを、改めて認識させられた、という意味でお薦めできる参考書だと思います。
障害を持つ子どものアセスメントは、それぞれの子どもの強いところと弱いところを注意深く調べることから成っている。そして、アセスメントの目的は、その子どもを理解し、その子に最も適している個別の教育プログラムを立てることにある。
個別的配慮をとりわけ要する自閉症児にとっては、注意深いアセスメントがきわめて重要であり、事実なくてはならないものである。誰にとっても、学習のための個別的アプローチが有効なことは明白だが、自閉症児はそれなくしてはうまく能力を発揮できない。したがって、一人ひとりの子どもの特異な学習スタイルを見極めるよう計画されたアセスメント方法が必要になってくる。
(第17章 「教室でのアセスメント」より)
同じ自閉症児といっても、一人ひとり大きく違っていることは、みなさんも気が付かれていることでしょう。我が子に適した療育計画は、その前提に正しい評価を必要としています。
眼鏡をかけられる前に、視力検査をされない方はいらっしゃらないと思います。自閉症児にとってはその能力のばらつきは、度数の違いという以上に、老眼・近視・乱視ぐらいの差があるのかもしれません。本書では、そのアセスメントの技法や、それぞれの果たす役割などについて具体的に書かれています。
また、アセスメントという言葉の中には、本人の能力の評価ということ以外にも、周囲の状態や将来の行動の予測や、支援の成果の評価という、広い意味が含まれると思います。
本書でも説明されている各種の発達検査で、本人の強いところ、弱いところがわかったあと、ではその弱いところにどうアプローチしていくかということも、評価の大切なところでしょう。適切な働きかけによってその能力を伸ばしていこうというボトムアップ的な療育を目指すのか、あるいは周りからの支援によってその能力のままで将来も暮らしやすい環境をつくっていくというトップダウン的な方向を目指すのか・・・・
発達検査の評価の表を前にして、親と専門家が将来の子どものために計画をたてあうこともアセスメントの大切な役割だと思います。特に子どもが小さいうちは、発達というものが大きな要素となるので、それぞれのスキルを詳細に検討していくことが必要となってきますね。その際、親もその評価法のもつ意味をある程度知っておくことも話し合いの助けになると思います。そのためにも参考になる一冊だと思います。
(「育てる会会報 76号」 2004.8)
目次
序文
謝辞
執筆者一覧
T 序論および概観
第1章 自閉症の診断とアセスメントへの序文
エリック・ショプラー、ゲーリー B.メジボブ
1 はじめに
2 フォーマルな診断的評価の誤用
3 フォーマルな診断とアセスメント、インフォーマルな診断とアセスメント
4 序論と本書の概要
5 診断に関する問題
6 一般的なアセスメントの問題
7 特別な問題
第2章 自閉症と広汎性発達障害 − 概念と診断上の問題
マイケル・ラター、エリック・ショプラー
1 はじめに
2 自閉症候群の独自性と妥当性
3 自閉症の診断基準
4 基本的障害の本質
5 評定法
6 自閉症の境界
7 自閉症候群における病因的多様性
8 結び
第3章 公的政策とそれが自閉症児に及ぼす影響
ジェームズ J.ギャラハー
1 はじめに
2 政策の成立に影響を与える力
3 専門家に対する政策の影響
4 将来の政策ニーズ
5 政策を提案する必要性
第4章 臨床家のための診断分類
ジョン S.ウェリィ
1 はじめに
2 なぜ分類するのか
3 適切な分類の特性
4 適切な分類に到達する方法
5 分類を分類すること
6 一般に使われている分類 − 概観
7 どの分類か?
第5章 その名が示すものは
マリー S.アカーレイ
1 はじめに
2 親たちの言い分 (お前じゃない)
3 子どもの安堵 (ぼくじゃない)
4 専門家の用具 (さあ、始められる)
U 診断についての諸問題
第6章 小児期自閉症の分類と診断
フレッド R.フォルクマー、ドナルド J.コーエン
1 はじめに
2 分類
3 自閉症および関連障害の分類についての議論点
4 症候学的問題と分類
5 その他の診断方法
6 合意と論争
7 まとめ
第7章 自閉性障害の集合体
ローナ・ウイング
1 はじめに
2 自閉性障害集合体の要素
3 障害と能力のパターン
4 他の発達障害との関連
5 名前のついた症候群はどの程度特異的であるか
6 臨床上の意味
7 標準化された診断体系
8 将来の研究
第8章 他軸診断によるアプローチ
デニス P.カントウェル、ロリアン・ベイカー
1 はじめに
2 分類の理論的根拠
3 分類体系の種類
4 DSM−V 他軸診断システム
5 まとめ
第9章 自閉症児のアセスメントのための心理測定法
スーザン L.パークス
1 はじめに
2 自閉症のために考案された診断法
3 治療的介入の計画に対する診断
4 標準化テストの利用
V 一般的なアセスメントに関する諸問題
第10章 自閉症の行動アセスメント
マイケル D.パワーズ
1 はじめに
2 自閉症の児童と成人への行動アセスメントの特徴
3 行動アセスメントの利点
4 自閉症の行動アセスメントのための枠組
5 行動アセスメントの方法
6 自閉症の行動アセスメントにおける諸問題
7 結び
第11章 就学前および学齢期自閉症児の知能アセスメントと発達アセスメント
− 二つの追跡調査に見られる臨床的意義
キャサリン・ロード、エリック・ショプラー
1 はじめに
2 被検児について
3 自閉症児と非自閉症児の違い
4 アセスメントの年齢と IQの予測可能性・安定性との関係
5 年齢および発達水準と IQの予測可能性・安定性との関係
6 IQの変化と言語水準の変化との関係
7 IQの範囲による言語水準の変化の予測
8 同一検査間および異なる検査間の IQ得点の関係
9 結びとまとめ
第12章 生活環境の質についてのアセスメント
マイケル L.ジョーンズ
1 はじめに
2 行動参加の重要性
3 行動参加と環境の質
4 参加的環境のプログラミング
5 まとめ
第13章 家族アセスメント
サンドラ L.ハリス
1 はじめに
2 家族アセスメントのための構成
3 家族面接
4 家族と子どもの相互作用
5 個人機能のアセスメント
6 家族システムのアセスメント
7 社会的援助のアセスメント
8 まとめ
第14章 栄養と発達障害 − 臨床的なアセスメント
ダニエル J.ライテン
1 はじめに
2 栄養学的アセスメント − 理論
3 食事のアセスメント − 問題点
4 生化学的アセスメント − 問題点
5 結び
第15章 青年・成人自閉症の診断とアセスメント
ゲーリー B.メジボブ
1 はじめに
2 診断
3 アセスメント
4 まとめ
W 特別な課題
第16章 自閉症の診断と下位分類 − その概念と方法の開発
マイケル・ラター、アン・ルクトール、キャサリン・ロード
ホープ・マクドナルド、パトリシア・リオス、スーザン・フォルスタイン
1 はじめに
2 新しい診断技法
3 社会情緒的手がかりの理解と表出
4 結び
第17章 教室でのアセスメント
ゲーリー B.メジボブ、マリアン・トロックスラー
スーザン・ボズウェル
1 はじめに
2 なぜアセスメントを行うのか
3 何をアセスメントするか
4 特有の欠陥、個々の子どもの強いところと興味
5 家族のニーズ
6 長期的なニーズ
7 カリキュラムの領域
8 事例
9 結び
第18章 就学前幼児の診断とアセスメント
リンダ R.ワトソン、リー M.マーカス
1 はじめに
2 診断
3 アセスメント
4 臨床への示唆
5 結び
第19章 低機能児のアセスメント
ナンシー M.ジョンソン−マーチン
1 はじめに
2 アセスメントにおける問題点
3 アセスメントの問題を解決するためのアプローチ
4 臨床的実践への提案
監訳者あとがき
参考文献
人名索引
事項索引