sorry,Japanese only

『 情緒発達と抱っこ法
      
赤ちゃんから自閉症児まで
J.アラン:著 阿部秀雄:監訳 石田遊子:訳
風媒社 1036−0912−7302 定価:2200円+税

昔、息子が自閉症と診断されて日の浅い頃、“自閉症”と名がつくものは闇雲に購入して読んでいた時代に、学研の黄色い表紙のシリーズでの「抱っこ法入門」(阿部秀雄:著)を読んで、イマイチ納得できなくて、もう少し抱っこ補の背景について知りたくて購入した本です。
前述の本が、自閉症を過去の外傷体験と関連づけて説明し、「唯一それを改善するのが抱っこ法である」と主張しているのに対し、本書はあくまで学究的に臨床体験から、「効果があった」という事実のみを解説していました。
その当時の専門家としての真摯な姿勢には、抱っこ法が本当に自閉症児の救いになるかどうかは別にして、その取り組みに敬意を表したくなる一冊でした。
著者のJ.アラン博士によって、本書の各章の論文が発表されたのは1970年から
1976年で、それを基に第1章の「障害児と抱っこ法」」が手引きとして書き下ろされたのが1983年です。
まだ自閉症の原因についてもまだ一致した見解が少ない時代に書かれた本書です。したがって当時「一般に認められている」と書かれている項目にも、今では「ちょっと違うのでは」と言いたくなる徴候もあります。
例えば「主な特徴として重度な情緒的対人関係障害 − 重度の言語障害、儀式的で常同的な遊び、秩序の変化への対応」「女子よりも男子の方が多い」「重度自閉症から、軽度自閉症まで、症状の重さはさまざまである」・・・などは、今もあてはまる項目でしょう。一方で「両親は社会的地位もあり、教育的、知的レベルも高いことが多い」「第1子が第2子以下よりも多い」などは、現在では認められない徴候だと思えます。
これらは、この論文が書かれた当時の考えの一端を表しているので、ある意味やむをえないと思えます。
また自閉症についての原因も、器質論から、器質・心因折衷論、心因論と各論を主張する専門家が混在していた時代です。
その中でも筆者は原因論に捉われることなく、自閉症児の観察を行い統制群との比較の中で、
「自閉症児は、回避を特徴とする一連の行動を発達させる」
「正常児にとっては不安を少なくする対人接触が、自閉症児にとっては不安を高める」
などさまざまな分析を行なっています。その分析の内容の多くは、発表から35年経った今も納得できるものが多いと感じました。
一方で、抱っこ法の実践者としては、この療法が「扱いにくい赤ちゃん」に効果があったと述べています。
ここで筆者のいう扱いにくい赤ちゃんとは、吸う、泣く、目を合わせる、しがみつく、要求するなどの行動が弱く、また極端に高すぎたり低すぎたりする覚醒水準や異常な筋緊張を示す赤ちゃんのことだそうです。
また、この扱いにくい赤ちゃんの範疇はこう述べられています。
私が実際に多くの家族と接した経験では、愛着を阻害し、放っておけば不適応行動に導く要因として、主に次の4つが考えられるようです。
  (1) 「扱いにくい」赤ちゃん
  (2) 外傷体験 −病気、入院、親子分離、両親の死亡や離婚など
  (3) 弟妹の誕生
  (4) 両親の側の育児能力の欠如
ここでは、このうち「扱いにくい赤ちゃん」の場合についてだけとりあげます。
確かに、自閉症児は幼い頃には、この「扱いにくい赤ちゃん」にあてはまることが多いでしょう。そして筆者はこの扱いにくい赤ちゃんと、外傷体験を持つ子どもや・弟妹の誕生にあって不適応行動に陥る子どもたちをはっきり分けて考えています。
つまり、日本では自閉症が引きおこされたのは、乳幼児期の外傷体験であり、それを心の奥から引き出して心理治療を行なうのが抱っこ法であると主張されているのに対し、筆者は抱っこ法は臨床的に自閉症や内向的なこども、場面緘黙や多動な子ども分裂症の子どもに効果があったということだけ記しています。日本では受容療法などと結びついて心因論に基づく治療法として紹介されたため、このあたりが歪められて伝えられた部分があったのかもしれませんね。
確かに抱かれたり接触されたりするのが嫌いな自閉症児は多いのですが、一方でテンプル・グランディンさんの「締め付け機」の例のように、しっかりホールドされることで気持ちの安定を得る子ども達もいるかもしれません。
今、本書を改めて読み直してみて、心因論に基づき外傷体験などという心理的トラウマを無理やり関連づけて、強制的に引き出そうそうとするのではなく、弛緩のための抱っこ、快のための抱っこなどを駆使して、正しい行動を教えていくという本来の抱っこ法はもう一度見直されてもいいのかも・・・そんな印象すら覚える本書でした。
(2008.6)

  目次

  監訳者まえがき
  日本語版刊行に寄せて
第1章 障害児と抱っこ法
はじめに
抱っこ法の歴史的背景
抱っこの姿勢と留意点
対話の方法
行動表現
第2章 「扱いにくい赤ちゃん」と抱っこ法
3歳までの愛着行動
愛着の絆が弱くなったり切れてしまったりする原因
「扱いにくい赤ちゃん」の治療
まとめ
第3章 自閉症児の行動特徴
文献の概観
研究の目的
研究の方法
研究の結果
考察及び結論
まとめ
第4章 抱っこ法による自閉症児の治療事例
方法
結果
考察及び結論
まとめ
第5章 抱っこ法による分裂症児の治療事例
治療を開始した頃の行動
幻想ごっこでの行動
問題解決
考察
まとめ
  論文初出一覧
  著者紹介

「お薦めの一冊」目次へ