sorry,Japanese only

『自閉症とその関連症候群の子どもたち
   
       学級・セラピーの現場でできること

ジョアンナ M.アンダーソン:著 小越 千代子:訳 協同医書出版社
定価:2000円 + 税 
ISBN4-7639-4007-4 C3047 ¥2000E


自閉症児にとって、環境を構造化することが大切、というのはもう周知のことと思われますが、一方で「取り組んでみたがうまくいかなかった」という話も耳にします。
確かに教室をついたてで仕切ったり、スケジュールを絵カードにして並べただけでうまくいくとは限りません。(でも、時にはそれだけで魔法みたいに安定する子もいるのも事実ですが・・(~_~;)・・)

一つには、「目の不自由な子がメガネをかけたとしても、それだけで文字が読めるようになるわけではない。それはただ文字が見えるようになっただけである。」(・・・たしか、坂井先生の講演会で聴いたお話し・・)ということがあると思います。実際の使い方はこれから覚えていく課題なのでしょう。

そして、もう一つ、こちらから与えた、あるいは示した環境・刺激が本人に的確に伝わっているのか、という問題があります。

いくら、他の刺激を遮断するつもりで持ち込んだパーテーションであっても、肝心の目の前の机が、前に使っていた子が名前を彫っていたり、落書きしたりしていて、そっちの方に気をとられているかもしれません。

左側に置かれた箱にきれいに課題が並んでいたとしても、天井の蛍光灯のチラツキに耐えられなくなっているかもしれません。

耳を押さえてうずくまっているのは、カードに示された次の教室に行きたくないのではなく、教室の古いスピーカーから流れてくる 割れたような朝の音楽のせいかもしれません。

本書はそんな、本人の感覚に注目して、自閉症児への援助を考えようという本です。

従来から、彼らが五感において 過敏すぎたり、逆に鈍感だったり・・・ということは、親であればみんな気づいていたことだと思います。でもそれをどう捉えるかということについては、感覚統合訓練に通っている時の他は、「そんなものかな」として、日常生活の中で多少の配慮をするぐらいで済ましていたのではなかったでしょうか?
でも、療育の場面 本書でいう「学級・セラピーの現場でできること」という観点から、もう一度この問題を見つめなおす必要があるのではと痛感させられました。

特に、学校で実際に指導にあたられている先生に読んでいただきたい本です。
本書に載っている「感覚環境チェックリスト」、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚と触圧覚・運動についての、チェックとその対応については、ぜひ一人ひとりの子どもについて もう一度見直していただきたいと思います。このページはコピーライト(販売目的でなく指導目的であればコピーOK)となっていますので、コピーして個別に使っていただきたいと思います。

また、その支援も具体的で豊富な内容となっています。
たとえば、先の例でいいますと・・

「背景とのコントラストをつけるために、丈夫で濃い色の工作用の紙をランチョンマットのように机に置く。取り組むべき課題をその上に置くと、子どもには見やすくなる」

「電球が点滅して交換すべきなのにすぐに取り替えられない場合には、電球自体を取り外す」
「子どもが動揺するかもしれないので、照明を見上げなくてもすむように、子どもの目の高さになって対応する」

「もし安全に実行することができれば、教室内や廊下のスピーカーは何かで覆って音を小さくする。ただし、スピーカーから聞こえてくる内容は理解できるようにしておくべきである」

・ ・・などなどです。

当たり前といえば当たり前、また自閉症だけでなくADHDなど他の障害の児童にも有効なアドバイスですが、時として行っている授業内容や課題の方に気をとられて、見過ごすこともある注意点だと思います。
専門書に属するので、厚さ(90P)の割りに、少し高く感じられるかもしれませんが、その内容は充分過ぎるほどだと思います。
特に学校現場において有効に活用されることを願っています。

「会報 72号」 2004.5)


  目次

著者紹介

はじめに

第1章 感覚に対する反応への働きかけ

感覚環境
  感覚環境チェックリスト
症例:学校における感覚環境の調整

第2章 感覚栄養

  感覚栄養表
  年長の子どもたちの感覚栄養表
  個人の感覚嗜好
  個人の感覚嗜好の例
症例:レクレーションに適した感覚の好みを理解する
  自己調節の方法を教える
症例:社会に出たときの自己調節方法の利用

第3章 感覚運動刺激

幼稚園の自閉症児学級での活動例
小学校低学年の自閉症児学級での活動例
普通学級での活動例
家庭での活動例
  幼稚園の自閉症児学級におけるSMCの例

第4章 運動能力をつける

食事
  食事と自分で食べることのチェックリスト
更衣
  更衣動作のチェックリスト

第5章 活動

活動
  粗大運動(大きな筋肉の動き)
  腕と手のコントロール
  指先の動きと巧緻性
  知覚運動能力を高めるための技術
  教室内での技術

おわりに

文献

訳者あとがき


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