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『 発達障害のある子の困り感に寄り添う支援 』

佐藤 暁:著 学研 定価:1800円 + 税
ISBN4-05-402503-X C3337 ¥1800E


岡山で発達障害のある子どもをお持ちの保護者の方なら、すでによくご存知の岡山大学の佐藤暁先生の書かれた待望の本です。
佐藤先生は、主に普通学校を中心に、個別学級や普通学級に在籍する発達障害児の支援のために各学校を巡回指導されていらっしゃいますので、個別にお世話になった先生方もおられるのではと思います。
この本も普通学級にいる軽度発達障害を持つ子をどのように支援していくか、という視点で書かれています。

したがって読者も学校現場の先生方を想定されていますが、保護者としても学校と連携・協力していくためには、我が子の障害だけでなく、"クラスの中で" 我が子の暮らす位置やその特性をどう理解してもらい、どんな支援を考えていかなければならないのか、という、一歩引いて全体としてクラスを見る視点の大切さを知ることができる本だと思います。

本書の中では、佐藤先生は 「困り感」 という言葉で、子どもへの支援の元を考えておられます。
障害のあるなしにかかわらず、クラスの中にはその「困り感」をもって生活する子どもたちが必ず何割かいて、その子どもたちのなかに高機能自閉症やアスペルガー症候群、ADHD、LDなどの発達障害をもつ子どもたちが含まれているのでは、という視点です。

もちろん、その困り感とは障害の特性によっても、個々の子どもたちによっても大きく違いますし、普通の子どもたちと発達障害をもつ子どもとの間では、質的にも程度の面でも違ったものがあります。でも、発達障害の子どもたちに役立つ支援は、障害をもたない子どもたちの困り感にも助けになることが多いと思います。
本書ではそんな観点から、前半では事例ごとに困り感をもった子どもをとりあげ、「どう理解したらいいか」「支援の手だて」というような形で、個々の子どもの特性に合わせた支援の実例やヒントを、そして後半では教室全体を考えての支援の方法を提示されています。

クラスに数人、立ち歩く子どもがいるというので教室を訪ねると、深刻な学級崩壊に陥っていることがある。すぐに、学級経営の立て直しを提案する。
ところが担任は、「それよりも、この子たちを落ち着かせる手立てはないのか」と訴える。気持ちはよく分かるのだが、こういう場合その子たちだけに手を打ったのでは、問題は解決しない。
一方、担任による巧みな集団づくりによって、子どもが見違えるほど生き生きすることがある。そういう事実を、筆者はたくさんの教室で見てきた。

簡単に、「集団の力」と言って片づけないでほしい。それを支えているのは、ちみつな計画と細かに配慮された手立てに裏打ちされた学級経営なのである。
「個別支援」と「学級経営」は、車の両輪のようなものである。始まったばかりの特別支援教育ではあるが、この視点はもっと強調されて良いのではないかと思う。

本書で紹介されている個別の支援の手だては、コラムでも紹介されているように物理的構造化、視覚的構造化、ワークシステムのようにTEACCH的手法に基づくものが多いのですが、筆者の訴えたいのは、個々の支援ももちろん重要ですが、学級団全体、あるいは学校全体で支援を行っていくシステムの大切さのように思われました。

最後の章は「組織的支援の手続き」として、特別支援教育における校内委員会やケース会、個別教育支援教育などにへの考察とアイデアが盛り込まれています。

教室を訪ねて感じたのは、子どもたちの表情が、自信と安心感に満ちていることだった。もちろん、発達障害のある子どもも例外ではなかった。
なぜだろうと思いつつ、周囲を見回した。
古い建物なのだが、廊下がとてもきれいである。どの教室の前にも、掃除用具が整然と並んでいる。札がかかっていて、用具ごとに数をチェックするようになっている。掃除は縦割りでしていて、他にも朝読書をはじめ学校全体で取り組んでいる活動がいくつかあるとのことだった。どれも三年前から始めたのだという。

この学校は、学校全体が「構造化」されているようなところがあった。やるべきこととやり方がはっきりと示されているから、どの子も何をしたらいいのかがよくわかる。互いがモデルになりながら、子どもたちが育ち合っている。

「組織的支援」の重要性が強調されている。特別支援教育コーディネーターや校内委員会を設置することはけっこうである。
しかしより大切なのは、学校の教育活動全体を組織化することではないだろうか。「組織的支援」には、「個の子どもの支援にかかわる組織化」と「教育活動全般にわたる組織化」の両方が必要である。このことが、この本を送り出す現時点で著者がたどり着いた、とりあえずの結論である。

息子が自閉症の告知を初めて受けた10数年前には、岡山の学校現場には自閉症への支援はほとんどと言っていいほど何もありませんでした。今、その岡山での教室の実践がこうして本で全国に紹介されるまでになりました。

それには、岡山の隅々まででかけて自閉症の特性に応じた支援の大切さを辻説法して歩かれた佐々木正美先生や、その子たちを先生たちが組織的に支援するためのアドバイスに各学校を廻られている佐藤暁先生の力が大きかったと思います。

この本で紹介された教室が岡山でのスタンダードとなるように、また普通学級の軽度発達障害の子どもたちだけでなく養護学校や個別学級の重度の発達障害の子どもたちにも「組織的支援」が行われるようになることがこれからの課題ではないでしょうか。
特に個別学級の子どもたちは、"個別"という名のもとで、担任の力量に全てが依存され、先の「組織的支援」の両方ともが充分に行われていない気がします。

特別支援教育に移行後も、この子たちが切り捨てられることなく、個別に、かつ組織的に支援が行われるよう願っています。その意味でも、本書を普通学級の先生方だけでなく、自閉症児に関わる全ての方に読んでいただきたいとお薦めします。

「育てる会会報 78号」 2004.11)


  目次

第1章 発達障害のある子どもの「困り感」とその背景に気づく

子どもの「困り感」と発達障害
子どもの「困り感」とその背景

コラム ● 「困り感」を見逃さないために

第2章 支援の手立て(1) 教室でできる支援の手立て

担任による個別的配慮
補助者が加わった個別支援
ユニヴァーサルデザインを利用する

コラム ● 構造化

第3章 支援の手立て(2) 教室内のトラブルへの対応

トラブル解決のポイント
立ち歩き・エスケープ
人間関係のトラブル
パニックのときに

第4章 支援の手立て(3) 学びを支える個別支援

別室での支援を始める前に
学びを支える個別支援 ― 書くことの指導
学びを支える個別支援 ― 読むことの指導
学びを支える個別支援 ― 数を操作することの指導

コラム ● 漢字を組み立てる十の画

第5章 支援の手立て(4) 生活を支える個別支援

生活を支える個別支援が必要な子どもたち
生活を支える個別支援 ― 必要な力を身につけさせる
生活を支える個別支援 ― 生活に見通しを持たせる
生活を支える個別支援 ― 教師の期待を伝える

第6章 支援の手だて(5) 崩れた学級を立て直す

低学年における学級崩壊の実態
立て直しに着手する前に
当面の手立て ― 担任による立て直し
当面の手立て ― 応援を借りた立て直し
学級集団を育てる

コラム ● 子どもの目から見た学級崩壊

第7章 保護者とともに子どもを育てる

子どもを学校に通わせる保護者の思い
保護者面談の進め方
子育てのパートナーとして

コラム ● サポートブック作成のポイント
コラム ● 親から学んだ子育てのヒント

第8章 周りの子どもとその保護者への対応

周りの子どもに対して
クラスの保護者に対して

第9章 組織的支援の手続き

組織的支援に着手する
校内の子どもの実態を把握する(「気づき」の段階)
組織的支援を計画する(「計画」の段階)
組織的支援の実践にあたって(「実践」の段階」)
組織的支援を支える取り組み
組織的支援のアイデア

コラム ● 学校の課題を知るためのチェックリスト
コラム ● 校内委員会と特別支援教育コーディネーターの役割

あとがき


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